第14話
第14話
リビングのソファに腰掛けていた秋篠綺捺は、己が膝に眠る宝物を満足気に愛でていた。
散乱したゴミ袋で踏み場を失ったその部屋は、分厚い遮光カーテンで外界との繋がりを断ち切られ、乾燥する時期だというのにジメジメした空気感が漂っている。
「えー、またぁ〜?」
玄関の方から来客を知らせるチャイムが鳴り響いた。
「さあちゃん...アタシ、ちょっと出てくるから...ちょっと待っててネ♡」
綺捺は甘い声でそう告げ、リビングを後にする。
廊下はゴミやその他の雑貨で埋め尽くされつつも、最低限通過できる程度には整理されている。と言っても、上から順に壁際に寄せているだけではあったが。
そんな廊下を飛び跳ねる様に楽々くぐり抜けた綺捺は、玄関の厳重に施された鍵を一つずつ開錠し、プレート型のドアノブに手をかける。それと同時に、入り込む冷たい隙間風に身震いをする。
「マジで寒すぎぃ...これで野暮用だったら、流石にアタシ切れちゃうカモ...。」
全開した扉の先にいたのは、彼女のよく見慣れた顔だった。
140cm強の綺捺であれば見上げるほどの高身長、そして赤茶のカールがかったロングヘア。
「あーなんだ、みーちゃんか...。もうみーちゃんにはキョーミないから、帰っていいって言ったじゃん?...ナニ?忘れ物でもした?」
「...。」
美咲は彼女の声に一瞬ピクッと肩を震わせたものの、表情をほぼ崩すことなく依然毅然とした態度を維持していた。
「どったの?用ないならハヨ帰ったらいかが?...あっ、ハハッ......いつ帰るの?今でしょ?!つってなァ!ぎゃっへへへぇ〜。」
こちらもまた余裕の態度を見せ付けるため、アヒル口に目を細め、どこぞの現代文講師の如く両手を前に差し出す仕草で煽っている。
「...。」
「あーれ?怒った?怒っちゃいまちたかぁ?あぁ~かわいそーでちゅねぇ〜、誰にやられたんでちゅかぁ~...あ、アタシか、ギャヒェヘヘヘヘヘェ〜。」
綺捺はこれまた憎たらしい表情で美咲に迫り、彼女の耳元でそう告げる。依然美咲の態度は変わらない様に見える。綺捺はそんな彼女につまらなくなってきたのか、一度表情を暗くした後、空いていた自身の右手人差し指を突き出し、彼女の胸元に押し当てようとした。
綺捺の指が眼前の少女の身体に触れようかとしたその時、これまで沈黙を貫いていた美咲が口を開いた。
「...な......い綺捺さん。」
「えっ♪なにナニ〜?」
「ごめんなさい綺捺さん...と言ったんです、ヨォッ!!」
その声と共に美咲の右拳が勢いよく繰り出された。
放たれた右拳は、憎たらしい表情をした綺捺の顔面を正確に捉えた。
「なぁにしてんだぁ”ぁ”?ごらぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”!!」
ダメージはなかった。
激昂した綺捺の拳が振り上げられ、それと同時に彼女の片目が赤く光る。
そしてその目がグワッと見開かれた直後、美咲は己が身体の自由を完全に奪われ、その場に立ち尽くすことしかできなかった。そして、段々と美咲の意識が薄れ始め、もうじき気を失おうかとしていた次の瞬間、
ザァァァン!!!!
少女2人の間を物凄い勢いで風が通り過ぎた。
廊下の先には、運動靴によるブレーキ痕とゴムの焦げた様な臭い、そして明らかに健康に害のありそうな黒い煙が残っていた。
その煙に覆われ、咳き込みながら2人の元へ歩いてくる1人の青年がいた。
「ケホッ、ケホッ、えぇーい。多分成功、十中八九成功!やってやったぜ!」
1作目ほんへ(仮) はしおき @H4SaltKey
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