第13話
第13話
「...ぃ...ん......お兄さん...?」
初対面の少女に膝枕されちゃう系青年土下裕樹が目を覚ますと、さっき服を貸してあげた少女佐々宮美咲に...膝枕をされていた。
「うぁーお...おいおいおい!」
目を覚ましてから一瞬考えるがそれがまとまる前に、状況把握の段階で焦りを禁じ得ずすぐさま立ち上がる。
「美咲っち、ここはあぶねーって言ったろ?なんで、って...。」
(おいどーなってんだ、俺はさっきまでマンションの5階に...。)
彼の視線の先に映るのはマンションの正面玄関だった。
理解が追いつかず、焦りながら美咲の方を見直す。
「美咲っち、こりゃ一体...?」
「あっその...お兄さんがふらつきながら降りてきたので、心配して近づいたらバタッと倒れられて....。」
「マジか...。」
(全く記憶にねー、どういうことだ?間違いなくあの綺捺とかいうやつの仕業だろうけど..。)
そう考えていると、石段に座る美咲が思い出した様に話を切り出す。
「そういえば、お兄さんが階段を降りてくる時のあの感じ、もしかしてお兄さんも”あの娘”に何か言われたんじゃないですか?」
「”あの娘”って?」
「さっき言ってた犯人の女の子です。なぜだか分からないんですけど、あの娘の言うことには逆らえなくて、どんな...その、卑猥なこととかでもやっちゃうんです。」
(ずっと記憶操作とかだと思ってたけど、精神操作系ってことか...。操作しつつ、そいつの記憶を奪う...。いかにも犯罪向きで使用者に都合の良すぎる能力だな。まぁ、超能力ってそんなもんか...。そいえば、あのエイモス=ホワイトとかいうやつによると、この能力は”夢魔の力の一端”とかなんとか...。)
「...。」
「どうしました?」
「あぁすまねー、続けてくれ。」
「あっ、いえ私が覚えてるのはこんなところです。」
「オーケー!情報提供サンキューな!」
目を覚ましてから数分が経過した頃、作戦を練っていた裕樹が口を開く。
「なぁ美咲っち?」
「どうしました?」
美咲は追加で貸してあげた服を膝掛けにして暖を取りながら、石段に置いていた腰をこちらへ向けて応答する。
「少し危険が伴うんだが、人質を助けるために少し協力してくれねーか?」
(本来、パンピーに関わらせることは大きな危険が伴うんだが、俺の立てた作戦には美咲っちの協力が必要不可欠だ。)
「その...危険っていうのは...おおよそどのくらいですか?」
「えっあー、そうだな......1から10で言うと...んー、良くて3...そうだな、悪くて4だな...。」
「......だったら...やります。」
半分を切ってはいるものの、これが”命の危険”だとすれば承諾を渋るのは当然と言える。裕樹自身もその様な前提の元での交渉ではあった。それでも美咲は、即答こそしなかったものの、真剣な表情で快諾してくれた。
それから俺たちは作戦の共有と、その手順の確認を行った。
俺の考えた作戦はこうだ。
『まず、佐々宮美咲を1人で501号室へ向かわせ、秋篠綺捺を表におびき出す。次に、美咲に綺捺を襲わせる。結構暴力的に。すると当然、綺捺は身を守るために能力を使う。最後、俺がその隙を突いて綺捺に全速力で突っ込んで腹パンを決める。ヤツが俺に対して能力を使うより先に。』
以上、めでたしめでたしって寸法だ。
「で、大体分かってくれたかもだけどよ...美咲っちには”1人で監禁犯とやり合ってもらう”っていう危険な役割を担当してもらうことになる。」
「あ、はい、それはいいんですけど...。」
それとなく言葉に含みを込めつつ、彼女は若干気まずそうな表情でこう続けた。
「じ...実は私、彼女に捨てられたんですよね...?」
「ん?どゆこと...?」
心の声をそのまま出力して問うてみる。
「えっとですね...彼女が言うには、あっ、秋篠綺捺のことです。彼女が言うには、”みーちゃんには飽きた”ってことらしいです。」
「その...”みーちゃん”ってのが...?」
「あーはい、私です。」
つまりは、『彼女にとって美咲っちにはもう興味がなく、俺の作戦がうまくいかない可能性がある。』と。
んー、ドアさえ開けてくれればクリアなんだけどな...。
「あっ...そいえばよ、もう1人の人質ちゃんはいつ頃から監禁されてんだ?」
「それが実は今朝なんです。」
「はぁ?今朝だぁ?!」
「っ?!」
やべっ、急な驚きの事実に少し声が大きくなっちまった。美咲っち脅かしちまったな。
それからまた暫く話し合った結果、初めの作戦通りに実行することになった。
とりあえず試してみる、という判断らしい。
実際のところ、話し合い自体に掛かった時間は1、2分で、2人ともあまり深くは考えていない。
「じゃあ、俺はこっから見てるから、作戦通りに。」
「分かりました。では...。」
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