いつまでも輝く母へ
ちかえ
大好きなお母様
戴冠式が終わり、控え室のソファにもたれかかってくつろいでいるラケルを見て、後から入ってきた母、イライアが苦笑いをした。
「ラケルちゃん、立派な正装が泣きますよ」
「誰も見ていないのだからいいでしょう?」
「侍女とわたくしが見てますよ」
「はい」
そう言われてはどうしようもない。ラケルはきちんと姿勢を正した。
実際、こんな事をしていたらドレスやマントがしわになってしまう。それでは威厳がない。
とはいえ、先ほど、母はラケルの事をちゃん付けにした。注意するためにわざとかもしれないが、もういい歳だというのに、その扱いはなんだかくすぐったい。
ただ、この可愛がりは父を亡くした悲しみをごまかすためというのもあるのをラケルは知っていた。
「あの小さかったラケルが女王になるのね。信じられないわ」
「信じてくださいな。大体、何十年前の事を回想しているのですか」
また子供扱いしてくるので呆れて笑いながら返事する。
「大丈夫ですよ、この王国はわたくしたちが守りますから」
安心させるように笑顔を見せる。
ラケルは一人ではない。弟たちも妹も、臣下としてこれからのラケルを支えてくれるのだ。だから王国は大丈夫。そう思っている。
「お父様たちの思いはしっかり受け継ぎますから」
安心させるように微笑む。
小国と言われていたレトゥアナ王国を大国に並ぶとまでは言わないが、そこそこ立派な国にしたのは父である。父はきっと賢王として名が残るだろう。
ただ、それをしたのは父だけではない。母だってこの国にものすごく貢献したのだ。この国を併合させようとする大国の王である祖父と戦ってレトゥアナを守ったのも母だった。そのことが広まったおかげで、母は『愛国妃』と呼ばれている。『婚国を愛し、夫となった国王を支え、国を侵略の危機から守った王妃』という意味だ。
父も母をとても頼りにしていた。私生活でも仲の良い夫婦だった。
ラケルも夫とは仲がいい。でも両親には負けると思っている。
とにかく、あらゆる面において両親はラケルのお手本だったのだ。
それでも、何百年、何千年と経てば、歴史には父の名だけが残るのだろう。母の名も少しは残るかもしれない。それでもラケルは、それだけでは満足出来ないのだ。
今までの母の功績も、幾つかは父の功績になってしまったのをラケルは王太女としてみていた。それではいけないと父もラケルも言ったのだが、『いいのよ』と母は気にしてもいなかった。
今でも思う。それではいけない。このままでは国を守った事も年月が経てば父がやったことにされてしまうかもしれない。
母の名だってきちんと歴史に残るべきだ。
「ラケル、何を考えているの?」
無言になってしまったラケルにイライアが不思議そうに尋ねる。
「いいえ」
ラケルはそれだけ答えた。きっと、言ったとしても『別にいいのに』と言われてしまうのは分かっている。だから言わない。
その時、侍女が呼びに来た。
これからバルコニーからのお手振りがあるのだ。ラケルはきちんと優雅に立ち上がる。
母に『頑張りなさい』なんて声をかけられる。いつまでも小さな子供のようだ。それがおかしくてラケルは笑う。
まずは自分が立派な女王にならなければならない。自分のせいで大好きな母の名を汚すわけにはいかないのだ。
自分にできる出来る限りの事はしたい。
ラケルは安心させるように一度振り向き母に微笑みかけた。
いつまでも輝く母へ ちかえ @ChikaeK
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