最終回・総決戦

 かすみ春日登かすがのぼる、ドンド・アドミニスは『UNKNOWN ANTIBURST』の日本支部に近づいて以来、話し合いをし続けていた。


 秘密を春日登かすがのぼるは守っているつもりかもしれないがスマホで何かいじっているのを見たかすみ春日登かすがのぼるが一部の人間へAIファイターに関することを伝えてしまったので、表に浮かばなかったAIファイターの作戦が徐々に明るみとなり、そして忽然こつぜんと日本中から消しつつある。


 日本国内のファイター達がそれぞれ物事を解決している様子を少しずつ三人で行動を共にするにつれ知らされていく。


 一人は各地を旅してAIファイターを倒してるとも聞く。


 何が起こっているのかは予想はできないが察することは出来る。


 卵海うみのいるかの資料によれば格闘技大規模興行が近付くころに大勢の素性不明ファイターを多く輩出してデータを吸い取る計画のはず。


 リング外のファイター達が春日登かすがのぼるの情報をきっかけにだんだんと他地方のAIファイターが消え、関東圏内に集中していくのは霞としては心配だった。


 一般人のドンドはともかく春日登は大人しい格闘家でなかなか会話が進まず、仲間のファイターに少しだけ霞とAIファイターの戦いを伝えたことは謝ってくれた。


 ただ霞もこれはこの時代では簡単に隠せる問題ではないことは分かっている。


 あれから『UNKNOWN ANTIBURST』の情報は控えられている。


 ほぼ特定した『UNKNOWN ANTIBURST』入口は何事も無かったかのようにただの裏路地になり、痕跡は消されていた。


 卵海うみのいるか特性の限定端末で情報共有をし、春日登とドンド・アドミニスと共に口封じも含めて関東を走り続けた。


 三人に会話はない。


 色々と聞きたいことはあるはずだけれど。


 AIファイター達の活動は減っていき、一見仕事

 が楽そうに思えるが奴らが簡単に手を引いてくれると霞は思っていなかった。


『霞聞こえるか?

 関東圏内某田舎で奴らの居所いどころを掴んだ。

 大規模格闘技興行も選手の中にAIファイターがいないか確認してるがおおよそ判別は不可能だろう。』


「いまここに現役格闘家の人間がいる。情報を送って何名かの格闘家が他の地方でAI達の活動を止めたらしい。拠点は消せても記憶は消せない。」


 すると春日が端末と霞へ話しかける。


「春日。春日登だ。仲間に情報を渡したことは謝る。だがこれまでのAIによる事件を黙って解決させたんだ。

仲間として協力はできないか?」


 卵海うみのいるかは一度黙って考えている。


『噂によればAI達が使う移動装置を持っている人間がいると聞いた。まあ待っていれば勝手にAI達へ介入するか。その人間は春日君。そちらとは関係がない人物なのかい?』


 春日はそうだと返事をし、霞に変わる。


「どのみちAIファイター達は各地で潜伏し、計画を進めていた。

かといって他ファイターが協力してくれるかは分からない。

さっさと奴らが今いる場所へ向かう。」


「まったくなんで俺まで巻き込まれなきゃいけないわけえ?

しかもこんな秘密握ってたらうかつに帰れないじゃないか。」


 ドンドはいやいやながら巻き込まれ、霞達へついていく。


 さっきまで会話はなかったが、霞もまた一般人を巻き込んでしまって悩んでいたのだ。


「早く向かおう。奴らの元へ。」


 今はそれだけを考え、関東圏内の田舎にあるAIファイター達の拠点に電車やバスを使ってたどりつく。




-乱戦による先


 AI達が移動した本拠地。

 関東圏内の片田舎で廃墟のようにそびえる場所。


 霞はやっとたどり着いたとほっとするも前回はキーがなくて困っていた。


「よお俺たちをかぎまわるエージェントさんよお。」


 多種多様のAIファイター達が三人を囲んだ。


「地方で計画立ててた連中が次々と失敗して本当に最悪の気分だよ。」


「お前たちを倒すことでこっちもストレス発散してやる。」


「キーがなければそこからは通れまい。」


「この数で勝てるかな?」


 さすがにリング外での戦いは卑怯な手を使うか。

 それほどここのセキュリティは頑丈って訳と霞は理解する。


 すると春日が構えはじめ、ドンドは何やら話している。


「霞…さんか。あんたの手伝いをする。

俺のミスによって手間をかけさせたんだ。

その償いをさせてくれ。」


 霞は何も言わない。

 するとドンドがおいおいと話をしてくる。



「あんたさあ。秘密があるのは分かるけれどありがとうとか言えないのかよ。

まあ恩着せがましくしたくないから別にいいけどよ。」


 そういってドンドは奥へ去っていった。


「お前たち二人だけで俺たちを相手にするのは大変だと思うぜ!」


 AIファイター達が一斉に飛びかかり、霞は卵海うみのいるかが用意した装備を使おうとしたら青白く周りが光り、そこへ七人の人間がAIファイター達を倒していた。


 そこへ更にAIファイター達は加勢してくる。


愛宝めいほ!あんたら!これは?」


 なるほど。

 こりゃ他地方でAIファイター達も沈静化ちんせいかするわけだ。


 春日は霞に先へ進むようにうながし、七人のファイター達へ協力する。


「ここは俺たちに任せろ!先へ進め!」


 霞は後ろを振り返り、「ありがとう。」と小さくつぶやいて奥へ進む。


 多数のAIファイター達は八人のファイターによって足止めされているがキーが何処か分からない。


 すると空気の震えがあったからか霞は大きくジャンプして攻撃をよける。


 波動弾。

 そんな技まで。


「へへ。キーはこれかなあ?

お前の武器はリーチが短い。

俺の波動弾でどうにかなるかなあ?」


「くっ。」


 霞は隙を狙おうとクマを観るようにAIファイターを見つめ合うと二人の青年がAIファイターを抑える。


「あんたは先へ進め!」


「まさか東京へむかって人酔いしたからこの田舎へきたらまた波動弾かよ。

 あっ、俺たちは四国のファイターだ。

 さっきの青白い光で来たファイターとも面識はあるし秘密は守る。

 この波動野郎とは既に戦っていてな。

 だから気にせず進め!」


 一人がAIファイターから奪ったキーを霞へ渡す。

 話が早いのもファイター達の信頼関係か。


「キーは返させてもらうよ。残念だけど。」


 四国ファイターは『まさか空気振動?』とつぶやき、対策を考えていた。


 そこを防げなかったのになぜ生きていて助けに来たのか分からなかったが霞は二人の元へいき、AIファイターの額にクナイを投げてトドメを指した。


「あ、あんた…そんなものまで?」


「二人がMMAの技でそいつを止めていたから出来たことだ。

波動使いは動きを止めても周囲を巻き込み、飛ばす能力があることを知れてよかった。」


 先へ行くと霞はそれだけ告げてキーを使い、ついに移動した本拠地へ入ることが出来た。


 多数の人間の格闘家達にはなんとか話をつけないと大事になりそうだなと助けてくれたことは感謝しつつ先のことを考えると気が重かった。


 さあ。

 手に汗を握ろう。



-記されない神興行


 中には変な仕掛けも何もなかった。

 ただ一人がモニターの前へ座って戦いの様子を見ていた。


「やあ。詳細不明ファイター。君一人だけでくるわけないとは思っていたけれどこれは予想外だったねえ。」


 霞は身構え、博士服の誰かを目で捕らえる。

 博士服の誰かは拍手をしながら怖がりもせず霞の元へ歩く。


「君達ファイターは非常に優秀だ。

AIファイター達…いや、自分達の名前で呼ぼうか。

ユーザーアーナ。

それが自分達UNKNOWN ANTIBURSTジムのメンバー種族だよ。」


 大規模興行の開催する前の対戦カードにAIファイター達を参戦するように説得し、勝利した場合と敗北した場合もプロモーションとしてAIファイター達を売るつもりだったのかもしれない。


 無数の計画書があちこちに張り巡らされていた。


「僕に戦闘技術を仕込まれていない。

って霞!君めっちゃ荒らしてる!やめなさい!」


 重要な情報は全て霞が奪い取った。

 博士服の誰かは本当に戦闘経験はプログラムされていないようだ。


「これじゃUNKNOWN ANTIBURSTも解散だねえ。

だけれどAI・MMAファイターや海外支部もあるし、フリーで活躍してるAIファイターもいる。

いや、僕達ユーザーアーナはまだまだ活躍し続けるよお。」


 一呼吸いれた後、博士服はもう一度つぶやいた。


「今回は霞達の勝ちにさせるよ。

記憶も残させてもらう。

でも今戦ってるファイター達は今後もユーザーアーナの戦いに巻き込まれるかもね。


霞達は今後も彼らに協力するのかは分からないけれど、ユーザーアーナは簡単には止められないよお。

クックックッ。」


 本拠地は光とともに消え去り、霞達十一人は片田舎へ取り残された。



-それから


 霞は十名にコンプラを守れる程度のお礼をした後にその場を急いで去った。


 ドンドがタイミングよく春日のジム仲間へ連絡したことでAIファイター…ユーザーアーナ達のことは隠されたまま今までの事件を限定的にほうむることができた。


 流街灯りゅうがいとクチルはユーザーアーナの空間転移装置を使ったまま移動を続け、プロ格闘家としての仕事よりもAI狩りを続けることにしたらしく、本田愛宝ほんだめいほはクチルの行動による後処理をジムで練習しながら

 協力している。


 土井と貝中かいなかはキックボクシングだけでなく護身術や空気振動をさせないように生物の弱点をつく練習をして最終手段をさせないように研究し、東京と四国の海を行き来している。


 咲良現弾原大さくらだんじげんせい上杉実うえすぎあけびは三人の後輩と共に関西を守っている。


 皆、霞のことは口外していない。

 春日登かすがのぼるとドンドもいつも通りの日常を過ごす。



「大規模格闘技興行も日程ズレたな。しかしあのAI達なんで俺らの記憶を消さなかったんだろう。

バイアスかかるじゃねえか。」


 春日は黙ってサンドバッグを蹴り続ける。


「簡単には終わらねえってことだ。それよりも、AIファイター討伐グループってことで俺もドンドも飲み会に誘われてる。」


「霞…は無理か。

あとクチル選手も。本田選手は空いてるかなあ。


しっかしあんたら肝が座ってるな。

みんながみんな強者じゃないのに。」


 春日は少しだけ笑い飛ばして返事をする。


「人間…だからさ。」


 自分達のこれからはまだまだ長い。

 せっかく出来たグループで秘密とはいえ話し合えるのなら心強い。


 霞との連絡はつかないし謎のままだが、あの時見せた戦闘スキルと皆が教えてくれた弱点を研究して解決するかもしれない。


 他人頼みになってしまったからこそ春日は自分の試合を引退まで勝ち続けることを決めた。


 これが負けられない理由。

 今後もずっと。


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シークレット・ステップ 釣ール @pixixy1O

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