第11話 わたしは改めてガンバろうと、決意する

 わたしがキルンベルガー家の養女になって数日たった。

 字はまだまだキレイに書けないけど、それ以外の勉強は順調に進んでいると思う、たぶん。


 今日からは、キルンベルガー家の一員としても、そして自分で身を守るためにも必要だということで、剣術を教わることになった。ちなみに教えてくれるのは、騎士団に所属しているアメリアのダンナさんのバラード。ついでにバラードは漆黒の荒鷲亭にちょくちょく来てる人だった。


 わたしがキルンベルガー家の養女になってからのお店のようすを教えてくれた(みんなわたしの歌を聞けないって残念がってくれているらしい、うれしい。後、あの日わたしにマルセル様の奥様にはなれないと言っていた傭兵団のおじさんは、わたしが本当にキルンベルガー家に乗り込んだことを知って、腰を抜かしかけたらしい)し、みんなにわたしのようすを伝えてくれると言っていた。


「ロッテ、今日から剣術指南が始まったが、どうだった?」

 夕食の席で、マルセル様に訊かれる。


「やっぱり体を動かすのは楽しいですね!

 でも、剣はわたしが振り回すには重かったので、もっと筋肉をつけなくちゃいけません」

 ふんっと気合を入れて、力こぶのポーズをする。


「君はとても身のこなしが軽くて驚いたという報告を受けている」


「ああ、踊り子だった母さんから踊りを教わってたからですかね」


 ごはんの種になる芸は、一つでも多く身につけておくといいと踊りを教わり、母さんが死んだ後も練習していたのだ。


 マルセル様はうなづいて言う。


「なるほど、君はとても姿勢が良いと思っていたが、それが影響しているかもしれないな」


「義姉上も剣をならっているのですか?」


 後継者として、もちろん剣術を教わっているライナーくんが言う。


「はい、今日から始めたシンザンモノですが」


「わたしがいた時は、演習場でお見かけしなかったもので、知りませんでした」


 わたしは、ルルが欲しがった付け合わせのおいもをさしだしながら、それはそうだろうと考える。わたしとライナーくんは、剣術の先生は違うけどお勉強は二人ともカーティス先生に教わっている。だからわたしはライナーくんが剣のおけいこをしている時間に、カーティス先生に勉強をみてもらってるし、カーティス先生がライナーくんを教えている時間に精霊について教えてもらったり、剣のおけいこをしているのだ。


「せっかく義姉上ができたのに、あまりご一緒できないので、ご迷惑でなければご一緒したいのですが……」


 できたてホヤホヤの弟に、こんなカワイイおねだりされたら、お姉ちゃんとしてはかなえてあげたいんだけど、わたしがどうこうしてあげられることでもない。わたしもお願いを込めてマルセル様の方を見る。


 マルセル様は難しそうに眉を寄せる。

 そりゃそうだ、勉強にしても剣術としても、わたしとライナーくんがやってるのは何段階も差があるんだから。


「失礼します」


 ひかえめにハインツが会話に入って来た。


「精霊や精霊の愛し子メーディウムの講義はご一緒でもよろしいのではないでしょうか?

 アルドリック様も、旦那様の補佐の仕事もございますし」


 マルセル様がうなづく。


「それは良いな。

 アルドリックに、次回からはライナーも共に講義を受けることを伝えてくれ。

 ライナーとロッテも、それで良いか?」


「はい、義父上ありがとうございます」

「はい、大丈夫です」


 ライナーくんが嬉しそうで、わたしも嬉しい。マルセル様も嬉しそうだ、よかったよかった。


「そうだ、ロッテ」


 話が一区切りついたところで、マルセル様に呼びかけられる。


「はい?」


「君の礼儀作法の教師が決まった」


 貴族に必要な礼儀作法、立ち居ふるまいは男と女では違うので、新たに先生を探さなくちゃいけないって、まだ授業が始められずにいたんだ(アメリアから、ちょっとずつ教えてもらってはいるけど)。でもついに先生が見つかったらしい。ついにって言っても、わたしが突然現れてから数日だから、多分すっごく早いと思う。


 とにかく、わたしもフォークだけのごはんを卒業できるみたいだ。


「どんな方ですか?」


 名前は聞いても分からないかもしれないけど、どんな人か知りたい。


「私の母だ」


 予想外の答えが返って来た。


「マルセル様の、お母さま?」

「お祖母様がいらっしゃるんですか!?」


 ライナーくんが嬉しそうに言う。


 マルセル様の養子であるライナーくんは、元々マルセル様の弟様の子どもだそうだ。つまり元々はおじさんとおいっ子だったらしい。なので、マルセル様のお母さまは、ライナーくんの本当のお父さんにとってもお母さまで、ライナーくんにとって本当のおばあちゃまでもある、ということだ。


「母は、そのまま我が家で共に暮らすことになる。

 ついでに、館の女主人の仕事も受け持ってくれることになったので、そのつもりでいてくれ」


 わたしとライナーくんがうなづく。


 今マルセル様のお母さまは自分のダンナさん、つまり前のキルンベルガー伯爵と一緒に、領都から少し離れたマルセル様の弟さんの家に住んでいるらしい。なので、前に住んでいた家であるこのお屋敷で住むのは当たり前だろう。


 にしても、マルセル様のお母さまか。マルセル様の養女である今のわたしにとってはおばあちゃまにあたり、いずれマルセル様の奥様になった時にはオシュウトメさんになるわけよね。

 いいとこ見せなきゃ!


 いや、わたしの先生になるってことは、ダメなとこもいっぱい見せることになると思うけど、それでも少しでも良く思われたいよね。


 わたしは改めてガンバろうと、決意する。


「母は三日後に来ることになっている。ロッテの授業はその次の日からだ」


「はい!」

 決意を込めて、元気よく返事をした。

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押しかけ幼女は『形だけの奥様』になりたい 橘月鈴呉 @tachibanaduki

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