エピローグ

第44話 最後に

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 044_最後に

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 広大が天空城の一室で寛いでいると、チュニクスがプンスカお怒りモードでやってきた。


「どうしたんだ?」

「あの人たちは、未だに自分たちが貴族だと思っているようです」

「あー、あいつらか……まったくやる気がないなら、強権発動だな」

「どうされるのですか?」

「自給自足をしてもらう」

 天空城の一角で、自分たちで穀物や野菜を育て、それを食べる生活を送ってもらうのだ。

 彼らがこれまで搾取してきた農家のような生活をし、広大たちは一切手を出さない。

 彼らがそれで餓死しても、広大は一向に困らないのだ。


「最初に畑を耕す道具と種籾、それと食料を渡したら、あとは放置だな。服や雑貨などが欲しければ、ヤツらが育てた穀物や野菜と物々交換をすれば、問題ない」

「それはいい案ですね!」

 チュニクスもノリノリで広大の案を実行に移した。


「今日からここが貴方たちが暮らす土地です」

 いきなり土地を与えられたが、そこには掘立小屋があるだけで、草原が広がっている。

 すでに必要なものは、各掘立小屋に用意されている。


「畑など耕したこともないのに、作物が育てられるわけないだろ!」

「安心しなさい。畑の耕し方などは、ちゃんと手引き書を用意してあります。それを読めば大丈夫です」

「そんなことで、畑が耕せるわけないだろ!」

「そんなことは私の知ったことではありません」

 一人がチュニクスに掴みかかろうとしますが、怠惰な生活をしていた元貴族がチュニクスに敵うわけがないのです。


「ぎゃーーーっ」

 腕があらぬ方向に曲がり、地面に転がってのたうち回る結果になるのは当然のことだ。


「さあ、皆さん。一生懸命はたらき、自分の食い扶持を確保してくださいね」

 腕がポッキリ折れたのは、元子爵の男である。

 彼は手当をしてもらえないまま、そこに放置されることになった。


「ああ、逃げても構いません。でも、このエリアの外には魔物がいるので、気をつけてくださいね。それではご機嫌よう」

 のっそのっそと歩く魔物の姿が見える。その魔物は軽く10メートルを超える魔物で、とても彼らが勝てるようなものではない。

 もしあの魔物がこのエリアに入ってきたらと思うと、貴族たちは青い顔をし魔物の動きに一喜一憂するのだった。





 チュニクスが貴族たちを絶望の淵に叩き落としている時のことだ、広大はふと思い出してしまった。


 広大たちをこの世界に召喚したサライド老師とアバロン5世である。

 彼らは城の崩落に巻き込まれて生き埋めになったと思われているが、実は広大によって牢の中に放り込まれていたのだ。


「よし、あいつらにも農家になってもらうか」

 思い立ったが吉日とばかりに、広大は行動した。

 アバロン5世たちの足元に穴を開く。まるで落とし穴に落ちるようにアバロン5世たちは天空城の一角に放り出された。


「な、なんだここは!?」

「陛下、お下がりを」

 サライド老師がアバロン5世を庇うように前に出る。


「貴様、何者!?」

「何者って、俺の顔を覚えてないのか?」

「貴様のような男の顔など知らぬわ!」

「冷たいな。お前たちに殺された異世界から召喚されたいたいけな少年だよ」

「な……ん……だと?」

「忘れたのか? あれは1年ちょっと前だったか、お前たちが召喚した俺に暗殺者を送り、人知れず殺したじゃないか」

「まさか、貴様はあの時の……?」

「そうだよ。暗殺者に殺され、死んだ俺は神様に助けられて別の世界に転生したんだよ」

 嘘である。


「何をバカげたことを」

「バカげた? だったらお前たちの今の状況はどう説明するんだ?」

「………」

「神は仰った。野心があるのはいいが、異世界人を拉致して戦争に狩り出すのは許さないとね」

「………」

「神に変わってお前たちに天罰を与える。そのために神は俺に力をくれたわけだ」

「ば、バカな!」

「ここは俺が支配する世界だ。お前たちはこれからここで自給自足の生活を送ってもらう。そこの小屋がこれからお前たちが暮らす家になる」

「バカも休み休み言え! あんな小屋で余が暮らすなどあり得んわ!」

「野宿したければ好きにすればいい。食料の他に畑を耕す道具や種籾なども置いてあるから、がんばって自給自足をしてくれ」

「貴様!」

 サライド老師が魔法を放ったが、それは広大の穴に吸い込まれた。


「な……」

 絶句するサライド老師に、広大はニヤリと口角を上げる。


「そんな無駄なことに力を使うより、地面を耕すことに使ったほうがいいと思うぞ」

 そう言うと広大は姿を消した。

 後に残されたアバロン5世とサライド老師、その家族たちは途方に暮れることになる。




 そして、国王であるアバロン5世と王族がことごとく姿を消した城は混乱の只中にあった。

 本来、そういった混乱を収めるべきサライド老師も姿が見えないのだ。混乱はさらなる混乱を呼ぶことになる。


「王族が全ていなくなるとは、どういうことなのだ!?」

「これからどうしたらいいのだ!?」

 この後、ダルガード王国は群雄割拠し、内戦へと突入していく。


 アルガ王国へ侵攻していた軍は補給ができなくなり、ダルガード王国へ撤退することになるのであった。


 ただ、占拠した地で独立をする勢力もいたのである。地球から召喚された広大の元クラスメイトたちであった。

 彼らに統治のノウハウなどはない。欲望の限りを尽くして恨みを買い続けることになる。

 やがて、力を取り戻したアルガ王国軍により、追い詰められることになるのだが、今はそのことよりも欲を満たすことしか頭になかったのであった。



 ――― 穿孔の勇者 完結 ―――


 公開中の『トーマ ~騎士爵家の養子になった転生者~』も読んでみてください。

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穿孔の勇者《せんこうのゆうしゃ》 大野半兵衛(旧:なんじゃもんじゃ) @nanjamonja

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