第2話 脱水の音ごとごとと五月闇

脱水の音ごとごとと五月闇

  煙草の蛍ホリデーはいつ

工場の敷地は昔畑にて

  どこまでいけどたい肥匂わん

有明の車窓の空ははなだ色

  トタンの屋根に生えた露草


また一人別れを惜しむ村の秋

  軽トラ連ね遠い葬儀場

フィレンツェを背にした写真ほほ笑んで

  あてにならない遠恋の果て

ネットではわからなかった性別に

  書類も記載のない昨今

曖昧なままに居座る迷惑さ

  熊のようだが広い公園

暗がりは凍てつく月の輪の見えて

  風吹く波に揺らぎ溶け行く

木の枝を旅立つ花の数知れず

  戻らぬ人を待ついぬふぐり


狩りもせず蛙の目借る猫丸く

  夢は砂漠か砂の嵐か

満州に線路一筋思う頃

  哀れを知れや無錫の旅路

木枯らしに昭和女の髪を切る

  コートの襟を立てるベリショー

劣勢はただ攻めてくだけと檄飛ばし

  天下の分け目すすき揺れてる

変わらないようで移ろう薄月夜

  光りの粉は秋雨の跡

悪霊の消えて去りゆく陰陽師

  反閇を踏む靴の音する


山里は昔のことを伝えつつ

  勇者の剣抜く人もなく

魔王軍の中にもいるよいい男

  国境のない世界長閑き

花のみが遥かな御代をしのぶらん

  どこもかしこも草生える春

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「第2回カクヨム短歌・俳句コンテスト俳句の部」 鈴呂屋こやん @manyashoya88

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