第7話 大団円

「死体を隠すには、どこがいいか?」

 ということであるが、出題者の川崎としても、

「前提として、あくまでも考えられることということでなので、実際に犯罪において、それが本当に正しいのかどうかというのは、正直分からない」

 ということであった。

 相変わらず、いちかは、これが、

「ウミガメのスープ」

 としてのクイズであると覆っているので、いろいろ質問していた。

 もちろん、これが、正解としてのクイズではないことは分かっていた。本来の海亀のスープというのは、

「最初と最後が分かっていて、どうしてそうなったのか?」

 ということを、考察していくゲームだということだ。

 今回のように、

「ただの命題の投げかけ」

 ということであれば、本来なら、

「ウミガメのスープ」

 という考え方は成立しない。

 要するに、

「質問をぶつけて、回答に近づく」

 ということが同じであって、結論が分かっていないだけに、一歩間違うと、

「回答が無限にある」

 ということになるに違いない。

 それを思うと、

 かなりの弾を打ち続けなければならないだろう。

 いちかもさすがに疲れてきたようで、それを見越したのか、

「ちょっといいかな?」

 と、飯塚が言い出した。

「ここまで聞いてきた中で、僕が思った二つのことがあるんだけど、まず一つは、土の中の方が、発見されにくいというものなんだよね? そしてもう一つは、一度捜査を受けたところは、警察が二度と捜査をしないということが、一番の鉄板じゃないかと思うんだ。それを考えると、ハッキリとした答えが出てきたわけではないんだけど、考えられることとして、誰か、身代わりになる人がいて、その人を罠にかけるという意味での、犯行なんじゃないかって思うんだ」

 と、飯塚は言った。

「さすが、飯塚君」

 と、さっきまでは、親しく、

「つかちゃん」

 と読んでいたのに、今度は敬意を表したかのように、

「飯塚君」

 というではないか。

 それを聞いた飯塚はビックリした様子で、

「あてずっぽうだったんだけどな」

 といって頭を掻いたが、その様子は、

「そうでもなさそうだな」

 と、いちかには見えた。

 いちかの目には。今まで仲の良かった二人が、バチバチになって、言い争いをしているかのように見えた。

 ただ、そこに言葉はなく、言葉というよりも、本来なら、

「言葉にならない絆」

 というようなものが存在しているような気がするが、どうもそうでもないようだった。

 いちかの目には、どのように写ったのだろうか?

「僕が一つ考えたんだけど、この話は、この間の失踪者の話に繋がっているんだよね?」

 とばかりに、飯塚は、まるで、

「ここぞとばかり」

 に、話し始めた。

「ああ、そうだよ」

 というと、飯塚は、一度頷くと、

「その行方不明者というのは、今までの流れから言って、殺されて埋められているということだよね?」

 と言った。

 いちかと、川崎は黙っている。

「その男は、きっと、見つからないと思っていたところに隠しておいて、今、なぜか表に出してきた。それは、何か時間的に今でないといけない何かがあったのかも知れない。債権か何かかも知れないが、まさか、その程度で殺人を犯すとも思えない。これも、金銭的なことにカモフラージュした何かなんだろうね?」

 という。

 いちかは、興奮しているように見えたが、川崎は腕を組んで考え込んでいる。

「それと同じようなトラップがここにあると考えると、一つ思ったのは、土の中というのは、意外と死体が腐敗しにくいと聞いたことがある。だとすると、身元が分かるくらいにしておかないといけないので、穴の中に埋めておいたと考える方がいいだろう。そして、穴の中で腐らない方法と考えるのと一緒に、見つからないといううことを両方で考えた場合に出てきた結論が、動物の死体が埋まっているところの下であれば、大丈夫なのではないか? ということなんだよ」

 というのだった。

 それを聞いた川崎は。

「それが君が見つけた結論なのかい?」

 と言われたが、飯塚は、うなづくわけではなく、先ほど川崎がしていたように、腕を組んでいて、考え込んでいる様子だった。

「まぁ、そういうことだね」

 と飯塚が、中途半端に答えると、

「どうして、そんなに、中途半端な顔をするんだい?」

 と川崎も飯塚の様子が、

「何か変だ」

 と思ったのか、その様子が、いかにも不可思議に見えたのだ。

「ウミガメのスープ」

 と、飯塚が呟いた。

「それがどうしたんだい?」

 川崎は少しビビっている。

 少し前までと、完全に立場が逆転しているようだった。

「ウミガメのスープの話を俺たちにしたのも、当然、川崎君のことだから、当然、何もかも計画済みということだよね?」

 と言った。

「どういうことだ?」

 と川崎が聞くと、

「いやね。君がいうことにはすべて計算されていることであり。それをわざわざ、ウミガメのスープのようにしたということは、まるで、石橋を叩いても渡らないともいうべき話に見えるのさ。だから、この裏には裏があり、さらに、それがきちっと合っていなければいけないということなんだろうと思ってね」

 と、飯塚は言った。

 飯塚の方が、少し先を見ているようだが、それでも、どこまで分かっているのか正直、川崎にも分からない。

「何が言いたい?」

 と川崎がいうと、

「君が大なり小なり、何かの犯罪に関わっているとは思っているんだよ。ただ、主犯が君だと言えない気がして、そんな君が、俺たちに挑戦状を叩きつぃけたというのは、ウミガメのスープの理論で考えた時でも、事件の真相に気付かない。あるいは、ウミガメのスープがトラップとなって、俺たちを欺いているのではないかと思うと、、君の考えていることを俺も見抜いてみたいと思ってね」

 というではないか。

 飯塚は続ける。

「俺が、君が死体を隠したとは思ってるわけではない。ひょっとすると、君以外の誰かが、共犯、いや、共同正犯的なことをしているのかも知れないと思ってね。それをもし君の知らないところで行われていて、相手の気持ちが分りかねないということで、どう考えていいのかというのを、俺たちに、ウミガメのスープとして考えさせているのではないかと思ったのさ。君だけ分かっていること、あるいは、君にだけ分からないこと、それぞれあるんだろう。自分には分からないところを知りたくて、ウミガメのスープの話を使った。ただ、きっとこれは、警察が、まさかこういう考えをするわけはないという思いをもとにやっていると思うんだ。ただ、それが、君の考えではなく、暗躍している人間の考えだとすると、君が、俺たちにウミガメのスープという命題をあたえたのも分からなくないんだ。つまり、君はまだ、俺たちに最後まで話をしていないということになるんだろうと思ってね」

 と、飯塚は言った。

「そうなんだ。実は、その殺された男の存在を、正直、警察は知らない。今のところ、顔のない死体というような感じにはしているんだけど、それ以外の特徴がないところはそのままにしていた。今発見されなければいけないというのは、最初から決まっていたことであり、そのことが、今回の事件の、トラップであり、探偵小説であれば、叙述犯罪のようなものだといっておいいだろう」

 というのだった。

「君は、その男を殺したおか?」

 と直球で聞かれ。

「ああ、そういうことになる。しかし、正当防衛ではあるんだが、それを証明できる人はいない。正当防衛というよりも、緊急避難的なことと言ってもいいだろう」

 と言った。

「緊急避難ということであれば、そこに、動機の有無というのは、あまり関係ないと言ってもいいだろうね。だとすれば、事件がどのように発展するかということが、この話では、問題となることなんだろうな」

 と、飯塚は言った。

 飯塚という男は、どうやら、刑法上の、

「違法性阻却の事由」

 ということを分かっているようだ。

 さて、ウミガメのスープでいくと、

「今度の犯行は、金銭的な問題が絡んでいるのかな? それも、金がほしくてやったというよりも、債務があるのに、それを執行できないということでの問題なのかな?」

 ということであった。

「ここにきて、民事の問題?」

 といちかは考えたが、もっといえば、刑事であれ、民事であれ、相手が生きているだけで、自分の生きる道がないとすれば、民事であろうと、殺人事件ということが発生したとしても、それは無理もないことであろう。

「君は、どうだい? 俺たちに出した帰納法的な解釈に納得がいったかい?」

 と言われた川崎は、

「ああ、ここまで見事に言われてしまうと、どうしようもない。俺たちはどう解釈すればいいのかを考えなければならないな」

 というではないか。

 それを聞いたいちかは、

「あれ?」

 と思った。

 その思いがどこからくるものなのか、正直分からない。

 少しすれば分かってくるような気がするのだが。その考えというものが、いつまで続くのか?

 ということになるだろう。

 そしてそれが続かないことに気付いた。

 その時になれば、

「俺たち」

 と言った言葉の意味が分かる時であり。その時こそ、二人が完全犯罪になるかも知れないということで、きっと、海外逃亡しているのではないだろうか?

 そう、この犯人の主犯は川崎であり、事後共犯に関しては、飯塚だった。

 飯塚も、まさか犯罪の片棒を担がされているとは思わなかった。死体の隠し方を以前から考えていたということを知っていた川崎は、飯塚を利用したのだ。

 知らなかったとはいえ、目の前に死体があって、それをいかに隠すかということを、川崎は誰かに見られるとまずいので、そこは分からなかった。ただ、飯塚を見ていると、どこに隠したか分かってきたので、掘り出したのだ・

 しかし、その方法を知らないと、今後警察に捕まった時に、言い訳ができないという思いと、

「そろそろ飯塚も真相を知らないといけないだろう」

 ということで、飯塚に知らせる必要があったのだ。

 いちかが、このウミガメのスープに巻き込まれたのは、実は最初からの計画で、

「川崎が、誰かを巻き込むのであれば、いちかだろう」

 と考えたのだ。

 ただ。二人は海外に逃亡しているようだった。

 だが、疑心暗鬼ギリギリの状態で、二人がどのように一緒にいるのか?

「これこそ、一触即発なんだろうな」

 と、いちかは感じるのであった。


                 (  完  )

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一触即発の謎解き 森本 晃次 @kakku

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