Power of Two

えくさ~

第1話 あなたの記憶



今でも、鮮明に憶えている。


ガラス越しでもよく見えた、赤みがかった美しいあの瞳。

その顔には何度も涙が流れたであろう跡があり、

「そんなに僕のことを想ってくれているんだ」

という反面、彼女には申し訳ない気持ちと別れの寂しさで、胸がはち切れそうだった。


声はよく聞こえないけど必死に叫んでいるのは分かる。


僕とあなたを隔てるガラス、僕の命を繋ぐガラス。


医師の合図とともに次第に曇っていく視界の奥の君を見て、

「あなたと一緒で良かった、幸せだった」

と、心の底からそう思った。


そこで記憶は途切れていた。



――――まるで短い映画のワンシーンのような、本当にそういう出来事があったのか、というぐらいに現実とはかけ離れた記憶だった。


ただここで目を開けば、その記憶は次第に薄れていってしまうのではないかという恐怖、というよりはこの感傷に別れを告げなければならなくなってしまう。


暫く目を閉じたままいると、太陽のような光が差し込んできたのが分かった。

だが、ここは病院の建物の中であり、更にはコールドスリープではないがSFものに出てきそうなカプセルに入れられていたはずだ。

窓も無い部屋だったはずなのであり得ない。


やはりもう目を開けなければならないのか、そう思いながら重たい瞼を開ける。


「眩しい...」

弱弱しい声と共に、眩しく、温かく、懐かしい光がカプセル内で反射する。

カプセル内の反射でさえも眩しく感じるぐらいには、寝ることが得意だったようだ。


そんなことよりも、まずはここを出て状況を確認しなければならない。

恐らく妻には先立たれ、最後の記憶からは数十年と経っているだろうから、まずは妻のお墓を探すことと、この世界がどう発展を遂げているのか、この目で見なければ。


まあ、終末世界みたいなことにはなっていないだろう。

そう思いながらカプセルの開閉レバーを探す。

そのレバーは右下、少しやり辛い位置にあり開発者に対して少々苛立ちを覚えたが、一応すぐに開くことが出来たので許すことにした。


「ガチャ...」

という音と共に自動でドアは開いた。

電気は一応通ってるようだった。


だがそんなことも束の間、目の前に飛び込んできた視界は目を疑うような、ここは現実と理解するには苦しむほどに、終末世界そのものであった。

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