Survivor(生存者)

加賀倉 創作【書く精】

Survivor(生存者)

作:加賀倉 創作


【ルール】この脚本内の台詞に関しまして、登場人物に応じて以下の言語で話すようにお願い申し上げます。


〈登場人物〉

ISS 搭乗員 in Japanese

エステバン【Esteban】in Spanish

ミサ【美莎】in Chinese

アーダム【Адам】in Russian

クリス【Christine】in English

ベルバ星人【Belban】in Chinese


〈時:紀元前四〇〇四年某日〉


(暗闇の中、音声のみ)


ISS 搭乗員 こちら国際宇宙ステーション。たった今、日の出を観測した。搭乗員六人の―――ザザザ―――健康状態に異常なし。これより点検作業に―――ザザザ―――ザザ―――ん? 何だか通信状態が悪いな―――ザザザ


エステバン ザザザ―――お! 通信システムに侵入できたみたいだ!


ミサ よし、早くメッセージに移ろう。座標はセット完了した。


アーダム チャンスは一回きりだ。クリス、頼んだぞ!


クリス うん! こちら地球。これは遥か遠くの世界からの贈り物です。私たちはB大学宇宙人研究部と言いまして、あ! ちなみに私は部長【club president】のクリスティーンで……


ミサ そんな細かいことはいい! 伝わるわけないだろ! ちゃんと原稿読め!


アーダム そうだ! 急がねぇと通信が途切れちまうぞ!

エステバン 俺はいいと思うけど。

クリス あ、そっか。ごめん。えー、この通信データには私たちの星、地球の情報が記録されています。いつかこの通信が誰かの元へ届き、地球人が銀河文明の一員となることを願っています。希望と友好の念を込めて、わたしたちの言葉で挨拶を送ります。


クリス こんにちは。


ミサ こんにちは。


アーダム こんにちは。


エステバン こんにちは。


(しばしの沈黙)


クリス やったー! 完璧だね!


アーダム んなわけねーだろ!


ミサ 待て、まだスイッチ切ってない! 早く止めて!


エステバン はいよ。



***



〈時:紀元前四〇〇〇年十月二十三日午前九時〇〇分〉


(明転、しばらくの沈黙、舞台上には誰もいない。やがて俯いた男が舞台中央に現れる。彼は巨大なバックパックを背負い、両手は二丁拳銃の構え。)


エステバン 俺はエステバン、地球最後の男だ。他の奴らはどうしたかって? みんなやられちまったよ、人間も他の動物もみんな。四年前、地球は正体不明のエイリアンに襲撃された。それもたった一匹の。ひょっとすると、ゴジラみたいな巨大な怪獣を想像するかも知れないが、それよりはずっと小さい。俺もまだこの目で見たこともねぇ。そんな小さな敵になぜ人類がやられたかだって?それはだな…… (ドアをノックする音) 誰だ!?まさか奴が遂に来てしまったのか。あぁ、なんてことだ、俺もここでおしまいか。


??? 入るわよ!


エステバン ひぃぃぃ!! エイリアンが喋った! 喋るなんて聞いてないぞ! いや、待てよ。喋るなんてありえないし、そもそも銀河の彼方からのエイリアンがドアをノック?? そんな礼儀正しいエイリアンいるはずが……


(女性の姿をした何かが俯いてドアの方から入ってくる)


???  私はクリス、地球最後の女よ。あら、みんなポカンとした顔でどうしたのよ? なんでお前いるの、みたいな顔して! あ、もしや彼が地球最後の男だって言ったとき、生存者は一人だけって決めつけたんでしょう! 違います! 女性がいるんですよ! 排除しないでください!


エステバン みんなひっかかったろ?


クリス 大成功♪


エステバン&クリス いぇーい!


(二人、ハイタッチする。ドアの方からミサ&アーダム登場。アーダムはなぜか虫籠と虫網を持っている)


ミサ ちょっと! またバカみたいなことして! 人類滅亡の危機っていう時に!


アーダム そうだ! 俺を死んだことにするんじゃねぇ! ふざけんな!


エステバン&クリス ごめんなさーい


エステバン でもさ、こうやって気を紛らわせないとやってられないんだよなぁ。


アーダム 許さんぞ! 冗談でも俺を死人扱いするんじゃねぇ!


ミサ (アーダムを無視して)お前たち、本気で楽しんでるみたいだったけどな。


アーダム そうだ! 俺を死人扱いして楽しいか? そうか、わーったよ! 現実ではどうかな? 俺は生き残ってやるからな! お前ら二人は知らねぇ!


ミサ アーダム、お前もほどほどにしとけ。


アーダム あぁん? テメェもやんのかコラ?


ミサ あぁ。こいよ。


(二人、にらみ合う。ミサがアーダムのみぞおちに正拳突きを決める。)


アーダム うっ……ごめんなさい。


ミサ 本当に手のかかる奴らだ。さぁ、状況を整理しよう。まずはエイリアンの特徴だが、不可視の寄生型エイリアンで……


クリス ちょっとミサ! 元宇宙人研究部部長の私を差し置いて仕切らないでよ!


ミサ それは昔の話だろ。それにお前がリーダーなんて全滅間違いなしだ。


アーダム&エステバン 間違いない。


エステバン それにしても懐かしいなぁ、宇宙人研究部。


アーダム 特にあれだな、宇宙人にメッセージ送った時はグダグダ過ぎて笑ったわ。クリスが台本無視してさ。アドリブが過ぎるっての。


ミサ そうそう。だからクリスには任せてられないんだ。さぁ、話を戻すが……


クリス 私はあのメッセージをもっといいものにしたかっただけだもん!ていうか、そもそも私に原稿読むの任せたのは皆じゃない!


エステバン そりゃクリスが一番英語喋れるからねー。ほら、地球の共通言語みたいなものだし、英語メインでいこうって皆で決めたじゃん。


アーダム 要はたまたまクリスが英語できるから読むの任されただけっていう。


クリス そんな! 皆が私を頼ってくれたのかと思ってた……


ミサ (イライラして)だぁーかぁーらぁー!! 今はそんな話どうでもいいのよ! それと忘れないで欲しいけど、母語話者の数で言ったら中国語は英語の二倍以上なのよ!


アーダム それもどうでもよくね? (ミサに再び殴られて) ぐはッ……ごめん、マジでごめんなさい。


ミサ よし、早く対策を練ろう。


エステバン 対策って言っても、四年前から全世界が総力を挙げて、弱点の一つも見つからなかったんだぜ?


ミサ でもやるしかないのよ。何か弱点があるはず、諦めちゃいけない。


クリス そうよね!私も頑張る!


ミサ まずは情報を整理しよう。敵は目に見えない程小さいエイリアンだ。だからそんな虫網では捕えられんぞ、そこの虫取り小僧。


アーダム 誰が虫取り小僧だ? これ持ってると落ち着くんだよ! ったくうっせーな!(虫網と虫籠を置く)


クリス ねぇ、そのカブトムシもう逃がしてあげたら?


アーダム なんで?


クリス だって、これから私たち、エイリアンに襲われるかもしれないのに、巻き込まれたらかわいそうよ。


アーダム んー、そうか。(つがいのカブトムシを逃がす)もうすぐ卵生まれそうなんだけどなぁ。


ミサ それから脳に寄生して宿主を操り、あらゆる手を使って殺戮し続ける。それに厄介なことに、外見や言動には変化が出ないようだ。武装した宿主が襲ってくるとまずい、武器は持たない方がいいな。


エステバン ちぇ、せっかくのコレクションが全部役立たずかぁ。 (バックパックと拳銃を置き捨てる)


クリス でももしエイリアンがパワー馬鹿のアーダムに寄生したら、素手で勝てっこないと思うけど。


アーダム へへっ、やっぱ俺って強い? ありがとな。


ミサ 褒めてないっつーの。じゃあ、アーダム以外は何か武器を持っておくように。


クリス (エステバンのバックパックからバラムチを出して)じゃ、私これにするねー!


エステバン (ムチで叩かれて)いだだだ! やめてぇ! 地味に痛い!


アーダム あ、ミサはパンチ力ゴリラ並みだし武器いらねーよな。 (ミサに殴られて)いでっ! ごめんてば!


ミサ 武器を持っていても油断するな。撲殺したり、過去には基地を乗っ取って核弾頭で都市丸ごと破壊するケースもあった。エイリアンの手口は巧妙だ、気を付けよう。そして最後に信じたくない事実だが……寄生されたら宿主は十分以内に死に絶え、瞬時に次の標的に寄生する。


(CO2 探知機の電子音が鳴る)


エステバン (手元のレーダーを見て)こりゃまずいな、CO2 の発生源が一つ減ったぞ。あと、四人……


クリス ってことは、私たち最後の四人になっちゃったってこと? やだ! 死にたくない!


アーダム 俺は絶対生き残るぞ! 何でもかかってこ……


ミサ (アーダムを遮って)皆、お互いに距離を取れ! 奴はもう誰かの脳に寄生しているはずだ。今から全員味方であると同時に敵であることを忘れるな。


エステバン ついにこの時が来てしまったのか……


クリス もう! 何でこんなことになったのよ!


アーダム そんなの知るかよ! BASAも原因不明って言ってたろ!


ミサ 今更嘆いても無駄だ。この中に奴がいるんだ、生き延びることだけを考えろ!


クリス そんなこと言ったって、弱点もわからないのにどうすればいいのよ! 何とかしてよ、ミサ!


アーダム 部長がそんな弱音吐くんじゃねぇ!


クリス それは昔の話でしょ! 都合良い時だけ部長って呼ばないでよね!


アーダム うっせぇな! 誰か何かいい案は無いのかよ!


エステバン あのさぁー


アーダム 何だ、いい案でも浮かんだか?


エステバン いやー、そうじゃないんだけど。


アーダム 何だよ! 違うなら黙ってろ!


ミサ 落ち着け。聞いてやろう、何かわかるかもしれない。


エステバン エイリアンが地球を襲撃した原因なんだけど、俺たちのせいじゃない?


アーダム は? そりゃねーだろ。


クリス そうよ、エステバンったら何言ってるのよ。


ミサ いや、わからないぞ。


アーダム ミサまで何言ってんだよ、頭おかしくなったのか?


ミサ 至って正気だ。四年前のことだろう?


エステバン そうそう。俺たちが宇宙に送ったメッセージが関係してるんじゃないかなーと。宣戦布告と勘違いした、みたいな。


クリス まさか! それに私たち、攻撃されるようなことは一言も言ってないわ。


アーダム あんな平和なメッセージが攻撃の原因になるわけねぇだろ、微笑ましい程にグダグダだったしな!


ミサ それもそうだが、私たちがあのメッセージを送った一ヶ月後に地球が襲撃され始めたのは事実だ。


クリス そんなのたまたまでしょう?


ミサ なら、私たち四人が最後に残ったのも偶然か?


クリス そう言われると……何か深い意味がありそうね。


エステバン 俺はそんな気がする、灯台下暗しって言うしねー。


アーダム でも仮にそうだとしてよぉ、何になるって言うんだよ! エイリアンはもう目の前にいるんだぞ!


ミサ 奴らが私たちのメッセージを宣戦布告と勘違いしたのなら、誤解を解けばいい。


クリス どうやって?


ミサ 直接話すのさ、目の前にいるだろう?


アーダム いや、そうだけど……できるのか? まだ誰に寄生したかもわからねぇってのに。


エステバン 俺たちを敢えて最後に残したんなら、少しくらい話してくれるんじゃ(腹の鳴る音)


クリス 何? 今の音! もしかして、寄生したエイリアンの鳴き声??


ミサ エステバンの方から聞こえたぞ! みんな離れろ!


アーダム 遂に出やがったな! コソコソ隠れてんじゃねぇ!


エステバン あのー、腹が鳴っただけです。ごめん。 (カバンを探り始める)


アーダム んだよ! 驚かせんなよ!


エステバン お腹減ってたんだよねー。 (バッグから木の実を取り出し、食べ始める)


クリス そういや私たち、最近まともに食事取ってなかったね。


アーダム だな。あ、俺にもちょっとくれよ! 見てたら俺も腹減ったわ。


エステバン いいよー、ほい。(木の実を投げて渡す)


クリス あ! いいな! 私もちょうだい!


エステバン 断る! 貴重な食料をこれ以上はやれん!


クリス えー! じゃあアーダムにおすそ分けしてもらうもん。ちょうだい!(アーダムから木の実をもらう)


アーダム ほらよ。ミサもいるか?


ミサ 私は、いい。敵かも知れない奴にもらった食料なんて食べられない。毒が盛られてるかもしれないからな。


アーダム ちょ! それ先言えよ! 危うく食べかけたじゃねぇかよ!


ミサ あれだけ忠告したのに油断している奴が悪い。


アーダム ったく冷てぇなぁ。じゃあエステバン、念のために今お前が食べようとしてるやつと交換しろよ。それだったら安全なはずだ。仮にお前が宿主だとして、宿主自身に毒を盛るなんて真似はしないだろうからな。(クリスから木の実を受け取ってから)ほら、交換だ(木の実をエステバンに投げる)


エステバン まぁ、別にいいけど。ほい。ふぅ、やーっと食べれる。(食べようとする)


クリス 食べちゃダメよ!


エステバン え、なんで?


クリス 木の実を返すまでに時間があったでしょ、ひょっとするとエイリアンはアーダムに寄生していて、さっき毒を仕込んだかも知れないわ!


エステバン え、そこまで巧妙なの??


ミサ クリスの言うとおりかも知れない、その木の実はもう食べない方が良さそうだ。


アーダム ちょっと待てって! 俺は寄生されてなんかいねぇ! こんなにピンピンしてるんだぜ? ってかクリスの方こそ、俺たちを混乱させようとややこしいこと言ってるんじゃねぇのか? お前も怪しいぞ!


クリス 私は違うわよ! それなら、木の実に毒が、なんて言い出したのはミサよ! ミサも怪しいわ!


ミサ 私は皆を守りたくて言ったんだ! もしものことがあるだろ!


エステバン はいはい、みんな一旦落ち着こ(再び腹が鳴る音)


アーダム おいテメェ! こんな大変な時にグーグー腹鳴らすんじゃねぇよ!


エステバン 仕方ないじゃーん。勝手に鳴るんだもの。


クリス ねぇ、それって本当にお腹の鳴る音? ちょっとおかしくない?


ミサ 確かに、言われてみれば妙な音だった気が。


(再び腹が鳴るような音)


アーダム また鳴ったぞ!


エステバン え…なんか怖くなってきた……


(再び腹が鳴るような音、連続して止まない。)


クリス 明らかにおかしいわよ! まさか…いるんだわ! 彼の脳内に! そうよ!


エステバン なんか気分悪くなってきた……(地に倒れこむ)


アーダム おいエステバン! しっかりしろ!


ミサ 近づいちゃダメだ!!  急に襲ってくるかも知れない!


アーダム 見捨てられるかよ!


(エステバン、激しく痙攣し始める)


クリス きゃああああああ!(クリス、腰を抜かす)


アーダム 何だよ、どうしちまったんだよ……(エステバンを抑えようとする)おい、エステバン! しっかりしろよ! みんなで生き残るって約束したろ!! おいミサ! 黙って見てないで抑えるの手伝え!!


ミサ ああもう! わかったやればいいんだろ!(二人がかりで抑えようとするも痙攣は止まらない)


エステバン みみ……んな……ごめん……もも……もう……お……れ……だめ……み……たい……だ……


(エステバン死亡、 CO2 探知機の電子音が鳴る。 手には木の実を握りしめている。 )


アーダム エステバ―――――――ン!!!!!!


クリス ああ! もうおしまいよ! こうやって私たち三人も死んでゆくんだわ!!


アーダム 畜生! エイリアンめぇ!! クソッ! 一体どうしたら倒せんだよ!


ミサ 二人とも落ち着け。騒いでも無駄だ。


アーダム 何だと? エステバンが死んだんだぞ! 黙ってられっかよ!


クリス そうよ! 落ち着いてなんかいられないわ!


ミサ 私だって……


アーダム ミサてめぇまさか、エステバンのことはどうでもいいってのかよ!


ミサ (大声で)私だって、本当は泣きたいくらい辛いんだよ! でも全員嘆いてても埒が明かないだろが!


アーダム ミサ…ごめん。


クリス そうよね、騒いでも仕方ないわよね。エステバンだってきっと、私たちが生き延びることを願ってるはずだわ。


ミサ うん、わかってくれればいいんだ。


アーダム こうしてる間にも、奴は誰かの脳に寄生してるんだよな……何かいい手段はないのかよ。


ミサ (エステバンの手から木の実を取り)これ、食べないか?


アーダム おい、冗談だろ? さっきあれだけ食うなって言ってたろ。確かに腹は減ったけど。


クリス ねぇ、食べちゃお! 腹が減っては戦はできぬって言うじゃない?


ミサ エステバンが、景気づけにこの木の実を食べろって言ってる気がするんだ。


アーダム 気がするって、ミサがそんなスピリチュアルなこと言うの珍しいな。あ! まさかエイリアンがお前に寄生してて、毒入りの木の実を食わせるつもりじゃないだろうな?


ミサ 大丈夫だ。私も食べるから。


クリス じゃあ、「せーの」で食べましょ!


ミサ うん、そうしよう。


アーダム 本気かよ……


クリス せーの!


(アーダム&クリスは味わって食べる。ミサは食べたフリをする)


クリス 何これ! こんな美味しい木の実初めて食べた! (アーダムに駆け寄って)ねぇ? すごい美味しくない??


アーダム ちょっ! 近すぎんだよ! ベタベタすんな気持ちわりぃ!


クリス 気持ち悪いとは何よ!(持っていたバラムチで叩く)


アーダム 痛い痛い! でも、確かにうめぇな、こんなの食ったことねぇ!


クリス そうよね! ミサもそう思わない?


ミサ え? あぁ、美味しいけど、普通の木の実の味だろ。大袈裟じゃないか? あれだ、腹減りすぎて美味しく感じたんだろ。


クリス それを言うなら、最近ミサ食べ物私たちに譲ってばっかりだったでしょう? 美味しく感じるのはミサの方じゃないの?


アーダム 確かに。ちょっと痩せた気もするな。ミサ、なんかおかしくね?


クリス そうよ、なんだかおかしいわ……(咳)ゲホン、ゲホン!


ミサ お、おかしくなんかないって!


アーダム ミサ……まさかお前が寄生されたのか……


クリス 絶対そうだわ! (咳)ゲホン、ゲホンゲホン!


ミサ 違うってば!


アーダム 畜生! どうすればいいんだ?


クリス ねぇ……ゲホンゲホン! 私、気分悪いかも……


アーダム 何だって? 二人ともどうしたんだ? まさか、エイリアンは二匹いるのか??


ミサ だから私は違うってば! クリスに寄生してたんだ!


アーダム お前はいつものミサじゃねぇ! それだけはわかる。ゲホンゲホン! ん?? こりゃあ偶然だからな! ゲホンゲホン! あぁ、なんてこった!


ミサ アーダム……お前もなのか……


クリス まさか……ゲホンゲホン! エイリアンは……ゲホン! 三匹いたの??


アーダム 待てよ……ゲホン! でもエステバンの時と……ゲホン! 症状が違うぞ。


ミサ いや、違う。エイリアンが一匹なのは間違いない。宿主はわた——(ミサ急に倒れる。)


アーダム ミサ!


(ミサ、痙攣し始める。アーダムはミサを抑えようとする)


クリス ゲホンゲホン! みんな死ぬんだわ!


アーダム いや、俺たち二人はまだ無事だ。ゲホン!


クリス どうしてわかるの? ゲホン!


アーダム エステバンの症状と全く違うし……ゲホン!俺たち全然立って話せてるだろ?


クリス そういえばそうね。それに咳も軽くなってきたような。


アーダム ああ、なんか喉に違和感は残ってるけど。


(ミサの痙攣が止まる)


アーダム とうとうミサまでやられちまった……


クリス 見て! CO2 探知機の反応がまだ三つあるわ、まだ生きてる!


アーダム ほんとだ……どういうことだ?


ミサ? (上半身だけをサッと起こし)ギぃャャャアアアアアアアアアアア!!!!!!


アーダム&クリス  (飛び退いて)うわぁ!!!!


ミサ? (バグったラジオのように) ハロー——ズドラーストヴィチェ——オラ——シェシェ——(ミサの姿をした何かは立ち上がる)ふぅ、これで七四億九四三〇万五七二六人目か。


アーダム てめぇミサじゃねぇな? 誰だ?何で地球を襲う?


ミサ? まぁまぁ落ち着きたまえ。


クリス ミサを返しなさいよ!エステバンやみんなの命を奪っておいて今更出てきて、何様よ!


ミサ? お前たちが戦っていた相手とせっかく話せるんだ。もう少し理性的になろうじゃないか。要件は一つずつ頼みたいねぇ。


アーダム クソッ、なんて生意気なエイリアンなんだ。まぁいい、お前は誰だ?


ミサ? ベルバ【Belba】星人だ。


クリス ベルバ? 聞いたことあるわ。大学の節足動物特殊講義で。


アーダム お前知ってるのか?


クリス うん、ダニの一種よ。道理で寄生するわけだわ、なんせダニだもの。


アーダム 虫なのか。じゃあこれが必要だな!(虫網と虫かごを拾う)


ベルバ星人 貴様ら、私が想像していたより遥かにマヌケなようだな。


クリス マヌケとは何よ! 私は元部長よ!


ベルバ星人 ん、部長? 何の?


クリス B大学宇宙人研究部よ!


ベルバ星人 貴様、アメリカ大統領ではないのか?


クリス 何でそうなるのよ。違うわよ。


ベルバ星人 貴様らが送ったメッセージでは、確かに大統領と聞いたが。


アーダム ん? まさかこいつ、俺たちのメッセージを解読し間違えたのか?


クリス おかしいわね、大統領だなんて言ってないはずだわ。


ベルバ星人 いや、聞いたぞ、私は。貴様が英語で「私は大統領【President】だ」と。英語だからイギリス人の可能性も考えたが、首相【Prime Minister】となるはずだからこいつはアメリカ人だと踏んだ。アメリカは世界一の国なんだろう?貴様らが寄越したデータからわかったよ。要するに、言わば地球の代表ともあろう合衆国大統領があんなグダグダでみっともないふざけたメッセージを我々ベルバ星人に送ったわけだ! 無礼にも程がある! 宣戦布告も同然! 地球が攻撃された理由がわかったか?


アーダム ちょっと落ち着いてくれるか? お前、物凄い誤解をしてるぞ。クリス、確認できるか? データ持ってるだろ。


クリス う、うん。


ベルバ星人 いいや間違いない! 数々の星を征服してきたベルバ星人の翻訳能力に狂いは無い!


クリス (スマホのようなものを取り出し)えーと、これね!


(早送り開始)ザザザ——お!通信システムに侵入できたみたい

だ!よし、早くメッセージに移ろう。座標はセット完了した。チャ

ンスは 1 回きりだ。クリス、頼んだぞ!うん!こちら地球。これは

遥か遠くの世界からの贈り物です。(早送り終わり)


クリスの声の録音 私たちはB大学宇宙人研究部と言いまして、あ!ちなみに私は部長【club president】のクリスティーンで——


クリス やっぱり部長【club president】って言ってるわ。


ベルバ星人 なんだ……と……


アーダム てめぇ、取り返しのつかないことをしてくれたな……


クリス 最悪だわ。こんな悲劇聞いたことないわ……


ベルバ星人 あ、いや、その……


アーダム……エステバンとミサを返しやがれ! 他の人も動物もみんなをよぉ!!


クリス アーダム!


アーダム んだよ!


クリス 私たちの責任でもあると思うの。


アーダム なんでだよ!


クリス 私たちが遊び半分でISSの通信システムを乗っ取って、メッセージを送ったのよ。


アーダム でもよぉ、奴らが変な誤解しなけりゃ済んだ話じゃねーか!


クリス 私たちがメッセージを送らなかったら、誰も死ななかったのよ!


アーダム そりゃそうだけど……


ベルバ星人 我々が誤解なぞしなければ、このような悲劇は防げたわけだ。私からも謝る、すまない。


クリス あなた、私たちをどうするつもり?


ベルバ星人 どうもしない。もう殺す理由も無いからな。


クリス そうよね、よかったわ。じゃあミサは?


アーダム そうだ! せめてミサだけでも!


ベルバ すまない……彼女はもうただの抜け殻だ、諦めてくれ。


クリス あなたはどうするの?


ベルバ星人 ベルバ星に帰る。移動は一瞬だからな。


クリス あの、できればなんだけど……これからミサとして、私たちと一緒にいてくれたら嬉しい。アーダムもそう思うよね?


アーダム 複雑だけど、二人よりはいいかもな。


ベルバ星人 二人も知っている通り、宿主は十分以内に死——(ベルバ星人が倒れ、痙攣し始める)


アーダム ミサ!!(ミサに駆け寄って抑えようとする)


クリス もう手遅れよ!


アーダム そう……だよな……


(ミサ死亡。探知機の電子音が鳴る)


クリス これでもう、地球には私たち二人だけね。


アーダム ああ。じきに俺たちが死んで、地球は死の星になるんだな。


クリス そうね……(スマホのようなものに向かって)こちらクリス、アーダム。私たちは地球最後の生存者です。 【This is Chris and Adam, last survivors of the earth, signing off】


アーダム これからどうする?


クリス そうね……(カブトムシを見て)あ、カブトムシ、まだいたのね。


アーダム あ、ほんとだ。(二匹を拾い上げ)こいつらも行くあてがないんだな。


クリス (ハッとして)これじゃだめよ!


アーダム ど、どうした?


クリス (ムチを手にとって)作りましょう!【we have to make!】


アーダム 何を?


(幕)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Survivor(生存者) 加賀倉 創作【書く精】 @sousakukagakura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ