害悪チーター神に合う
まばたきをするかの如く一瞬の出来事だった。
水の中を漂っている感覚、暗い世界に点々と光が瞬いている。
例えるのならば宇宙空間にでも居るかの様な感覚。
前後の記憶があやふやな状態で少しずつ自我が戻ってくる。
同時にあの醜悪な男の顔も鮮明になるが不思議と恐怖を覚える事は無い。
鮮明になってくる意識や記憶、自身の中の全てが過去になっていく感覚。
今の状況、自身に起きた出来事、それらが取るに足らない些細な事にすら思える。
「これが全能感って奴かァ…」
大きく伸びをしてから自身の頬を触るが不思議と痛みは無い。
おもむろに自身の体を確かめる、衣類は一切身に着けておらず生まれた姿のまま、打撲痕も見受けられないどころか自身の温度すら感じない。
「夢…?」
「では無いよ」
声がした方向へと視線を向ける、なんだコイツは、と思う程にシンプルな外見をしている人の形をしている何かが居た。
正直に不気味である。
「人間は視認出来るモノを信じやすい傾向にあるからね、視認できる形を用意したのだが、不気味だったのならごめんね」
「次があるならもう少し取っ付きやすい姿で頼みたいかな」
そう軽い冗談を言うと眼前の何かは「そうしてみるよ」とヘラヘラと返した。
どの様な顔をしているか分からないはずなのに目の前の存在がどんな表情でどんな感情かが何となく分かる、不思議な感覚だ。
「さて、君がどんな事をしてきたかは知らないけれど、君が今どんな事を考え、どんな事を思っているのかは此方も把握してるから君が今知りたい事を教えてあげよう」
自分が何故ここに居るのか、夢では無いとはどういう事なのか他にも知りたい事が山程あるがとりあえず目の前に存在の言葉を待つ事にした。
「まず、君は死んだ、今ここに
「死んだら天国やら地獄やらに行くものかと思っていたが…ラッキーって奴か、どうせ地獄に落ちる可能性のが高かったしねェ」
「人間が勝手に考えたありもしない救いとやらが悪い方向に向かわなくてよかったね」
皮肉にしか聞こえないが目の前の存在は本心でそう言っているのが分かる。
しかし考えてみると目の前のコイツは何者なのだろうか、俗に言う神か何かだろうか。
「神?あぁ…正しいような違うような…かな、まぁ呼び名は好きで良いよ、それこそ類似してる神でも良いし、ただ君が考える神と同じ様にこの世界、星々に生命の種を撒いたり色々やったけど別に人間の信仰で存在している訳じゃ無いし、人間を見守ってる訳じゃ無いよ?分かりやすく例えるなら人間が植物を育てる様に此方が星々や世界を育ててる感じかな、植物に付いた小さな虫までは君達だって見ないだろ?つまりそういう事さ」
その中の例外が自分であり、何か目的があって接触したという事だろうか。
「その通り、だから適当に消えかけた君を拾ったってわけ」
「なるほど…ところで純粋な疑問に思っていたんだが私はお前の感情やどんな表情かは分かっても考えている事が分からないんだが何故お前は私の考えている事が分かるんだ?」
自身も目の前の存在が考えいている事を知る事が出来れば手っ取り早いと考え、疑問を投げかけるが帰ってきた返答は残念なものだった。
「まぁ単純に種としての違いかな、期待している所悪いけど君は魂だけの存在だから感情や雰囲気に過剰に引っ張られているだけで元々そういった事は出来ないからね、逆に元々形を持たない我々は人間みたいに言語を通して認識し合う会話と言うモノをしない、必要としていないだけだよ」
種として存在している以上当たり前だが我々、つまり複数いるという事になる、知的生命体である人間がこれを知ったらさぞかし慌てるだろう。
そんな事を考えいていると神?が話を戻してきた。
「我々の事はともかく君を拾った理由を話すね、聞いてみて拒否するならするでそのまま消えてくれても良いし、了承するならするで此方もありがたいけど」
本来目を掛けないに此方に目的を持って接触してきたのだ、此方としても興味が無いと言えば嘘になる。
「うんうん、興味をもってくれて嬉しいよ、それじゃあ簡潔に話すと君にはこの星とは違う星、違う次元、時間の世界に行って欲しいんだ。無論そのままだと消えて無くなるからその魂に合う元の肉体に近いモノを作る、死者蘇生、というより転生だね」
違う次元、異世界、ゲームや小説の世界の様な話だ。
剣や魔法を使って魔物と戦う自分の姿を想像して苦笑する。
しかし何故別の世界へとわざわざ転生させるのか、転生先で何をするのかなど、分からない事が幾つかあったが神?は困ったような表情をする。
「此方も頼まれただけだから転生先での目的は分からないなぁ、あくまでも君の言う地球での事だったら説明出来るんだけどね、ざっくりと言うなら君の考えているゲームや小説?と同じ様に魔法やら魔物やらが居るみたいだよ?詳しい向こう側の事は向こう側の存在しか分からないけど…まぁ大丈夫だよ、アレは人間には寛大だし、人間の言う神とやらに近しいしね」
神?はヘラヘラと笑いながら説明するが本当に大丈夫なのだろうか。
そもそも転生先がファンタジー世界ならどんな状況であれまた死ぬ未来しか見えない。
生身の人間が獅子に勝てる道理も無い、それらは異世界の怪物とて同義だ。
「確かに地球の人間ならすぐに死にそうだね、転生自体初めての行為だしねぇ、辞めてスッパリ消えておく?」
「そんなスナック感覚で消えるのも何か嫌だわ、転生自体が初めてなら何かしら恩恵やら決まり事やら決めてからってのはどうなん?」
転生ものでよくあるチート能力辺りでも貰わないと温室育ちのぬくぬく地球人には異世界なんて高難易度クソゲーやってられないのだ。
「でも君の魂に悠長に話し合って決まり事を決める時間は残ってないからねぇ、それにそういった力とかは先に肉体に色々と組み込む必要があるんだよねぇ…ホラ、もう消えかけてるし」
両手を見ると少しづつ透けて見える、確実にこのままでは消えて無くなる。
「なら私の記憶を元にそのままソレらの力に対して実行する方法を今後転生したモノに与えるって感じで頼む、後はこっちでどうにかすっから!後は肉体を得た後で向こう側に恩恵そのもの提供する為の方法をクレ!後はそこから適当に一つ恩恵を貰うから!」
「んー…それなら良いよ、少し待っててね」
私の知る知識を神?は少しづつ力として肉体へと宿していく。
まるでゲームのシステムの様に可視化出来る
私はどの様に選択すれば恩恵が実行されるかなど、その基礎となるコードの羅列を脳内で組んでいく。
私は向こう側の神?に転生の恩恵を提供し説明の為に
「あっぶねぇ…マジで消えて無くなる所だった…」
神?が作った肉体は生前とあまり変わっていない、貧相な胸、平均よりも圧倒的に小さい身長、切らずに伸ばしっぱなしで脹脛まで伸びた長髪、どこからどう見ても不審者極まりない喪女である。
「さて、それじゃあお別れだね、人間と話したのは久々だけど良いモノだったよ、思い出させてくれてありがとうね、それじゃ向こう側へ繋ぐよ」
「こっちこそ転生させてありがとう神様、向こうでも上手くやるよ」
神?が繋げた空間の裂け目に立ち、振り向いて手を振る。
神も笑顔で手を振ってくれる、きっと会う事はもう無いが「またね」と声を掛ける。
その言葉に神?も「また」と言葉を返す、その後最後に満面の笑みで神?へと問いかける。
「神様、バックドアって知ってる?」
害悪チーターの異世界快楽マーダー 蝉ボム @MAOCHI
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