第25話
三人は暗闇の中を少しづつ進んで何とか捜索の手から逃げ延びた。
シシルはディオンの背中でいつの間にか眠ってしまったが、夜が明けるまで逃げつづけたルークとディオンは正直もうへとへとだった。
それでもライラックが治める町の近くで休息をするのは危ないと判断して、なんとか昼までは歩き続けた。
満足に眠れていない馬を暗闇の中で走らせるわけにはいかなかったのだ。
それでも太陽が完全に真上に来る頃には森を抜けることができた。
「さすがに町の衛兵がここまで探しに来ることはないでしょう」
後方を振り返るながらディオンが言った。
ルークは今回のことで自分の軽率な行動を後悔していた。
「攻略本」には「貴族から疑いをかけられる」なんていう情報は載っていなかった。
しかし、だからといって自分のこの「不完全な攻略本」ことを責めるわけにもいかない。
結局のところ悪いのは安易に疑われるような真似をした自分なのだ。
ルークは反省した。
「……若、あそこで昼食にしましょうか」
いまだに眠り続けているシシルを抱きかかえながらディオンが指をさす。
ルークがその方向を見ると丘の上に一本の大きな気が立っていた。
確かに休息をするにはよさそうな場所だった。
馬をその木の幹に繋ぎ、餌と水を与えて休ませる。
それから薪を集めてディオンと二人で昼食の準備をした。
「若。あまり気にしないでください。誰にでも失敗はあるものです」
ディオンは元気のないルークを気にかけていてそう声をかけた。
それにルークは「うん」と返事をする。
「それに結果としては問題にならずに済みました。……それから」
ディオンがそこで言葉を止めた。
気になったルークが顔を上げる。ディオンは視線でルークに自分の目の前の景色を見てほしいと促した。
それは丘の上から見える景色。
三つの大きな山が横並びになっている圧巻の景色だった。
「この景色を見れたのも若がここまで連れてきてくれた証ですから」
ディオンがそう言って笑う。
目の前の大きな自然を目にするとルークの心は少し晴れた気がした。
昼食を作り終わり、寝ていたシシルを起こす。
シシルは山に大興奮で
「あそこか? あそこにいくのか?」
とはしゃいでいる。
ルークが
「『イルカワナリ』とは違う方向だよ」
と教えてもしばらくの間はしゃぎ続けていた。
昼食を食べた後、ルークたちも体を休めることにした。
念のため「風」の壁で周囲を囲い、安全を確保しておく。
シシルは再び眠りに落ちて、ディオンも焚火の前で座りながら目を閉じている。
ルークも少し眠かったが、それよりも気になることがあった。
大きな木の幹に体を預け、「攻略本」が出てくるように念じる。
本はすぐに目の前に現れた。
ルークは木陰に寝転がり、流れる風の心地よさに身を任せながら「攻略本」に目を通した。
「攻略本」にはやはり「ルークが貴族に疑われる」などの記載はない。
そればかりか、ディオンが付いてくるという記述はあるのに途中でシシルに出会うことは書かれていなかった。
「攻略本」のページが少しずつ増えていくにあたり、その「不完全さ」が浮き彫りになっていくように感じる。
まるで「誰かが意図的に情報を書いていないようだ」とルークは思った。
その誰かとは「攻略本」を書いている誰かなのだが、今はそこを気にしてもしかたがない。
ルークが気になったのは「攻略本」のキャラ紹介のページだった。
やはり、ライラック・ハリアーのページが増えていて、ルークはそこに目を通す。
ライラックはなかなかやり手の貴族のようだ。
彼の手腕は王都の貴族も認めていて、辺境貴族の中でも評価が高い。
その反面、同じ地位の周辺貴族からはよく思われていないようで「ハリアー家は中央貴族に媚びを売って今の地位を手に入れた」と陰口をたたかれることもあるという記載があった。
キャラクターページの続きを読むとそれもあながちすべてが間違いではないようだ。
ライラックの今までの功績が挙げられている欄にいくつか王都で犯罪を犯し、逃亡した犯人を捕まえた経歴がいくつかあった。
町の位置的にも王都からそこまで離れているというわけでもなく、「イルカワナリ」を含む周辺の治安が悪い町に逃げ込む逃亡犯たちを捕まえる最後の砦のようになっているらしい。
今回もルークに抱いた違和感から何かきな臭いものを読み取り行動に移したのだろう。
さすがにルークが犯罪者とつながりがあると確信を持ったわけではないと思うが、もしも今後再び出会うことがあったら十分に周囲しようと心に刻むのだった。
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この異世界には攻略本がある! 六山葵 @SML_SeiginoMikataLove
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