第24話

ルークが町で買い物を済ませ、森の野営地に戻るとディオンとシシルの二人は仲良く干し肉を食べていた。


どうやらシシルは泣き止んだようでスークの姿を見ると駆け寄ってくる。


「ルーク! 見ろ。ディオンの干し肉だ。塩加減がぜつみょうでうまいぞ!」


そう言ってかじりかけの干し肉をぐいっと前に突き出して自慢げにみせるシシル。

その様子にどうやら二人は少し仲良くなれたようだとルークはほっとする。


「すいません若」


ディオンが申し訳なさそうにやってきてルークから買い足した食料などを受け取る。

そのまま夕食の準備をはじめるらしい。


「ディオン、私も手伝うぞ!」


「そうか、ならこの野菜を切ってくれ」


「ううぇえ、野菜はいやだー」


「好き嫌いをすると大きくなれないぞ」


二人のやり取りを見てルークは和やかな気持ちになった。


その日の夕食は干し肉と野菜のスープ。それから保存が効くようになるべく水分量を減らしたパンだった。


パンの硬さにシシルは最初歯をつきたてて苦戦していたが、ディオンが「スープに浸してやわらかくしてから食べる」ことを伝えるとおいしそうにたいらげてしまった。


暗くなるとシシルはあっという間に眠ってしまう。

その頭をなでているうちにルークも眠りについていた。



「若……起きてください」


ディオンに声をかけられ夜中にルークは目を覚ました。その隣でシシルが眠そうに目をこすっている。


「交代の時間?」


ルークも少し眠かった。

今まで夜の見張りの時には一度眠っても必ず自分で起きれていたし、起こされるのは初めてだった。


ルークの問いにディオンが首を振る。

それからテントの幕を開けてルークに外に出るように促した。


テントの近くで燃えていた焚火は水をかけられて消してあった。


暗闇の中で目をこらすとぽつぽつと光が見えた。

ゆらゆらとゆらめくその光が松明の火であると気づくのに時間はかからなかった。


無数の松明の火が森の木々にさえぎられて見え隠れしているのだ。


「町の人かな?」


完全に目を覚ましたルークがディオンに尋ねると


「おそらく……」


とディオンは頷いた。


町の人たちが深夜に森をうろつくような風習はないだろう。

「なにかを探している」そう考えるのが妥当だった。それもわざわざこんな夜中に探しているあたり、探し物は「人」だろう。


とにかく、ルークたちはすぐにその場を離れなければならなかった。

貴族であるルークと犯罪者のシシルが一緒にいるところを誰かに見られるのはまずい。


急いでテントを片付けていまだ眠そうにしているシシルをディオンがおぶさり、三人は近づいてくる松明の人は反対の方向に、森のさらに奥へと進んでいく。


野営をしている後を隠す暇はなかった。

馬の手綱を引いて森の奥の方に進む。ルークは「風」の魔法で自分たちの足跡を消しながら歩いた。


そのおかげか、松明の火は進む速度を落とし三人との距離が開いていく。


目を凝らしながら森を進んでいくと岩場に囲まれた窪地を見つけ、ひとまずそこに身を隠すことにする。

もっと距離を取ろうにも見つからないように明かりも灯せないのでは見通しが効かず動くにも限界がある。


「ディオン。シシルを頼むね。ちょっと様子をみてくるよ」


ルークはそう言ってディオンが止める前に走り出す。

来た道をある程度もどると再び松明の火を目視することができた。


先ほどとは違い、集まった火の一団はその場で止まっている。

ルークは音を立てないように気を付けて、できるだけ近づいていく。


それが町の衛兵たちであるとわかるくらいに近づくと、彼らの声も聞こえてきた。


「本当に犯罪者がこの近くにいるのか? 目撃証言があったのはもうずいぶんと前だろう」


「なんでも今日ハリアー様のところにきた貴族があやしかったらしい。まぁ、確定じゃなくて可能性の話らしいけどな」


ルークが見つけたのは五人の衛兵だった。そのうちの二人がそんな話をしている。

茂みの中に隠れて引き続き様子をうかがっていると、彼らのほかにも五人で一つの小隊を組んで森の中を捜索しているということがわかった。


さらに、ライラックがルークを「怪しい」と思った理由についても知ることができた。


ルークはライラックに「一人で旅をしている」と言った。

それは嘘だったが、ライラックにばれるはずもない。しかし彼はルークのその言葉に違和感を持ったようだ。


ルークに町の案内をするように衛兵を呼び出したとき、彼は小声で別の指示もしていた。


「彼の動向をあとで報告するように」


と。

その結果ルークが町で三人分の食料等を購入していたことが報告されてしまい、ライラックはルークが「同行者」の存在を隠していたっことを知り、「何か隠している」と怪しんだのだった。

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