第23話
ルークのお供が一人増えて三人になった。
馬は二頭しかいないためシシルはルークの前に座る。
「すごいなぁ、ルーク。私町の外をこんなに見たの広いんだな」
馬の背の上で目を輝かせるシシルを見てルークも嬉しかった。
順調に進んでいた旅路だったが、シシルが加わったことで増えた問題もあった。
「ごめんなぁルーク。私がいるばっかりに……」
シシルが涙目で頭を下げたのは次の町にたどり着いた後のことである。
その町でも衛兵が検問をしていたため、ルークたちは町での滞在をあきらめて近くの森に身を隠し野営することにした。
幼く、あどけないとはいえシシルが指名手配されているからだ。
「これなぁ、『イルカワナリ』を出て最初についた町で盗みをしたらいつの間にか配られてたんだ。私の名前も書いてあるし、便利だなーと思って持ってきた」
どうやらシシルは手配書の意味を理解していないようで、本当に「身分証」くらいにしか思っていないようだった。
このままではシシルが誰かに無邪気に手配書を見せた結果、面倒くさいことになりそうだったのでルークは「手配書」がどういうものか説明していた。
ルークはシシルを一緒に連れていくと決めた時にはもう「町に入りづらくなること」を理解していたしそれについて彼女を責めるつもりもなかった。
しかし、「手配書」の説明を受けてシシルはなぜ町に入らなかったのか、その原因が自分であると理解してしまい泣き出したのである。
「シシル、泣かなくていいよ。『盗み』っていうのは確かによくないことだけどシシルたちがそうしないと生きていけなかったのを俺はわかっている。そういう環境を変えるために俺は『イルカワナリ』に行くんだから」
ルークがそう言って慰めてもシシルはしばらく泣いていた。
町に入れないからと行って、ルークたちの持つ物資は補充しなくても「イルカワナリ」まで保つほど潤沢ではない。
町に入れられないのは手配書のあるシシルだけなので、ルークとディオンだけならば町に入って買い出しをすることはできるのだがさすがに泣いている女の子を一人残しておくことはできない。
「若、私が町に行って買ってきます」
ディオンがそう言ったが、ルークは少し悩んだあとその申し入れを断った。
「町には俺が行くよ。貴族の身分を使った方が勝手がよさそうだ」
ルークの言葉にディオンは明らかに動揺する。
その様子に気づいていながらもルークはあえて無視した。
「それじゃ町に行ってくるから、シシルを頼むね」
ディオンにそう言い残し、ルークは野営地を離れる。
残されたディオンは
「わ……若」
と心細そうに呟くのだった。
ルークから見てディオンは明らかにシシルに戸惑っている。
敵視しているとか、警戒しているというわけではなさそうだが「子供が苦手」というような感じだ。
シシルもシシルで第一印象がよっぽどよくなかったのか「ディオンきらーい」とことあるごとに呟いていた。
本気ではなさそうだったが、真面目なディオンはそれを真に受けている節もあるようで余計に接しづらそうにしていた。
ルークがあえて「町には自分が行く」といい、シシルのことをディオンに任せたのは二人に仲良くなってもらいたかったからだった。
♢
町の検問を受けると衛兵はルークの身分にかしこまったあと、彼を領主の屋敷まで案内した。
そこでルークは領主のライラック・ハリアーに挨拶をする。
「ほう、あなたがハリオン家のご子息ですか。ハリオンどのの手腕は私も聞き及んでおります。どうぞこの町でゆっくりしていってください」
ライラックは恰幅のいい男性だった。
彼はルークに握手を求め、そのあとで町の質のいい宿屋を案内すると申し出た。
「いえ、泊まるつもりはないんです。必要なものだけ買い足せればそれで……。自立するためになるべく宿屋の類には泊まらないようにしているので」
ルークの言葉にライラックは不思議そうな顔をしたが、すぐに笑顔になる。
「そうですか。それはご立派ですな。それでしたら、町の主要な店を案内させましょう」
ライラックがそう言ったことでルークは少しほっとした。
「シシルがいるから町には泊まれない」とは言えないのでとりあえずついた嘘だったがなんとかごまかせたらしい。
ライラックは衛兵を呼ぶとルークに町の案内をするように指示をした。
森に残してきた二人のことも気になるし、店を探すのに時間を取られたくなかったルークはその行為に甘えることにした。
「ルーク殿、旅はおひとりで?」
ライラックに聞かれてルークは頷いた。
成人しが、自分の過ごしてきた「トフサル」の町しかしらないため見聞を広めるために旅をしているといままでの町でもした説明を繰り返した。
「そうですか。これより先にある町や村は治安も悪くなりますのでお気を付けください」
ライラックはそう言ってにっこりと笑ってルークを見送るのだった。
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