第22話

 その夜は王都中がお祭り騒ぎだった。


 夜空が明るくなるほどの光が街中から放たれて、歌や踊りがいつまでも続いた。


 いくつもの花火が夜空で咲き誇り、色とりどりの浮遊石が宙をまって夜の街を色とりどりに染め上げる。


 そのパーティーの主役は俺たちで、知らない人たちに囲まれていろんな話をされた。


 ある者は腕に覚えのある元戦士。自分も若ければ戦場に行きたかった。お前たちはこうなるなよ、と義足を叩いた。


 ある者は新人騎士。俺たちの戦いっぷりに感銘を受けたと言い、これからも騎士団の一員として頑張ると宣言していたが上司に首根っこを掴まれて引きづられていった。


 ある者は記者。俺たちの有志を記事にして世界に発信しようといっていた。彼は文字が持つ力は偉大だと言い、時代がメディアを変えても文字の力はどこかで必ず必要とされるのだと熱弁していた。


 その中にはビートとミネアもいて、ビートは俺に「絶対に負けないからな!」といって木刀をもったままどこかへいってしまった。


 たぶん特訓しにいったのよとエリシアがいい、ほっとういていいのか尋ねると、「ミネアがいるから大丈夫」とのことだった。


 二人が特訓に行くところを微笑ましく思いながら見送ると、こんどはエリーゼさんたちがやってきた。


「エリシア……」


「お母さん……」


 エリーゼさんはエリシアを抱きしめた。


「絶対に生きて帰ってきてね。もしもの時はロイドくんを殺して生き延びるのよ」


「お母さん……ありがとう」


 おい、ちょっとまて。いまなんだかとんでもなく不穏なことをいわれたぞ。


「ロイドくん。いっておきますけど、娘に手を出したら……許さないわよ?」


「あ、はい……」


 なんだかエリーゼさんにはすごく嫌われてしまった。


 落ち込む俺の背中をナインとエルフィンが優しくさすってくれた。


「そういえば、あのウルフェリアとかいう狼女はどうなったのぉ?」


「ワフっ、ワフっ……ここにいるが?」


 ウルフェリアは両手に大量の串焼きをもって普通に祭りに参加していた。


 しかしすんごい格好だな。相変わらず革のベルトで胸や腰回りだけを隠しているって感じだ。


 いまはベルトの下に包帯も巻いているが、だとしても町中をうろついていい格好には見えない。


 後頭部でまとめているハリガネみたいな髪までベルトで結んでいる。


「その服装になにかこだわりでもあるのか?」


「これは首輪だ。わたしが一番魔王様の飼い犬にふさわしいという証なのだ」


 そのベルトって首輪だったのかよ。


 というかこいつ、まだ親父の配下でいるつもりなのによく打倒魔王の祭りに参加できるな。


 どうやらウルフェリアは俺に負けたことで親父にあわせる顔が無いらしく行く当てがないそうだ。


 そこでエリーゼさんがこれもなにかの縁だということで屋敷のメイドとして正式に雇うことになったらしい。


 どうか二人で共謀して俺の暗殺だけは企てないで欲しいところだ。


「…………」

「…………」

「うわぁ!?」


 いつのまにか、俺の隣にバケツの幽霊がいて度肝を抜かれた。


「モブリー! コリンモブ! もう怪我は大丈夫なの!?」


 モブリーとコリンモブは力こぶを作って治ったことをアピールしていた。


「よかった。二人とも、もしかして応援してくれたの?」


 モブリーもコリンモブもまるで鏡写しのように同時に頷いた。


「ありがとう。あなたたちの分まで頑張るわね。大丈夫。わたしには仲間がいるから」


 エリシアが二人の手を握ると、二人は俺に顔を向けた。


 ほの暗い十字の穴から妙な圧を感じた。


 オマエガイナケレバオレタチガ……。


 そんな言葉が聞こえてきそうな気がしたが、なにも聞こえなかった。

 

 二人はエリシアに手を振ると、そのまま街の件層へと消えていったのだった。


「な、なぁエリシア……あの二人っていったい何者なんだ?」


「さあ、わたしも詳しくは知らないわ。ただ、お祖父ちゃんの代から二人はずっと我が家の従者なのよ」


 お祖父さんの代からって、いったいいくつなんだあの二人。


 なにか呪術的なものを感じるが、触れないでおこう。


「おやぁ、あなた方はいつぞやの」


 街を歩いていると、平原で助けたキャラバンと再会した。


「あの時は馬車に乗せてくれてありがとうございます」


 エリシアが礼儀正しくお辞儀をすると、団長は慌てて手を振った。


「いやいやいや、めっそうもない。むしろ我々こそあなた方には助けられた。しかしまぁやはりというかなんというか、闘技大会を優勝するほどの腕前だったとは御見それしたよ」


 団長はカールした髭をびよんと引っ張りにこやかに笑った。


「いつまでこの街にいるんですか?」


「そうだねぇ、我々はいつも長くても七日しか滞在しないからねぇ。あと三日ってところかな」


「そうですか。寂しくなりますね」


 エリシアの反応に、団長は機嫌を良くしたのか肥えた腹を叩いた。


「ははは、ありがとうお嬢さん。もしもお嬢さんたちがこの街を出るときにタイミングがあったらまた乗せてあげよう」


「いいんですか!?」


「ああ、もちろんさ。赤竜から助けてもらった上に、こんな素晴らしい売り時を譲ってくれたんだからね。それくらいしなきゃバチがあたるってものさ」


 団長から珍しい果実のジュースやナインが好きそうな飴細工をもらって俺たちはキャラバンから離れた。


 酒場のあたりでは猫耳ウエスタンハットがとっくみあいの喧嘩をしていて仲間の傭兵たちがなだめている。


 城へと続く長い坂道を警護しているのは重騎士たちだ。


 人混みの中で時折視界に入ってくるのは、祭りを満喫している勇者(仮)チーム。


 夜会の連中は路地裏でひそひそ内緒話をしている。 


 街を見渡せばあっちこっちに見たことのある顔がいる。


 塔の上にいたときは、こんなにたくさんの知り合いができるなんて思いもしなかった。


「ねぇー、なーんか疲れてきちゃったぁー」


 ナインがぶーたれ始めたが、実のところ俺も疲れてきていた。


 あんまり人になれていないのに、こんなに大賑わいの中に長時間いたらそりゃ疲れる。


 エリシアに視線を送ると、彼女は綿菓子を頬張りながら頷いた。


「そうだね、わたしも」


「んじゃ、もういっかい会場にいかないか? なんていうか記念にさ」


 俺たちは闘技大会の会場に帰ってきた。


 会場はすでに鍵がかけられていたが、俺たちは外壁をよじ登って中に忍び込んだ。


 本来なら暗いはずの会場内は、街中が明るいおかげで仄かに周囲が見える。


 それにここなら、夜空も満喫できた。


「ねえ二人とも」


「なんだ?」


「なぁにぃ?」


「わたしたち、きっと勝てるよね」


「そりゃとーぜん。なんたってこのあーしがいるんだからねぇ!」


「俺だって、魔王に……いや、親父に負けるつもりはない!」


 俺たちはだれが言い出したわけでもないのに、武器を手に取った。


 そして頭上に掲げ、それぞれの武器を重ね合わせた。


 俺たちの決意は固い。


 必ず親父を倒して見せる。


 旅はまだ、始まったばかりだ。

 

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やがて最強の君とであうために 超新星 小石 @koishi10987784

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