第5話 ふとした言葉で垣間見る

 映画のエンディングも終わり、劇場内が明るくなる。

 俺はまず固まってしまったような気がする体をほぐして、それから秋葉さんを横目で見た。

 すると彼女は、既に俺の方を見ていた。


「ね、映画はどうだった?」

「面白かったよ」

「だよね。私もそう思う」

 なんて笑う秋葉さんに、俺は思わず目を瞬かせてしまう。


「秋葉さんもそう思ったの?」

「ええ。意外?」

「うん。だって映画が始まる前に……」


 ──「実は私、恋愛映画は苦手なの」

 秋葉さんはそう言っていた。


 今回見た映画は恋愛映画として売り出しているわけではないが、それでも話の軸になるのは主人公とヒロインの恋物語だ。

 だったらやっぱり、秋葉さんの苦手な部類なんじゃないかなって思ったんだけど。


「それはそうだけどね。あくまで客観的な評価だよ。それにこの映画を選んだのは……まぁ深く考えてなかったとはいえ私だし、選んでおいて酷評するのも良くないでしょ?」

 それは確かに。


「もっとも、見てもないのに批評するのも良くけどね」

「あー……食わず嫌いみたいな?」

「そうそう。レビューはちゃんと見てからじゃないと。それも、ちゃんと客観的な評価でね」

 なるほど、たしかに言えてる。


「そろそろ人がいなくなってきたし、私たちも出よっか」

「うん、わかった」

 映画館のロビーに戻る頃には、既に時刻は12時をすぎていた。

「これからどうするの?」

 今回のデートプランを立てたのは秋葉さんだ。

 そして俺は何の説明も受けていない。


「或翔君、お腹空いてる?」

「うん? ……うーん、空いてる寄り、かな」

 めちゃくちゃ空腹ってわけでもないけど、かと言って食欲がないわけでもない微妙な感覚。


「そっか。或翔君がまだお腹空いてないようなら、お昼はもう少し時間を置いてからにしてもいいんだけど、どうしよっか?」

「俺はどっちでも大丈夫だよ。……っていうか、秋葉さんの方こそ、お腹空いてないんじゃないの?」

「ううん、そんなことないよ。私も空いてる寄りだし、お昼済ませちゃおっか」

 はにかむように笑って言うと、秋葉さんは「こっちだよ」と歩き出した。

 どうやらお昼をどこで食べるかは既に決めていたらしい。準備が良いなぁ。


「ほらここ。前に一度だけ来たことあるんだけど、ここのパスタがとっても美味しいの」

 案内されたお店はお昼時だからまぁまぁ混んでいて、十分少し待ってようやく席に着けた。


 いや、日曜日であることを考えれば、待ち時間は短い方か。

 注文に関しては俺がカルボナーラ、秋葉さんはナポリタンを頼んだ。

 運ばれてきた料理はどちらも美味しそうで、「いただきます」と言うやいなや、口に運ぶ。


「あっ、美味しい」

「でしょ?」

 向かいの席で、秋葉さんが微笑んでいる。

 それから秋葉さんも、パスタを食べて幸せそうに笑っていた。


「うん……いいな。もっと家から近ければ通ってたかも」

「あ、分かる。私もそう思った」

 秋葉さんは微笑むと、また美味しそうにパスタを口に運ぶ。


 そういえば映画の前に、間食や買い食いをさせてもらえない、みたいなことを言っていたけど、外食はどうなんだろう?

 秋葉さんの家は俺やその他大勢のクラスメイトと比べたら裕福な方だし、外食する機会があってもこういう場所では食べないのだろうか。

 なんて思っていて、ふと思い出したことがある。


「そう言えば……。さっきチュロス食べてたけど、大丈夫? 今更だけど、俺に合わせてああ言ってくれたとか……」

 言うと、いつも余裕な態度を崩さない秋葉さんが、少しだけ硬直した。

 一瞬よりもちょっと長いくらい、本当に少しだったけど、彼女らしくなかったから分かってしまった。


 やっぱりお腹空いてなくて、俺に合わせてお昼を先に済ませよとしてくれたとか?

 だったら申し訳な──。

「ね、ねぇ」

「ん?」

 俺の思考を遮るように、秋葉さんは口を開いた。


「別に私、食い意地張ってるわけじゃない……からね?」

「……はい?」

「だから……その。別に、キミに合わせてお腹空いてるっていったわけじゃないよ。本当にお腹空いてる寄りだったってだけで、その……」


 やや沈黙があり、秋葉さんは控えめに俺を見た。

「この後……今すぐじゃないけど、美味しいクレープ屋さんがあるって話だったから、そこも寄ろうと思ってたんだけど。沢山食べる女の子、嫌い?」


 ──……めっちゃ可愛いな。

 頬を少しだけ赤くして、やや俯きがちにそういう秋葉さんは、普段の彼女らしからぬ態度だけど、だからこそ可愛いな。

 余裕を崩さない彼女も、それはもちろん可愛いというか堂々としていて綺麗というか、とにかく良いと思うけど。


「ねぇ或翔君、聞いてる?」

「へっ? あ、うん。別に良いと思う。嫌いじゃないよ」

「……そっか。良かった。もし嫌だったら我慢しないとって思っちゃった」

 秋葉さんはホッとしたように笑う。

 そこからはまた普段通りの、俺をからかう余裕を見せる秋葉さんに元通りだったけど。

だからこそ、さっきの顔を赤らめる彼女の可愛さが際立って見える気がして、俺もちょっとだけ余裕が持てるようになった気がした。

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ごっこ遊びをしませんか? 私は彼女であなたは── 結剣 @yuukenn-dice

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