第10話 憧れていたこと
ダンジョンから一歩外に出れば、そこは今まで見たことのない景色が広がっていた。
この世界に来て初めて目にする太陽の光は地球にいた時に散々浴びていたものと何ら変わらない。
俺が今来ている服は、アリスが自らのスキルでダンジョンのそこら辺に落ちていた石を形状変化させ、創造したもの。
そしてアリス自身もメイド服姿ではなく一般的な服装。
一般的とはどんなだと思うかもしれないが、本当にそこら辺にいるような目立つことのない格好だ。言ったら、the平民といった感じだろうか。
街ゆく人たちを見ても何ら違和感なく溶け込めそうだ。
そういって服を着ることでまた少し属性が変化して、何でも完璧にこなすメイドから頼れるお姉さんへとなった。
「少し人が多いですね。マスター、はぐれないよう私がマスターの手を握っています」
手を繋いで街を歩く大人の女性と小さい少年。傍から見たらそりゃもう……ね、ちょっと恥ずかしいですわ。
「まあ……それはいいんだけどさ、外でも俺のことをマスターと呼ぶのは少しまずいんじゃないか?変というか、なんか怪しまれそうだ」
「あっ、確かにそうですね。ではハヅキ様とお呼びしますね」
自分の名前に様づけされるのは恥ずかしいが、そっちの方が無難だろう。
人数の多い街を歩いていれば、それはそれは色々な人たちの姿が目に入ってくる。
特に、鎧を身につけている人だったり剣などの武器を持って平然と歩いている人。身の丈を超えたサイズの大剣を軽々と持っている人もいた。
「なあアリス、ああいう人たちはなんかヤバめの仕事とかやっているのか?あんな完全フル装備でいったいどんな悪事を働こうってんだ」
そんなのがそこらじゅうにいる。異世界が地球と同じような治安だとは思っちゃいないが、これが日本であれば周囲にいる人たちはみんな直ちに銃刀法違反で現行犯逮捕じゃなかろうか。
「ハヅキ様のおっしゃる通り、一見素行の悪そうな人間ばかりですが必ずしも全員がそうとは限りませんよ。特にここ周辺に集まるのは、冒険者と呼ばれる人間たちです」
アリスが足を止めて右手側にちょうど見える建物へ指をさした。
「ここは冒険者の人間たちが所属しているギルドというところです」
周りの建物に比べても特に大きく存在感が凄まじい。
「中に入ってみますか?」
アリスに促されるがままにギルドの中へと進んでいった。
中に入れば、先ほどのような武装した人たちが大勢いた。
というより……ここは酒場か?
テーブルがいくつも設置されており、いかついオッサンから若そうな人までさまざまな人が飲み食いしており、活気が溢れていた。
右側に酒場、左側にはカウンターのような感じだ。
ギルドというのはゲームをやっていただけに少しばかり知識はあった。だけど、まさか酒場と合併したギルドだとは思わなかった。
俺の知っているギルドは左側のカウンターが設置された光景だけだ。
「もしかしたらハヅキ様には少し不快に思われるかもしれません。酒場には酔っ払いが多いので、そういった輩に絡まれるという可能性も──」
「アリス、やろう」
これはある意味では、興味よりは憧れのようなものが強いかもしれない。
「冒険者、やろう!」
クエスト完了後に酒場に来て一日の締めとして一杯やる。こんなのが実現したらそれはもう、最高の二文字だ。
前世では仕事終わりに誰かと飲むなんてことは一度たりともなかった。宅飲みが当たり前だったのだ。
上司からのお誘いすら来なかった俺には、仲間と一日の終わりに飲むなんて憧れなのだ。
こうして、ダンジョンの外の情報を得るため、という建前の元で俺は──もちろんアリスも──冒険者となることになった。
迷宮ダンジョン100階層のラスボスに転生したので、気ままにダンジョン支配することにした はるのはるか @nchnngh
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