第二章
第9話 勇者出現の前触れ
アルカイン王国よりずっと北の国の辺境の大地────
一年を通して降り止むことのない猛吹雪で視界は愚か、轟音に遮られてその他一切の音が聞こえない。
都から離れれば、いつ魔物から襲撃されるかの恐怖が四方八方から押し寄せる。
そんな吹雪の荒野に一人の男がいた。
手に持つのは一つの剣のみ。荒れ狂う吹雪の中で立ち止まり、淡々と機会を待っている。
ほんの一歩先すらも見渡せないこの状況下で、何の前触れもなく突如、アイスベアの襲撃がきた。
その姿を感知したときには、すでにアイスベアの伸ばす腕は男の目と鼻の先。
しかしその姿を感知するより以前に、男は剣身を滑らせていた。
首を切られ、アイスベアは即死
これを合図に四方八方から一気に多数襲撃をしかけてくるアイスベアの群れ。
しかし襲い掛かってくるアイスベアは為す術なく次々に、的確に急所である首を切られていく。
視覚も聴覚も効かないこの状況で、男はずっと瞼を閉じていた。
この場において人間の五感は何一つ役立つことなくアイスベアに殺される。
男はただ一つ、気配を探ることだけに集中していた。
見事な剣裁きと、常人には到底辿り着けることのない頂点に、この男はただ一人立っている。
とある大地────
2000度に達している外気温の中、平然とその場に佇む一人の男がいた。
足元にゆっくりと流れていくマグマが男に触れようとしたその瞬間──流れるマグマの先端が急激に凍り付いた。
「淡い……まだ淡い……。今はまだ、時期尚早か……」
ゆっくりと流れる時を待ち、やがて熟した実を狩りに行く。
アルカイン王国王城の一角──その部屋────
「ハァ……ハァ……ッ、…………………………………ついに生まれるのか」
両手両足を鎖でつながれ身動きの一つもできない状態で、男はその顔に笑みを浮かべた。
久しぶりに声を出した。久しぶりに顔の表情を変えた。
男が最後に人を見たのは、もう何百年も前のこと。
それだけの年数、水一滴すらも口に含むことなく今に至る。
実に待ち望んだこの時、男の心臓が、まるで共鳴するように高鳴り激しく動く。
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