第8話 井の中のドラゴン、大海を知りにいく
クロとの会話は終わり、99階層から戻って100階層
勇者の脅威が今すぐではないとして、時期早々に話し合いの結果を出す必要はないとした。
そして俺は今、完全に外界と遮断されたダンジョン内部からどのようにして外の情勢を見ているのかと不思議でならない。
常にダンジョンにいる状況でどのようにして情報を得ているのだろう。
「アリスたちはその情報をどうやって持ってきているんだ?」
「え……?あ、えっと……主に配下の者に行かせていることが多いですね。それこそ、マスターが転生して来られるまでは情報収集も兼ねてダンジョン外で活動していましたよ。ずっとここにいては暇なので」
「で、出られるのか……?ダンジョンから」
「はい、普通に出られます」
なんと、そんなことが可能なのか。
俺はてっきりずっとこのダンジョン内で生活するものだと思っていた。ていうかそれが普通だと思っていた。
だってダンジョンに敵が侵入してきたら防衛しなきゃいけないだろ?それに、こんな人外の格好で人前に出られるはずがない。
いや、待てよ……アリスが生まれた直後から人語を話すことができると知った時に、同時にいつから人の姿になれていたのかを疑問に思うのが普通なんじゃないか……?
「……アリス、俺も人の姿になることってできるのか……?」
「はい、可能ですよ」
やっっっ……たあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!
未だに慣れないこの姿ではどうしても自分の思い通りの動きができない。人の姿で何十年も生活していた記憶が丸々存在している以上、この身体で慣れるというのは無理があった。
ドラゴンの幼体であり、我ながら中々かわいい見た目をしているがそれでも目線の低さだったり手足の器用さに不自由を感じる。
これで俺も、当たり前と思えていたあの頃の自由さを取り戻すことができるのだ。
人語を喋られるようになった時と同様、自ら実行できるわけもなくアリスに魔素をコントロールしてもらう。
「………………なるほど、こうなるのか」
意味不明な言語から人語へ、そして人外生物の外見から人の姿へ──
人の姿、ではあるが、それは成人した姿ではなく幼い少年の姿だった。
目線の高さはほんの少し変わった程度。身体の大きさは、横幅に関してはむしろドラゴンの幼体の方が翼があっただけに大きかった。
いや、確かにドラゴンの幼体の状態で人の姿になろうとすれば、それ相応に幼い人の姿になることは想定できなくもなかった。
だが一方で、前世の俺の体になれるのではという考えの方が大きかったのだ。いや、願望というべきだったか。
「まあっ、なんと可愛らしいお姿っ!くりっとした大きいお目にぷにぷにとしたお肌!!人間の姿となったマスターもまた良きです」
あ、またあなたですか。
自分に都合のよくないことは俺に言わずに隠しておく。なんて姑息で美人なメイドだ。
かくして人の姿へと変われた俺は、このダンジョンを出て外の世界を見に行く。
わくわくどきどき、胸躍る大冒険────ではなく勇者の動向を探る、言わば偵察だ。
一人でも全然構わないのだが、アリスが同行すると言ってきかない。
「保護者兼護衛役兼メイドです」
「兼用しすぎだよ……」
火の光を浴びにいざ、人の住む町へ!
……ダンジョンのラスボスがダンジョンから離れていいんですか。
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