第2話 1985年

 寒さが厳しい2月7日、鷹村家では龍一の1歳の誕生日を祝う準備が進んでいた。真奈美はキッチンで手作りのケーキを仕上げており、ジョンはリビングルームにカラフルな風船や飾りを飾りつけていた。リビングには家族の温かい雰囲気が漂っていた。


「真奈美、風船の準備ができたよ」


「ありがとう、ジョン。ケーキももうすぐできるわ」


 ジョンはリビングルームに戻り、積み木で遊んでいる龍一の元に歩み寄った。


「さて、龍一、今日は君の特別な日だぞ」


 龍一は父親の声に反応し、無邪気な笑顔を見せながら「パパ!」と嬉しそうに言った。ジョンはその言葉に感動しながら、龍一を抱き上げて軽く回転させた。


「おお、龍一は本当に成長したな。1年前はこんなに小さかったのに」


 龍一はジョンの腕の中で笑い声を上げながら、小さな手を伸ばして父親の顔に触れた。


「ジョン、ケーキが焼けたわ」


 ジョンは龍一を積み木の前に座らせ、真奈美がケーキをテーブルに運ぶのを手伝った。ケーキには1本のろうそくが立てられており、その周りにはカラフルな飾りが散りばめられていた。


「龍一、見てごらん。今日はあなたのために特別なケーキを作ったのよ」


 龍一は目を輝かせながらケーキを見つめ、小さな手を伸ばして触れようとした。


「ちょっと待って、まずはろうそくを吹き消そうね」


 ジョンはろうそくに火を灯し、リビングルームの電気を少し暗くした。温かい光がケーキを照らし、家族の顔を柔らかく包み込んだ。


『ハッピーバースデートゥーユー、ハッピーバースデートゥーユー、ハッピーバースデーディア龍一、ハッピーバースデートゥーユー!』


 龍一は興味津々でろうそくの火を見つめていた。ジョンがそっと龍一の手を握り、一緒にろうそくの火を吹き消した。


「よくできたわ、龍一。さあ、ケーキを食べましょう」


 ジョンはケーキを切り分け、龍一の小さなプレートに乗せた。龍一はケーキの味に驚き、にっこりと笑った。


「おいしい!」


「おいしいかい?これからもっといろんな味を知ることになるよ」


「今日は素敵な1日ね。家族で過ごせることが本当に幸せ」


 ジョンは真奈美と龍一を見ながら、感慨深げに言った。


「本当に。これからもたくさんの幸せな瞬間を一緒に過ごそう。」


 その後、鷹村家はリビングルームで過ごしながら、家族の絆をさらに深めるための時間を楽しんだ。龍一は新しいおもちゃで遊びながら、両親の愛情を感じていた。家族の笑い声がリビングルームに響き渡り、冬の寒さを忘れさせるほどの温かさが鷹村家に満ちていた。


 春の陽光が差し込む中、鷹村家では龍一が、ますます活発になっていた。庭には桜が咲き誇り、家の中に爽やかな風が吹き込んでいた。真奈美は再び妊娠し、穏やかな日々を過ごしていた。


 リビングルームで、龍一は積み木を積んだり、お気に入りのおもちゃで遊んでいた。真奈美はソファに座りながら、龍一の様子を見守っていた。


「龍一、何を作ってるの?」


 龍一は無邪気な笑顔を見せながら、「たっ!」と答え、積み木の塔を指差した。


「すごいじゃない!上手にできてるわね」


 その時、ジョンが外から戻ってきて、リビングルームに入ってきた。


「ただいま。外は本当にいい天気だよ。龍一、外で遊びたいか?」


 龍一はジョンの声に反応し、「はい!」と元気に答え、手を伸ばした。


 ジョンは笑顔で龍一を抱き上げ、庭に出た。真奈美もゆっくりと立ち上がり、ジョンと龍一の後を追った。庭では桜の花びらが風に舞い、春の訪れを感じさせた。


「見てごらん、龍一。これが桜だよ。日本の春はこれが一番だ」


 龍一は小さな手を伸ばして花びらを掴もうとし、笑顔を見せた。


「きれい!」


 真奈美はその光景を見て微笑んだ。


「この子達が大きくなったら、一緒に花見を楽しめるようになるわね」


「絶対そうしよう。いっぱい思い出を作ろう」


 龍一はジョンの手を握りながら庭を歩き回り、時折立ち止まっては興味深そうに周囲を見回していた。真奈美はベンチに座りながら、その様子を見守っていた。


「ジョン、龍一は本当に好奇心旺盛ね。毎日が冒険みたい」


「そうだね。龍一の成長を見るのが楽しみだ」


 その後、ジョンは龍一を滑り台に連れて行き、龍一を滑らせると、龍一は大きな笑い声を上げた。


「楽しいかい、龍一?」


「もう一回!」


 ジョンは笑顔で龍一を再び滑り台に乗せ、何度も滑らせた。真奈美はその光景を見ながら、自分も子供の頃に戻ったような気持ちになった。


「ジョン、私たちの子供たちがこうして成長していくのを見るのが、本当に幸せだわ」


「その通りだね。これからもずっと一緒に、家族みんなで幸せな時間を過ごそう」


 夕方になると、鷹村家は家に戻り、リビングルームでゆったりとした時間を過ごした。真奈美は夕食の準備をしながら、龍一とジョンが遊んでいるのを見守っていた。


「今日の夕食は特別よ。家族みんなで楽しみましょう。」


「楽しみだな。龍一、今日はいっぱい遊んだから、お腹も空いたんじゃないか?」


 龍一は笑顔でうなずき、「はい!」と元気よく答えた。


 その夜、鷹村家は温かい食卓を囲みながら、家族の絆を深める時間を過ごした。龍一の成長を喜びながら、これから迎える新しい家族の到来に期待を膨らませていた。


 暑い夏の日差しが照りつける中、鷹村家は近所のプールに出かけた。龍一はさらに活発に動き回るようになっていた。真奈美は妊娠中期に入り、お腹が少し目立ち始めていた。プールの青い水がキラキラと輝き、涼しさを感じさせた。


「今日、最高のプール日和じゃん。龍一、水遊びしようか?」


「うん!」


 ジョンは龍一に水泳パンツを履かせ、慎重にプールの浅い部分に連れて行った。真奈美はプールサイドのデッキチェアに座り、彼らを見守っていた。


「よし、まずは足を水に浸けてみよう。」


 龍一はジョンの手を握りながら、少し緊張した様子で足を水に浸けた。水の冷たさに驚きつつも、次第に笑顔を見せ始めた。


「冷たい!」


「そうだね。でもすぐに慣れるよ」


 ジョンは龍一を優しく抱き上げ、ゆっくりと水に慣れさせるために動かした。龍一はジョンの腕の中で楽しそうに水を叩いたり、バシャバシャと遊び始めた。


「龍一、上手ね!お水、楽しい?」


「うん、たのしい!」


 ジョンは笑顔で龍一を支えながら、少しずつプールの中を歩いていった。龍一は水の中で自由に動けることに喜び、笑い声を上げた。


「見てごらん、龍一。あっちにもっと深いプールがあるけど、今日はここで遊ぼう。あっちはもっと大きくなってからだ」


「はーい!」


 その後、ジョンは龍一に水鉄砲を渡し、一緒に遊び始めた。龍一は水鉄砲を握ってジョンに向けて発射し、ジョンは驚いたふりをして大きな声で笑った。


「わあ、やられた! 龍一はすごいな!」


 龍一は得意げに笑いながら、水鉄砲でさらにジョンを狙った。真奈美もその様子を見て微笑み、時折声をかけた。


「ジョン、龍一、楽しんでる?」


「もちろん! 龍一は水遊びが上手だよ。」


「もっとやる!」


 ジョンは龍一と一緒にプールの浅い部分で遊び続け、水を叩いたり、泡を作ったりして楽しんだ。真奈美はプールサイドでリラックスしながら、家族の幸せな時間を感じていた。


 しばらく遊んだ後、ジョンは龍一を抱き上げてプールから出し、タオルで体を拭いてあげた。真奈美も近づいてきて、龍一に優しく話しかけた。


「龍一、お水楽しかった?」


「うん、楽しかった!」


「それは良かったわ。次はまた来ようね。」


「そうだな。これからもたくさん水遊びしよう。」


 その日、鷹村家はプールでの楽しいひとときを過ごし、家族の絆をさらに深めた。ジョンと真奈美は、龍一の成長を喜びながら、これからの未来に希望を抱いていた。


 秋風が涼しく吹き抜ける中、鷹村家は近所の神社に散歩に出かけた。紅葉が美しく色づき、境内は静かな雰囲気に包まれていた。真奈美のお腹は大きくなり、龍一は元気に歩き回っていた。


「いやー、今日は最高の天気だな。今年の紅葉もとても綺麗だね」


「本当にね。龍一もこの景色、気に入ってるみたい」


 ジョンは龍一の手をしっかりと握りながら、神社の参道をゆっくりと歩いていた。龍一は興味津々に周りを見回し、時折立ち止まっては何かを指差していた。


「あれ、なに?」


「あれは紅葉だよ。秋になると葉っぱが赤や黄色に変わるんだ」


「きれい!」


「龍一、見てごらん。これが日本の秋よ。すごく素敵でしょ?」


 龍一は小さな手を伸ばし、落ち葉を拾って眺めていた。その姿を見て、真奈美は微笑んだ。


「この子達が大きくなったら、もっといろんな季節の変わり目を一緒に楽しめるわね」


 神社の境内に到着すると、鷹村家はベンチに座り、しばらく休憩することにした。ジョンはベンチに座って、龍一を膝に乗せながら、紅葉が舞い散る空を見上げていた。


「見てごらん、龍一。これが秋の空だよ。紅葉がこんなに美しいなんて、特別だね」


 龍一はジョンの腕の中で小さな手を伸ばし、紅葉の葉を掴もうとした。真奈美はその光景を見て微笑んだ。


「ふふ。去年も同じ事をしてたわね」


「そうだね、もしかしたら覚えてるのかも知れないね」


 ジョンは眠たそうな龍一をベビーカーに乗せ、家族は神社の境内をゆっくりと歩き始めた。真奈美は手を合わせてお祈りをし、家族の健康と幸せを願った。


「ジョン、今年も私たちの家族がこうして健康でいられることに感謝だね」


「その通りだね。しかも家族をもう一人増やしてくれるサプライズ付きだ」


 その後、鷹村家は神社の縁側に座り、持ってきた温かいお茶を楽しんだ。紅葉が舞う中、家族の絆を感じながら、ゆったりとした時間を過ごした。


「龍一が賑やかなのもいいけど、たまにはこういう静かな時間もいいね」


「そうだね。でももうすぐ新しいドラゴンが誕生するから、もう少しゆっくりしようか」


 ジョンと真奈美は龍一の寝顔を見つめながら、未来に思いを馳せた。秋の神社は静寂と美しさに包まれ、鷹村家の心に深い印象を残した。


 冷たい風が吹き込む冬の朝、鷹村家は病院に向かっていた。今日は、真奈美が第二子を出産する予定の日だった。ジョンは緊張と期待で胸がいっぱいで、龍一を抱えながら病院の廊下を急いでいた。


「大丈夫? もうすぐだよ」


「うん、もう少し。頑張るわ」


 病院の廊下には、クリスマスの飾りつけが施されており、温かな光が漂っていた。看護師が駆け寄り、真奈美を分娩室へ案内した。


「すぐに準備しますね。」


 ジョンは龍一を抱きしめながら、待合室で不安と期待の入り混じった表情を浮かべていた。


「龍一、ママが頑張ってるよ。僕たちも応援しよう」


 龍一はまだ幼いながらも、状況を少し理解しているようで、ジョンにしっかりと抱きついていた。


 分娩室からは、医師や看護師の動きが忙しそうに見えた。真奈美の声が聞こえ、ジョンの心はさらに高鳴った。


「もう少しですよ、真奈美さん。がんばって」


「はい、がんばります!」


 数時間後、赤ちゃんの元気な産声が響き渡った。ジョンは龍一と共に待合室で耳を澄ませ、その声に安堵の表情を浮かべた。看護師が笑顔で近づいてきた。


「おめでとうございます。元気な男の子ですよ」


「やった! 真奈美の具合はどうですか?」


「お母さんも元気です。すぐに会えますよ」


 ジョンは龍一を抱き上げ、分娩室に向かった。そこには、疲れ切っているものの満足そうな表情の真奈美と、生まれたばかりの赤ちゃんがいた。真奈美は赤ちゃんを優しく抱きしめ、微笑んだ。


「ジョン、龍一、見て。これが俊介よ」


「こんにちは、俊介。会えて嬉しいよ」


 龍一も赤ちゃんの存在に興味津々で、小さな手を伸ばして俊介の頬を触れた。


「赤ちゃん、こんにちは」


 家族全員が揃い、病室は温かな雰囲気に包まれていた。ジョンは真奈美の手を握りしめ、「ありがとう、真奈美。君のおかげで僕たちはもっと幸せになる」と言った。


「私たちは素晴らしい家族ね。これからも一緒に頑張ろう。」


 その日の夕方、鷹村家は新しい家族の一員を迎え、幸せに包まれていた。病院の外では、冷たい冬の風が吹き続けていたが、病室の中は暖かく、愛と希望に満ちていた。

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