第30話 表裏一体の思惑・3
そこまで思い出したナギサは、胸の前に両手を掲げると、そのロッドを出現させた。
「これ、私の神器になるんだけど」
「なんだ!あるじゃん。媒体。これで十分。これ使って聖法の練習してみなよ。位置の正確さとか、聖力が変な方向にばらけないようになると思うから。それだけでも随分変わるはずだから」
ヴィルジェの言葉に、ナギサは頷きつつも、これがそんなにすごい物だったとは、と言わんばかりに、自分の手にあるロッドを疑いの眼差しで見ていた。
その様子に気付かないのか、ヴィルジェは「あとこれ」と両手を広げると、ぽんっと音を立てながら大きな分厚い本が現れた。
そのまま、「はい」と渡され、ナギサも恐る恐る受け取るが、あまりの重さに思わず落としそうになった。
「おっも!なにこれ?」
「聖法の勉強は、実技が一番だとは思うけど、結局詠唱するのに精霊の言葉……えっと、こっちだと“古代語”って言うんだっけ?それの勉強もしないとダメでしょ?」
平然と言うヴィルジェに、ナギサはぎょっとした表情で見つめた。
ヴィルジェのように、高位精霊たちは人の言葉を喋るが、基本的には“精霊同士で使われる言葉”が存在する。“古代語”と呼ばれるそれは、法術の詠唱時に使用することで、低位の精霊たちにも力を借りることができ、より強力なものが使える。
そのため、詠唱に使う最低限は覚える必要があったし、更には詠唱全てを“古代語”に置き換えれば強大な法術を使うことが可能であった。とは言え、古代語を使う法術士などかなり稀ではあるが。
「こ、こんなに覚えられないわよ!」
あまりの分厚さに、ナギサはペラペラと捲りながら、思わず叫んだ。
「大丈夫。時間はかかるかもしれないけど、慣れれば難しくないと思うの。あたしだっているんだし。それ、読み終わる頃には“古代語”を完璧にマスターしてると思う」
「そんなサラッと言わないでくれる?」
思わずツッコんだナギサだったが、ヴィルジェはそれを無視して話を続けた。
「それに、“古代語”を使えれば、低位の精霊たちと会話ができるし、一部の聖獣とも会話することができる。ナギサにとって、メリットしかないと思うよ」
「た、確かにそうかもしれないけど……」
いずれは、大神として聖界を治めるナギサにとって、精霊や聖獣の加護を得るのは、利益でしかない。そこに至るまでの努力がかなり必要ではあるが。
「ううっ」と言葉を詰まらせるナギサだったが、ヴィルジェはにやりと笑ってから、バチンッとウインクをした。
「大丈夫!発音とかが難しいだけで、単語と文法さえ覚えれば、いうほど難しくないんだから!」
「はあ……頼りにしてるわよ、先生」
じとっとした目で言うナギサに、ヴィルジェは楽しそうにナギサの肩を叩いた。
「まっかせてよ!!精霊長であるあたしが教えれば、誰よりも早く覚えられるって!それにね、あたし……ナギサが次期大神だから契約をしたのは事実だけど、そうじゃなくてもナギサと仲良くなりたいと思ってるの。友達として力になりたい。そういう、対等な関係でいたい」
ヴィルジェは困ったような表情をしながら言い切ると、ナギサはぽかんとした表情でヴィルジェを見つめたが、すぐに眉を下げて笑顔を浮かべた。
「ヴィルジェが良ければ、是非私と友達になってほしいわ。私にとってあなたは……契約した大事な精霊であり、古代語を教えてくれる先生でもあり、そして友達だわ」
「嬉しいー!ナギサ、大好きー!これからも、ずっと、ずーっと、よろしくね!!」
ヴィルジェはそう叫びながら、ナギサにぎゅっと抱きついた。
ナギサも、自分より小さいヴィルジェを優しくぎゅっと抱きしめる。
二人にとっては、強い絆が生まれた瞬間であった。
そして、これがきっかけで古代語をマスターしたナギサが、永遠に感謝をした時の思い出でもあった。
新生月姫 宇奈月希月 @seikaKitsuki
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