第29話 表裏一体の思惑・2
ヴィルジェはどこまで話すべきかと悩みつつ、「答えになるかわからないけど」と前置きを入れてから、話し始めた。
「さっきも言ったけど、精霊は人に認識されることで存在できる。つまり、力の弱い精霊は消えるしかなくなってしまう。それを防ぐのに、リーダー格の精霊が契約を結び、“神”になった法術士が、その属性の精霊たちから力を得ることで、力の弱い精霊たちも守られる。謂わば、低位の精霊もリーダー格の精霊が神と契約することで、その精霊とも間接的に契約が結ばれた、みたいな状態になっちゃうって言えばいいのかな」
「え?強制ってこと?」
ナギサが若干苛立ちながら問うが、ヴィルジェは腕を組んで考えた。
「まあ、悪く言えばね。でも、そこから抜け出すことは可能だよ。あくまで、その精霊自身に選ぶ権利はある。ただ、間接的でも契約をしとけば、その精霊は力を得られて、人に認識されやすくなる。そうすれば、他の法術士と契約できる可能性だって出てくる。だから、ほんと、利益はあるんだよ」
ヴィルジェはそう言うが、ナギサは納得いかないと言わんばかりに、眉を顰める。
それを見て、ヴィルジェは肩を竦めつつも、話を続けた。
「そもそも、リーダー格の精霊が契約を結ぶってこと自体、その人の聖力の強さがわかるから、“特別”って意味でも“神”になると思うんだよね。それに、“神”って言われてる人の全員がそうじゃないでしょう?」
「あ、ああ……“特別神”って言われてる、精霊との契約以外で決まる神のこと?」
ナギサが返すと、ヴィルジェは頷いた。
「神々の王って言われてる“大神”だって、あらゆる精霊と契約してるだけで、大神の魂を継いだ者がなるよね。それに、所謂“三大神”って呼ばれてる、三大界の守護神だって、全員特殊なはずだよ」
「“闇の神”は呪いによって、創世記から変わらないし、“封印の神”は中立を保つために他の世界の生まれなのよね」
「そう。そして、聖界の守護神である“光の神”は……次期大神が務めることになってる」
ヴィルジェはそう言って、ナギサをしっかりと見つめた。
次期大神、それはナギサ自身を表すもので、ナギサはすっと視線を落とした。
「大神の魂を持っているから、生まれた時から光の精霊が守護してくれるのよね」
ナギサはそうぽつりと呟く。
ナギサはまだまだ修行中の身で、未だに守護してくれているという光の精霊の姿を見ていないのだ。それ故に、自信が持てないでいるのも事実だった。
「たぶんだけど……ナギサは、頭で難しく考えすぎなんだと思うよ。そういうものなんだな、って認識でいて、感覚で捉えれば大丈夫だって」
「え?でも……」
ナギサは言い返そうとしたが、それをヴィルジェは指で押さえた。
「とりあえず、“精霊”の認識をしてくれれば、ナギサの力のおかげで精霊たちは力を得ることができる。それだけで、ナギサの力は増すし、協力だってしてくれるよ。あたしだってついてるんだし、大丈夫!」
満面の笑顔で言い切るヴィルジェに、ナギサは呆気にとられた表情をするが、すぐにつられるように笑った。
「ふふっ。ありがとう。ヴィルジェって、優しいのね。今までの次期大神とも契約してきたんでしょう?」
「まあ、精霊長だから契約はしてきたけど……こんなにフレンドリーにするかは別。さすがに、現大神にはやったことないもん」
ヴィルジェの言葉に、ナギサはうんと思わず納得してしまった。
現在の大神、ルゥの性格を考えると、いくら契約をしているとは言え、精霊にフレンドリーにされたところで、冷たい視線を残しそうではある。
そこまで想像して、思わずナギサは咳払いをしたが、何となく察したヴィルジェがぼやいた。
「大神の魂って流転してるじゃん?」
「三つの魂が廻ってるってやつ?」
「うん。そして、三つの魂はそれぞれ性格……というか、もっと根本的なものが違うんだよね」
その言葉に、ナギサは眉を顰め、首を傾げた。
「どういうこと?」
「“大神”自身の使命って、聖界を率いて繁栄させることだと思うんだけど、ただ同じことをしても流れは生み出せない。だから、その三つの魂それぞれの役目が違うの。一つは新しいものを生み出す力。これは、初代“光の神”の魂だって言われてる。この聖界を創った本人だからね。次に、慈愛。繁栄させるための抱擁力ってところだね。最後に、その緩んだ世界に厳しい目を向けるための、冷徹さ。この三つが廻って、聖界は繁栄を続けることができる。性格を考えると、ナギサは一つ目で、現大神は三つ目だと思うんだよね」
ヴィルジェはさらっと言うが、ナギサはぎょっとした。
「私に、初代“光の神”の力なんてないと思うけど!?」
「でも性格とか考えたらそうだと思うんだよね。ちなみに、魔界との戦争が起きているのは三つ目の魂の時だね。その後、一つ目の魂が新しくリセットするって役目になるのかもしれないけど」
ヴィルジェの言葉に、ナギサは彼女が何を言いたいのかを察し、怪訝そうな顔をした。
「ちょっと、ヴィルジェ。私だから良いけど、それ大神様の前では言わないでよ?」
「それはわかってる。それなら、ナギサも真相を追求するようなことは、なるべく避けた方がいいよ」
「……わかった。気を付けるわ」
ナギサがそう答えると、「それよりも」とヴィルジェが話を切り替えた。
「聖法の勉強をしているのは理解したけど、実際に聖法の修行とかはしてるの?剣術みたいな実践とか」
「あー、うん。剣術ほどではないけど……聖力が強すぎるって話は知ってるよね?」
ナギサの問いに、ヴィルジェはきょとんとしながらも頷いた。
「うん。それで、倒れたっていうのも聞いたよ」
「そうなんだけど……強すぎて、上手くコントロールできなくて」
ナギサが困ったように、ぽりぽりと頬を掻きながら言うのを聞きながら、ヴィルジェは腕を組みながら考え込んだ。
「あっ!媒体とか使ってる?」
「え?媒体?……いいえ。なくても聖法自体は発動するから」
「確かに、媒体で聖力上げたりとかはよく聞くけど、制御したりとかにも使えるから、持ってみるのオススメする。むしろ、ナギサの場合、剣術やっているなら、剣自体を媒体にするのがいいかも」
「そんなことができるの?」
「できるよー。意外と、自分の武器を媒体に使う人多いし。それに、ナギサの場合、普通の剣を使ってないよね?」
ヴィルジェの言葉に、ナギサはハッとした。
普段、修行時に使っている剣は、師匠であるカズエラから貰ったものではあるが、それとは別に、こちらの世界に帰還した際に渡されたロッドのことを思い出していた。
王族である証だと渡された物だが、聖力を上げる効果が備わっており、王族が生誕時に、神々から渡される“神器”でもあった。成長と共に、本人に合う物へと形を変えるため、媒体として使用する王族がほとんどであった。
ナギサもロッドではあるが、剣術が使えるようにと仕込み杖になっていたし、ナギサの姉、フウに至っては、風属性と相性が良いからと扇の形をしていた。
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