私たちは懐かしいという感情に囚われている。
千尋
第1話
懐古趣味と言う言葉をご存知でしょうか。
昔を懐かしみ、それにノスタルジックな思いを馳せること。
昔のものを収集して楽しむこと。
もちろんこれだけでは十分な説明とは言えませんが、簡潔に表現するならこんなものでしょうか。
皆それぞれが色々なものに懐かしいと感じては、物思いにふけることでしょう。
かくいう私はというと、平成懐古から抜け出せないでいます。
自分の話になってしまうのですが、聞いてください。
私の平成懐古には2種類あります。
あの頃好きだった物。
あの頃の私。
この1話ではあの頃好きだった物について記載します。
私は女児だった為、かつての男児の方々には共感を得づらいものを挙げますがご容赦ください。
私は平成8年に生まれました。
女児時分、好きだった物の例を挙げると、
たまごっち、ナルミヤ(メゾピアノやエンジェルブルー、ポンポネット等)、Nintendo DS、月刊少女漫画誌(ちゃお、なかよし、りぼん等)、カートゥーンネットワーク(パワーパフガールズ、臆病なカーレッジくん、ルーニーテューンズ等)、可愛いクローバー柄のステーショナリーや香り付きのティッシュ...
本当に沢山の煌めきが、どの瞬間も彩ってくれました。
まさに魔法でした。
鉛筆のてっぺんについたチャームを持つ私は、魔法のステッキを持った魔法少女でした。
ラインストーンやラメの付いた服は、放課後の私を違う世界へと連れて行ってくれました。
小さな水色の自転車は、単なる移動手段の域を出て、好きな友達のいる場所までワープできる、1人乗りのマシンでした。
お気に入りのステッカーを貼ってそのマシンを自分だけのものにしていました。
カバンにつけたキャラクターのチャームは、ふたりはプリキュアで言うところのメップルで、ポケモンで言うところのピカチュウ、まさに一緒に行動する相棒となっていました。
このところ、日常生活に疲れていた私は、湯船にぼーっと浸かりながら天井を見ていました。
ふと、魔法を使いたくなりました。
フリマアプリを開き、『魔法のステッキ』を検索しました。
出てきたのはどれも手製か、模倣品の転売で、どこにも本物が見つかりませんでした。
懐かしいという感情に思いを馳せることはできても、確かな実体はすぐ手に取れるような場所にはありませんでした。
あの真珠のような日々はもう帰って来ないのだと、魔法のことは忘れて髪を洗いました。
自分は会社員で魔法とは程遠い現実にいます。
比較してとても寂しくなりました。
だけどこんな気持ち、自分にしか味わえない。
と思うと、抱きしめて離せないのです。
それも含め、平成懐古は堪りません。
懐古趣味は、今をポジティブに生きるためには必須の趣味だと私は考えます。
昔は良かった。
というネガティブな側面を、こんなにも個人に寄り添う形で救ってくれるものがあるでしょうか。
私たちは懐かしいという感情に囚われている。 千尋 @chihiro_time
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