第13話 友だちの定義
「情けないわね」
「……面目ないです」
その後、東雲の言うがままに表参道をあちらこちらと連れ回された僕は、ラフォなんちゃらとかいうファッションビルのベンチで、たくさんの買い物袋に囲まれながらぐったりとしていた。くそっ……結局、荷物持ちじゃんか。
「──ところで東雲、僕……じゃなかった私、ちょっとトイレ行きたいんだけど……」
「しょうがないわね。ここで待っててあげるから、さっさと行ってきなさい」
「行ってきなさいじゃねぇよ! この格好(女装)じゃあ、どうどうと男子トイレに入れないって」
かと言って、女子トイレに入る、ってわけにもいかないし……うーん、これは困ったぞ。
「貴方の排泄事情なんて知らないわよ。普通に男女兼用のトイレを探せばいいだけじゃない」
「あ、そうか、多目的トイレとかだったらいけるかも。さすが東雲センパイ、頭いいよな!」
「貴方のオツムがスカスカなだけよ。ほら、さっさと大でも小でも行ってきなさいな。私は5分以上待たないわ」
「だったらそこの荷物の山知らねぇからな」って、心の奥底でブツブツと唱えながらも、東雲に「じゃあ行ってくる」と座っていたベンチを一旦後にする。
それから散々広い店内を迷った挙げ句、いざトイレで用を足そうとしたときに「これどうするんだよ?」と着ていたワンピースのスカートに困惑したりして、何やかんやで20分ぐらい経ってから東雲を待たせていた休憩スペースに戻ってみると、ベンチで足を組んでふんぞり返っていた東雲が女性二人組に何やら絡まれている。
「あら、連れが戻って来たみたいだわ」
「え? 本当にいたの」
「ウソっ!?」
東雲を囲んでいた二人の若い女性が、唐突に現れた僕を見て心底驚いている。何この状況?
「あ、どうも……」
何が何だか良く分からんが、取りあえず東雲の知り合いと思しき女性二人に会釈しておく。
「貴女達に紹介するわ。彼女は
やたら友達の部分を強調しながら、何故かドヤ顔で東雲が言う。同時に女性二人は互いに顔をしかめ合っている。ますます彼女ら(僕を含む)を取り囲む空気が悪くなる一方だ。
「へっ……」
すると突然、女性二人組が僕の二の腕を左右両方でがっちりホールドし、そのままズルズルと東雲の元から引き離す。
その際、彼女らの柔らかいものがあちらこちらと当たって、もう何のご褒美かと思っているうちに、二人して僕に詰め寄ってコソコソと耳打ちをしてくる。
「(あなた良く、あの東雲さんと付き合えるよね)」
「(ええと……)」
「(そうそう、わたしたち彼女の仕事仲間なんだけど、あの子とにかくサイテー最悪よ)」
酷い言われようだ。東雲がちょっと可哀想になってきた。
それはそうと、東雲の仕事仲間……って事はもしかしてもしかしなくても彼女たちは声優さん? 二人して東雲と同様に帽子とサングラスで変装してるけど、その特徴的な美声は隠せれていない。そのものズバリだ。
「もしかして、声優の
「え?」
ショートボブの彼女に名指しした途端、ササッと僕から離れていった。
「で、そちらは
「(ギクッ!?)」
続けざまにセミロングの彼女もサングラス越しに動揺を隠せずにいる。
「あ、やっぱりか! 二人とも昔からファンです! 是非サインくださ、」
と、ここまで言ったところで東雲に後ろからバッグで殴られた。ウイッグがズレたらどうすんだよ!
「ごめんなさい、先輩方。私たちこれで失礼しますわ。ごきげんよう」
呆気に取られている彼女らを前にして、東雲は僕の襟元をグイグイ引っ張って、二人の元から連れ去っていった。ああ、憧れのアイドル声優たちがぐんぐんと
「──って東雲、あの二人超人気声優じゃん! それなのに態度デカいって!」
「そうなの? 私としてはごく自然に接していたつもりだけど、それの一体何が不満なのかしら? それにあの人たちイチイチ現場で私に絡んでくるのよ。心底ウザいわ。昨日の収録だって「あんた友達一人もいないでしょう」とか失礼な。何様のつもりかしら。だから今日は清々したわ」
あ、コイツ駄目だわ。コミュニケーション能力が自分以上に破綻してる。何でこんなんで定期的に仕事あるのかが謎だ。やっぱり声とルックスがすべてなのか。
二人で並んでエスカレーターを降りながら、プンスカの東雲に対し、一人でウンウンと首肯する僕。一見会話が噛み合ってないようで、意外と通じ合っている。こんな
だから東雲の女友達として言ってみる。
「東雲。今日は結構楽しかった」
「神坂君……」
「だから今度は水野さんと鈴宮さんを誘って四人で食事会でも、」
行かない? と最後まで言い切る前にピンヒールで
東雲さん、友だちの扱いヒドくない!?
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