第12話 東雲と初デート?

 平日の午前中とはいえ、東京都心の表参道は大いに活気で溢れていた。カフェやアパレルショップが立ち並び、街道を行き交う人々は皆がオシャレで、これがあらゆる流行の発信地と呼ばれる所以ゆえんだと思う。


 という僕は、あまりにも人通りの多さに原宿駅を下車した辺りから動悸とめまいでふらふらになっていた。上京してもう何年も経つのにこればかりは一向に馴れない。


 そんな陽な雰囲気の表参道をキラキラとした芸能人オーラを漂わしている東雲と二人で歩いている陰な僕は、もう場違い感がハンパなく、それでも颯爽と前を歩く彼女の後をカルガモのヒナの如くついて歩くのがやっとだ。


「ねぇ、これからどこに行く?」

「へ? 突然どこと言われても……僕にはサッパリで……」

「ちょっと『僕』じゃなくて、『私』と言いなさい。仮にも貴方はの子でしょ?」


 仮にも僕はの子です、と今は言い返せれないのが辛い。それとスカートの中がスウスウしてもっと辛い。この無駄に派手なサンダルも履きづらいし、今にでも脱げそうだ。


「それよりも貴方、もっと背筋を伸ばしてシャンとなさい」

「ちち、ちょっと東雲──」


 そう言って東雲は僕の手を引っ張って店先のガラスウインドウの前に立たせる。


 そこには帽子にサングラス姿でもスタイリッシュな東雲と並んで、薄いピンクのワンピースが似合わなくもない、それでいて可愛いとも美人とも言えなくもない、肩口でそろえた黒髪の女子がガラス越しに映し出されていた。


「うん、中々のコーデね。とってもお似合いだわ。私の友人としてはまずまずね」

「それは、どうも……」


 そう。あれからの僕は、東雲によって強制的に服を着替えさせられた挙げ句にメイクまでほどこされ、あれやこれやと電車に乗せられて、何やかんやで今に至るわけ。


 これが東雲が言う『女友達と遊びに行く』ということらしいが……ちょっとおかしくない?


 もう色々とどうでも良くなって、何が何だか吹っ切れた僕は、とりあえず東雲に連れられるがまま某有名コーヒーチェーン店に。


 そこでコーヒーのサイズ指定を適当な横文字で注文したら、出てきたカップの大きさに戸惑いビックリ。東雲に至ってはレジのお姉さんと何やら一悶着の末にキャラメルなんちゃらのクリームが沢山乗っかった商品を受け取って、サングラス越しでも分かるくらいニコニコ笑みを浮かべてた。多分二人して周りからス◯バ初心者だとバレバレだ。


 ただでさえ東雲は、幾ら変装してても目立つからな。いい意味でも悪い意味でも……


「ねぇ、彼女たち、暇だったら俺たちと合流しない?」


 ほら、来たよ。


 店内の二人テーブルに東雲と向かい合って座っていると、大学生ぽい二人組のチャラ男が声を掛けてきた。俗に言うナンパって奴だ。


「消えなさい」


 流石は東雲。男の僕が出るまでもなく一刀両断である。


「ちょっと冷たくない……お、だったら君は? これから俺たちとハンズでもどう!」

「え? ぼ、僕?」


 言った瞬間、東雲にテーブルの下から足を思い切り蹴られた。あ、そういえば『僕』じゃなくて『私』だった。いかんいかん、すっかり女装してたのを忘れてた。馴染みすぎだろ。


「ご、ごめんなさい。ぼ、私たちこれから用がありますので」


 声をワントーン上げ、得意の声優ボイスにて丁重に断ってみる。


「ドキュン! そ、そう、残念」

「ご、ごめんね。じゃあ俺たち行くから」


 おっと、案外すんなり身を引いてくれた。


 一応チャラ男らの去り際に営業スマイルを浮かべながら手を振っておく。向こうも満面な笑顔で手を振り返してくれたので、後腐れはなさそうだ。


 良くラノベとかのナンパイベントでは結構な確率で揉めるから本当に助かったよ。


「…………貴方、本当はノリノリでやってるでしょ?」

「いえ、滅相もございません」


 何だよ。折角ナンパ野郎を追い払ったのに。


「……まぁ、いいわ。次はショッピングに行くわ」

「あ、ちょっとまだ飲みかけ──」


 東雲が急に立ち上がるものだから、僕も慌てて後を追う。くそっ、いちいちスカートの裾を気にしないと行けないので面倒臭い。


 そもそも男の僕がスカートがまくれることを気にする自体間違ってるか。どうせ中身はトランクスだしな。別に見られても平気……じゃねぇよ! それこそ通報案件だ。


 今度は東雲とショッピングか……こんな格好じゃなかったら、一掃のことデートで踏ん切りがついたのに。


 つうか、これって別の意味でヤバいのでは?

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