第7話 嬉し恥ずかしの撮影会
あれから一時間ぐらい経ってから、相葉さんが大きな荷物を抱えて戻ってきた。
その間、マネージャーの柏木さんと二人で向かい合ってテーブルに座っていた僕は、始終イケメンスマイルを浮かべている彼の何気ない視線に怯えつつも、今後の自分について何かと思いを巡らせていた。
「柏木さんお待たせしました! 一応私なりのベストコーデを選んだつもりです」
「そうですか、それは期待出来ますね。早速お願いします」
「うふふ、任せてください」
帰ってきた早々、柏木さんと相葉さんは、何だか二人してワイワイ盛り上がっている。
それならそうと僕は、この場で完全に空気に徹して、存在自体を無かったことにしたいところだけど、いつの間にやら二人の熱い視線が自分めがけてロックオンしているから、たぶん無理っぽい。
「それでは神坂君。こちらに来てください」
「腕が鳴ります!」
鳴らんでいいです、と心の叫びを上げていたら、あっと言う間にせっかく着直したシャツやらズボンやらを剥ぎ取られ、またもやトランクス一枚にさせられた僕は「せめて更衣室でお願いします」と二人に懇願するも却下され、それこそ相葉さんが用意した女物と思しき撮影衣装をこの場で生着替えする羽目に。
「あれから色々考えてみたけど、やっぱり神坂君には、純粋にワンピースが似合うと思うの」
似合わねーよ。そもそも僕は男だぞ?
「でも、さすがにキャミやミニは無理かと思って」
そうそう無理無理、絶対に無理です。
「だからじゃ~ん、とってもキュートなお嬢様ワンピースにしちゃいました!」
結局ワンピースかよ!?
で、結果的に僕が相葉さんの手によってマネキン人形の如く着せられた服は、白いハイネックなリボン、ふんわりとしたロングスカートが特徴的なチェック柄のワンピース(英国のお嬢様風?)。上にベージュのカーディガンみたいな物を羽織らされている。
「一応、神坂君も男の子だし、これなら喉仏と広い肩幅もカバーできるでしょ? 靴下を履けば足首もほとんど見えないしね」
いつになく姿見の前に立たされ、何気に僕は前後ろとポーズをとっていた。
結果的に濃いメイクと着せられた衣装も相まって、黒髪ロング、切れ長の涼しい瞳、どこか影があるクール系美少女……っていうか、まさに雰囲気だけは、僕が推すあのヒロインに近いかもしれない。
まあ、中身は完全に男だけど……。
調子に乗ってスカートの裾を持ち上げてポーズを取った自分を今すぐに殴りたい。
「うん。いい感じです。相葉さんそのまま仕上げちゃってください」
「はーい」
柏木さんはまだ撮影も始まってないのにスマホを構えて僕をパシャパシャしてるし、相葉さんは念入りに僕のメイクを直したり、髪(ウイッグ)をブローしたりして、終いには女性用下着を取り出して僕に無理やり履かせようとしたので、それは頑固として拒否したら、心から残念そうにしてたりして、そして気づけばいよいよ僕の撮影会が始まっていた。
「神坂君。こっちを見て軽く微笑んで」
「はい……ニコリ」
「うん、ちょっと表情が固いかなー、もう一回行こうか」
とまあ、カメラマンの柏木さんに向かって微笑むこと数十回。このときの僕はもう無我の境地に入っていた……というか、最早ヤケクソだった。
一刻も早く、こんな辱めから解き放たれたいというばかりに、自分のちっぽけなプライドを犠牲に頑張ったつもりだ。
そして果てしなく長く感じるも実質一時間ぐらいの撮影が無事に終わりを告げ、僕はやっとこの生き地獄から開放された。
ちなみにメイクを落とし、服を戻してから素の自分を鏡で見たとき、ちょっとがっかりしてしまったことについて……、この二人には絶対内緒にしとこ。
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