第25話

 珠々がボコボコにされていた部屋を後にする。

 彼女を背負いながら歩いているのだが、重たすぎる。うぅ、苦しい。

 しばらく歩いたら、みくと白衣を着た女が戦闘していた場所へと辿り着く。

 そこは惨状が広がっていた。

 ビリビリにダンボールは破れて、散らばっていた。それに何枚かのダンボールは赤色に染まっており、ベタついている。

 中心に転がっている赤色の服を着た女。首から上はない。血液が飛散して汚れたであろうダンボールがポンっと乱雑に置かれていた。

 赤色の服もところどころ白くて、状況から推測するにこの服は元々白衣だったのではないだろうかと結論付ける。

 珠々を壁に下ろして、恐る恐る近付き、ダンボールの中身を覗く。

 中に入っているのは人の顔。もといさっきの白衣の女であった。

 「ひぃっ……」

 なんとなく察していたとはいえ、やはり目が合ってしまうと怖い。心臓がキュってなる。

 死んでからそこまで時間経過していないのだろう。

 若干ではあるが生気が残っており、怖さに拍車をかける。

 ここからデュラハンみたいに襲ってきたらどうしよう……みたいなありもしないことをぐるぐると考えてしまう。

 「すごいね……」

 「えへん」

 みくは脇腹に手を当てて、ドヤ顔を決める。

 二人の間に錯誤があったような気がしたが、まぁ良い。

 ふぅと息を吐いてから、腰を落として白衣を着た女の身体をペタペタと触る。手に血がベッタリと付着し、直接触ったのは失敗だったなと軽い後悔をした。時すでに遅しというやつだ。今更後悔したところでどうしようもないので、手中にある気持ち悪さには目を瞑りつつ身体を触る。

 決してそういう変態プレイを楽しんでいるわけではない。

 スマホを探しているのだ。

 さっきの茶髪曰く、この人は珠々を連れ去ろうとしている組織? の大元の人間らしい。立場までは知らないけど。

 なにはともあれ、大元の人間であれば、なにかしらその大元に関する情報がスマホの中にデータとして残っているのではないかと考えた。

 我ながら天才だなと嬉しくなる。

 手をもぞこささせてると、こつんと人差し指の先に硬い感覚が走った。長方形。ビンゴだ。

 それを取り出す。

 スマホだ。

 ボタンを押せばスクリーンに画面が表示される。

 壊れてしまったという虚無的展開はひとまず回避することができた。とりあえず一安心。

 ただパスワードを求められている。これを突破しないと情報へは辿り着けない。

 どうしようかと悩む。少し悩んですぐに答えへと辿り着く。

 指紋認証でもいけるらしいから、遺体の指紋を拝借してしまおう。

 ロック解除に指紋認証はたしかに便利だが、プライバシーの欠片もない。こうやって意思に反して解除されてしまうのだから。指紋認証の脆弱性と言えるだろう。一考の余地あり。

 まぁそういうわけでロックはすぐに解除できた。

 とりあえずメッセージアプリから漁ってみよう。

 トーク履歴の一番上には『日本星空開発機構本部』というグループがあった。

 グループ内の履歴を確認すると『艶島珠々を八月十五日までに確保せよ』という固定文章がある。

 詳細については書かれていない。書かれているのは私たちの位置情報だけ。どこに珠々が居るから強そうな人間を雇い送り込め……というようなニュアンスもことばかりが書かれている。というか、なぜこうも正確に私たちの居場所を特定できているのだろうか。

 襲撃があって今回の作戦が失敗したことすらも伝わっている。

 誰かが……ずっと私たちのことを監視している?

 だがそんな文面はここには書かれていない。

 もちろん、誰かが常に追ってきているような違和感もない。誰かが常に見ているような視線を感じるようなこともない。だから誰かが私たちのことを監視しているとは考えにくい。考えにくいのだが、そうじゃないと説明できないほどに情報は的確である。

 何者かのスキルによって監視のようなことが成立しているとか、だろうか。

 無理筋な可能性を探すとするのならそれくらいしかない。それくらいしか考えられない。

 あまりにも無茶苦茶と言えるだろう。

 本当にわけがわからない。

 「誰かに見られてるような感覚ある?」

 「だれかにみられてるようなかんかく……?」

 みくに問うと、彼女はおうむ返しをしてからこてんと首を傾げる。年相応な反応。

 「わかんない!」

 沈黙がしばらく続いてから、みくはそう答えを出した。

 そうだよねぇという感じ。

 意識が戻ったら珠々にも確認するべきなんだろうけど、今のところの結論としては誰かに監視されているようなことはない、となる。

 珠々が感じてると言えば結論はひっくり返るけど。

 今のところはこれが答え。

 私は女の指紋認証をもう一回悪用してスマホのパスワード設定を消す。そしてこっそりと持ち帰ることにした。

 帰宅して、珠々は目を覚ます。

 彼女に誰かから見られているような感覚はあるかと問うたが首を横に振るだけ。

 やはり監視されているとは考えにくいのだ。

 じゃあ、なんなのか。

 わからなくてモヤモヤする。

 心にかかった靄は一晩たっても取れなかった。

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