第23話
「にゃーっはっはっは!」
頭の奥に響くような笑い声で目が覚めると不思議な空間で仰向けになっていた。ここはどこ、私は誰。私は艶島珠々。女子高生。幼馴染には二華が居て、家にはみくを置いてきており……。大丈夫。とりあえず記憶喪失にはなっていなさそう。一安心すべき状況か否かは一旦置いておいて安心する。
とりあえずなにがあったか思い出そう。おままごとで家の外に出て、変な奴に襲われて、意識を失った。簡単に思い出せた。
つまりここは連れ去られた先ということなのだろう。
私の顔を覗き込む一人の少女。みくよりはうんと年上で、大体十歳前後といったところだろうか。発達の遅い中学生と言われても納得できるような容姿ではある。少女の金色に輝くポニーテールをぐいっと掴んで引っ張るのは背丈の高いボーイッシュな女性。ショートカットで一瞬男性のようにも見えるのだが、その思考を打ち消すほどに胸が大きい。少し動いただけでぽわぽわと豊満な胸を揺らす。うう……羨ましい。
「だめだーめ。殺したら怒られちゃうよ」
とポニーテールを掴んだまま忠告する。金髪少女は不服そうに頬を膨らませるが何か反論したりはしない。
「殺しても良いんじゃない。どうせ殺すことになるんだろうし」
「オレはダメだと思うけどなー、詳しいことはさわかんねーけど鮮度が大事? みたいな寿司のネタみたいなこと言ってたけどなー」
水色のツインテールは少女を肯定し、その隣でタバコを咥える茶髪のお姉さんは煙を口から漏らしながら否定する。
「とりあえず引き渡すまでは生かしておかないと」
「えー、でも殺した方が楽しいよ」
「ただ殺すんじゃ面白みは欠けるだろ。こういうのはな、じっくりと嗜虐して、尊厳を踏み滲ってから殺して方が何倍もおもしれ―んだよ」
茶髪を揺らし、タバコを人差し指に挟んで口から外す。
私に近寄ったと思えば火種の方を腕に押し付ける。じゅーっと肉が焼かれる音が響き、熱が走った。熱い、痛い。
「ほら、こうやって苦しませて殺した方が面白いだろ」
「うおー、すごーい」
タバコを咥えた彼女を見て、金髪は嬉々とした声を上げる。
「でもそんなことしたら使い物にならなくなっちゃうような」
ボーイッシュな彼女だけは唯一まともらしくそんな発言をする。でもこの場においては圧倒的異物。三人から一気に視線を集める。
「うーん、たしかに使い物にはならなくなるかもねー。心が壊れた人間ってのは生きる廃棄物だし。心臓が動いてるだけで死んだのと同義だもんね」
「でしょ?」
ツインテールを揺らしながら納得する彼女に、ボーイッシュな彼女は同意をさらに求める。しかし求められた方はにやにや笑う。
「でもね、私たちの仕事はコイツを連れて来ることだけ。生死は問われてない。なんか実験に使うから連れてこいって言われてるだけだし。そもそも紙面の契約書にも注意事項として生きて連れてくることなんて書いてなかった」
「ほらほら、うだうだ言ってねーでさ楽しもうぜ」
私の顔に顔を近付ける。なにをするのかと警戒したのと同時に、口の中に溜めこんでいたタバコの煙をふーっと吐く。視界は一瞬で奪われ、鼻腔に重たいタールが襲い掛かった。苦しく、むせてしまう。咳をして、大量の息を吸い込んでしまい、さらにタールが体内を襲うという悪循環。
「お前らも好きにすれば良いよ」
「にゃーっはっはっ! なーにしちゃおっかなぁ」
ポニーテールを揺らす彼女はそう言いつつも距離をぐいっと詰める。
躊躇することなく私の首に両手を当てて、思いっきり力を込めた。喉元に圧力がかかり、息が苦しくなる。呼吸が難しい。えずきのような声を漏らし、それを見て彼女たちは楽しそうに笑う。
頭に血が留まる。血液が上手く循環していない。このままだと意識を失うかもしれない、と危惧してしまう。
それほどに苦しい。
「そこまでにしておいて。死んじゃう」
またポニーテールをグイっと引っ張り、首にあった圧力が一瞬にして消える。はぁはぁはぁと過呼吸になった。
「そろそろ本格的に痛みを与えた方が良いよね」
ツインテールを揺らす彼女は私に近寄る。金髪少女は「いけー」なんて声を出す。
無気力な雰囲気から一変して、殺気に満ち溢れる。
それと同時に彼女の爪は鋭利に伸びた。クマの爪よりも鋭く恐ろしさがある。彼女はその爪を撫でて、舌で舐める。怖い。あんなので引き裂かれたら痛いどころか間違いなく絶命してしまう。
「この仕事終わったらどーしよー」
「これで世界は救われるらしいからなー。地位も金もくれるらしいし、不自由なく暮らせるだろうな」
「死ぬまで甘いもの食べる……とかかなぁ」
「ほんとお前女の子だな。オレ甘いもん苦手だから素直にすげーと思うわ」
「えー甘いの美味しいのに」
「私も甘いのすきー」
ポニーテールを掴まれながら賛同する。
「私は日本一周旅行をしてから世界一周旅行かな」
「いいね、私も行きたい」
「うん、四人で行こう」
「オレもかよ」
「もう仲間でしょ」
目の前で感動ストーリー? が繰り広げられる。ちょっと腹立つ。でもなにもできないんだけど。それがもどかしい。
「あぁーん?」
タバコお姉さんのスマホが振動する。少しイラっとしたような表情でスマホを取り出し、画面を確認する。
「誰から?」
「あの科学者女からだ」
「うーん、回収遅れるとかかな」
「それなら、もっと虐められるじゃねーか。朗報だな」
スマホに耳を当て「なんだ」と通話を開始する。
最初は調子乗った感じだったが、徐々にトーンと表情が堅苦しいものになっていく。
「はぁ? しらねーよ」とか「こっちの不手際じゃねー。こんなところ指定したお前ら組織のせいだろ」と叫ぶ。
三人は不安そうに彼女のことを見つめており、今なら逃げられるかもと思ったが、出口は一つしかなくすぐに捕まってしまうだろう、と断念した。
チッという舌打ちとともに電話を切る。
「どうしたの?」
「敵襲だとさ。門番との連絡が取れなくなったらしい」
「殺されたってこと」
「え、ひど」
「で、お前らが後付けられてたんだろって言われたわ。ほんっと舐められたもんだな」
「敵襲?」
「らしいわ。でもまぁ女二人だけらしいし、敵じゃねぇ。まぁあの科学者が相手するって言ってたからそう心配する必要はねぇーだろ。どーせこっちに来る頃には疲弊してるだろうしな」
女二人。
二華とみくではないだろうかと少しだけ期待してしまう。
でもみくをこんなところに連れて来るとは思えない。
希望は所詮希望、か。
「今のうちにやっちまおうぜ。どんどん苦しませておけ」
スマホをポケットにしまって、タバコに火をつけた彼女はそう合図をする。それと同時にいたぶられる。
なにをされたか。それは明言を避けよう。だって非道な拷問を遥かに超えるような内容であったから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます