第6話
半日が経過した。
空は水色からオレンジ色に移り変わり、気付けばそのオレンジ色も薄まって黒く染まっていく。
部屋の中に籠っていた熱気も緩やかに和らいでいく。
もっとも気休め程度なのだが。
魔素の影響で電気系統がおかしくなったわけじゃない。
純粋にエアコン本体の不具合だけ。
その証明に……じゃないけど、ほら、テレビはちゃんと使える。
民法はまともに機能してないっぽいけど。
本来なら報道番組が流れているはずなのに、流れているのは謎のライブ映像。
映っているのは海外かな。
多分そう。
少なくとも日本じゃない。
だって聞こえてくる言語が聞き馴染みのあるものじゃない。
ちなみに英語でもない。
そのくらいは私にだってわかる。
怒号混じりな声。
物が飛び交ったりしている。
これは子供に見せられないなぁ、なんて思いながら、せんべいをパリッと齧る。
醤油が芯まで染み付いてこれはもう絶品。
食感も柔らか過ぎず、かといって極端にカチコチなわけでもない、って食レポはどうだって良い。
コンビニで買った安いせんべいだし。
「おいしー?」
斜め先に座る珠々は頬杖を突いて少しだけつまらなさそうに問いかける。
「美味しいよ。食べる?」
一人でばりぼり食べているのが気に食わなかったのかなと思って提案してみたが、ふるふると首を横に振られてしまった。どうやら違うらしい。
「なんでそんな機嫌悪いの」
「私のことは食べないのに、せんべいは食べるんだなーって」
せんべいに嫉妬されていただけでした。なにそれ。
「にしても凄いね、テレビ」
「テレビ? あー、映像ね」
二人揃って視線をテレビへと向ける。喧嘩というよりも戦いだ。語弊を恐れないのであれば戦争と表現したって良い。そのレベル。
「もう既に何カ国かでは治安が崩壊してるらしいよ」
いつの間にかにスマホを見ていた珠々はそう呟く。まぁしょうがないのだろう。世界は滅びます。けど皆さん今まで通り生きてください、って無理な話だ。一ヶ月後に死ぬってわかってるんだからね。それなのに縛られて生きていこうだなんて思わない。最期くらいは周囲の目を気にせず自由に生きたい。にしても、この映像の国はちょっとやり過ぎじゃないかな感あるけどね。
「比べて日本人は勤勉過ぎるよ。普通にコンビニとかやってるらしいね」
ほら、と珠々はスマホの画面をぐいっと見せつけてくる。
「働くことが当たり前になってるから今更サボるとかそういう思考にならないんでしょ、多分」
「私だったらサボっちゃうな。働いてお金もらったところで一ヶ月後に振込みじゃ意味ないしさ」
それはたしかにそうだ。きっと日本人にとって働くというのはお金を稼ぐための行為ではなく、生きていくための行為として認識しているのだろう。
だからこそ、働かないという選択肢を見出せない。
まぁ全員が全員そういうわけじゃないだろうけど。
実際問題健全な世界でもニートと呼ばれる人は居たわけだし。
それでも過半数以上が仕事を放棄しないと、同調圧力のようなもので逃げるに逃げられないってのもあるんだと思う。
色んな要素が絡まりあった結果が勤勉な日本人を生み出している、ということか。
これも時間の問題だと思うけどね。
徐々に気付き始めるのだ。
あれ、これ仕事する必要ないんじゃないってね。
気付き始めたらもう後は加速するだけ。
「行くコンビニ?」
「行こうかな、お腹空いたし」
立ち上がってぐーっと背を伸ばし、手をそのままお腹に持ってくる。
「買い込んでおきたいしね。日本もどうなるかわかんないじゃん。小惑星衝突の前に餓死するかもしれないから」
「餓死ねぇ。ありえない話じゃないんだよなぁ」
トイレットペーパー、マスク、ガソリンをことある事に買い占める日本人だ。
食料という食料が世の小売店から消え去るのが目に見える。
供給があるうちは良いけど、仕事しなくて良いことに気付き始めたら必然的に供給はストップするからね。
小売店は閉まるし、運送もストップ、工場だって動かない。
無論農家さんだって出荷しないし。
という思考の元、とりあえず買いだめしておこうかって人がさらに増えていく悪循環。
まぁ私もその一人になりかけているわけですが。
「二華は餓死しないよ」
珠々はやけに自信満々な態度を見せた。あまりにも自信を見せるもんだから一周回って不安になる。どっから出てくるんだろう、その自信。
「だって私の肉食べれば万事解決じゃん!」
「そんなこったろーと思ったよ。ほら、行こ。コンビニ」
しょうもないボケをしている珠々の手を引っ張って家を後にした。外の方が若干涼しい。帰ったら窓という窓全開にしてやろう。
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