第3話

 一ヶ月後に世界が滅亡するという衝撃の発表から約三十分が経過した。

 まるで見計らったかのように全身に熱く若干苦しみも紛れる感覚が駆け巡る。

 エアコンの故障で部屋がサウナ状態になっているからではない。

 それとは全く違うタイプの熱さだ。

 暑いじゃなくて熱いだし。

 そうだな。

 ホッカイロを体の中に埋め込まれて、カイロが自我を持ち体の中を自由気ままに動いているって感じだ。

 熱が浜辺の波のようにさーっと引いて、こめかみがギュッと締め付けられる。

 偏頭痛よりも辛い痛みが襲って、気を紛らわすために数回大きく深呼吸をした。

 心と痛みを落ち着かせると、待ってましたと言わんばかりに脳内へと情報が流れ込んでくる。


 数分もすればこの症状は治まる。

 変に疲れてしまい、はぁはぁと息を切らす。

 果てしない疲労と引き換えにスキルの知識を得る。

 いいや、それだと若干語弊があるか。

 スキルについては知らない。

 三十分前に記者会見であれこれ言っていたが、あんなの一回で理解できるわけがないし、脳内に当然アビリティの根幹に関する知識が刻み込まれるなんていう都合の良い展開もありゃしない。


 得た知識。

 それは部分的なもの。


 私が使うスキルについてだった。

 もっとも名前はわからない。

 わかるのは効果だけ。

 ゲームのように羅列された文字として流れ込んでくるわけじゃない。

 なんとなく感覚として理解できる程度。

 どうやって呼吸するのって聞かれて、理論的に説明できないのと同じだ。

 今のはあまりにも極端な例だけどね。

 「二華二華二華ー」

 珠々は飛びついてくる。受け止めようとするが勢い良過ぎて受け止められず、ぐはっとソファに倒れ込む。

 「どした」

 「スキルって凄いね! ちょー凄い」

 興奮している。押し倒されるような形で留まる。珠々はふんすーと鼻を鳴らし、さらに顔をぐぐぐと近付ける。

 もう少しで鼻の頭と頭がごっつんこしそうだ。同性なのになんだか恥ずかしくて、さーっと視線を逸らす。珠々はそれが気に食わなかったのか、私の頬を両手でぱんっと挟み、ぐっと無理矢理目線を戻した。

 「へー、凄かったんだ……」

 もにむにと頬を揉まれながら、苦笑する。スキルは空想上のものだと言われてもそうだねと納得できてしまうような非現実感満載なものだ。凄いと言われればそうだと思う。実際、私も似たような感想を抱いたし。

 「ちなみにどんなスキルだったの」

 「中々難しいことを聞きますなぁ」

 唇に指を当てて噤む。眉間に皺を寄せて、ゆっくりと口角を上げる。

 「水とか炎とか。対象自体はもーっと多くあるのかもだけど、今頭にぼんやりと浮かんでるのはそんな感じ。私は水とか炎とか使えないし作り出せないから、誰かが出したり、道具で作り出したりして、その水とか炎の威力を何倍にもして攻撃として活用するみたいなスキル? って説明すれば良いのかな。説明って言われてもむずいよ。わけわかんなくなっちゃった」

 わーっと饒舌にあれこれと喋ってきて、頭を抱える。必死に説明しようとした結果冗長になった上にふらふらして彷徨うというのは珠々らしいっちゃらしい。残念なことに何も伝わらなかったけどね。

 「やってみるっきゃないよね」

 「できるの?」

 「んーできると思う。家の中でやるのはちょっと怖いから公園行こう。公園」

 ピシッと家の近くにある公園を指差す。そのまま駆け出した珠々を追いかけるように私も走り出したのだった。

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