第2話
アナウンサーは切羽詰まったような雰囲気を醸しつつ、緊急地震速報や津波警報が発令された時のような緊迫感は出さない。
絶妙なバランスを保つ。
「私たちってもしかしてとんでもないタイミングに居合わせてる?」
呆然とテレビを見つめる珠々はぽつりと呟く。
当然の反応だと思う。
心の中では平然を保っているつもりな私だが、それはあくまでもそう思っているだけ。
外から見れば珠々と同じく呆然としているのかもしれない。
というか、多分しているのだろうと薄々勘づいている。
だってさ、むしろこれをはいはいそうですか、って簡単に受け入れられる人間がこの世の中に何人いるのかって話だ。
もしもいるのだとすれば達観しているとかそういうレベルない。
「とんでもないタイミングなのは間違いないだろうね。もっとも悪い意味で……だけど」
「だよねー」
「珠々、なんか軽くない?」
「いやー、だってさ。急に一ヶ月後世界は滅亡するよって言われても現実感湧かないし」
現実感がない。
その言葉がかなりしっくりくる。
「それにさ、歴史の一ページに立ち会ってるってなんか興奮するかも」
「まぁ歴史ごと消えちゃうんだろうけどね」
「あ、たしかに。残らないじゃん」
世界が滅亡してしまうので元も子もない。
残すものもなければ、語り継ぐ人もいない。
『ただいまSDIの会見会場と中継が繋がったようです。会見の一部を通訳して、お伝えいたします』
テレビの画面は見知らぬ会見会場へと変わった。
初老の男性が三人並んで神妙な面持ちでなにか喋っている。
英語だ。
わからん。
その英語を掻き消すように『地球は――』と男性の声で日本語訳がなされた。
そのまま映像は流れ続ける。
止まることもなければ、切り替わることもない。
私と珠々は黙って会見を眺め、耳にする。
二十分ほどの会見。
記者の質疑応答も終わった。
会見内容を簡単にまとめてみるとこんな感じ。
まず一ヶ月後に世界が滅亡するということ。
原因は十km超えの小惑星の衝突であり規模感としては白亜紀に地球へ衝突して恐竜を絶滅に追いやった隕石よりも遥かに大きいと推測されるのだそう。
小惑星には便宜上『魔素』と呼ぶことになった微粒子が大量に付着しており、『魔素』とやらは既に地球へ多大なる影響を与えているらしい。
これから三十分もしないうちに我々人間は『魔素』の影響で『スキル』を獲得することになる。
これは元々人類に備わっていた機能だったが動力が地球には存在しなかったため一般市民には知られていなかったし、各国の政治家や発見した科学者はこのことを機密事項として黙っていた。
ただ地球には存在しないエネルギー源である通称『魔素』が動力源になり得ることがわかり発表したのだそう。
『スキル』は人によって効果が異なり多種多様。
詳細な個々のスキル効果については本能的に理解できるため検査を受け、逐一効果を確認する必要はないと言っていた。
呼吸の仕方、筋肉の使い方、視覚情報の取り入れ方、聴覚情報の取り入れ方など……誰かに教わらなくても本能的に使えるように、スキルも本能的に使用することができるのだそう。
現状説明されたのはこんなところ、か。
一気に情報が押し寄せてきて頭がこんがらがってしまう。
苦しいし、わかんないわ。
ファンタジー過ぎてなにこれって感じ。
「スキル……ねぇ。魔法的な感じなのかな」
「さー、どうなんだろうね。そんな幻想的なものじゃないと思うけど」
あまりにも非現実的過ぎて想像が全く膨らまない。
どういうものかという可能性の欠片すら見えてこない。
まぁそもそも小惑星の衝突で世界が滅亡するっていうのも非現実的なんだけどね。
「三十分もすればどういうことかわかるから良いか。考えても無駄だし」
珠々は両手を後頭部に当てて、そのまま背もたれに体重を預ける。
リビングには世界が滅亡するとは思えないほど緩やかでふんわりとした空気が漂っていた。
主に珠々のせいで。
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