「終末なら人を食べても許される」ってそこまで倫理観バグってないからね!
こーぼーさつき
第1話
スマホを触る。なにかに取り憑かれたかのように無心でSNSを開き、フォローしている人の投稿をチェックする。適当に触っていると飽きがきてアプリを閉じる。そして一人しか登録していない位置情報共有アプリを手癖で開いてしまい、えぇ私なにしてんだろうって苦笑しながらアプリを閉じた。
ガゴッガガガガゴ。
エアコンから嫌な音が聞こえてくる。きっと、そう、えぇーっと、あーっと、うん。気のせいだ。なにも聞こえて……。
――ガガガゴゴギガゴ。
聞こえてないなんて言えないなぁ。
「二華もしかして逝っちゃったかな」
隣に座る長いピンク髪がトレードマークの艶島珠々は困惑混じりに笑う。それから音の原因であるエアコンを指差した。
送風口になにかが詰まってしまったのだろうか。疑問を抱きながら原因追求のために重い腰を上げて、エアコンの中をちょこっと覗き込む。本来冷たい風が私の顔に当たるはずなのに、私の顔に襲いかかるのは熱風であった。想定外の温度感にゴホゴホと変な咳が出てしまう。
「埃?」
「いな違う。熱風が出てる。ぶっ壊れた」
「やーだなぁ。そういう冗談は良してよ」
「冗談だったら……どれほど……良かったろうね」
「なにじゃあ、冷房なしで乗り切れってこと? 無理だよ。死ぬよ。人間蒸しが完成しちゃうよ。この真夏に冷房なしなんて。拷問じゃんそんなの」
わーっと喚く。煩い。私だって文句を垂れたい。
文句を言ったところで冷風が出てくるわけじゃない。暖房しか使えないエアコンに用はないので電源を切る。ずっと熱風を吐き出され続けても困るし。そんなことをしたって死期を早めるだけ。電源を切ってから珠々の隣に戻り、腰掛ける。くーっと背を伸ばす。最初は残った冷たさで耐えれたが徐々に暑さが襲う。一時間もすると汗が額から垂れ始める。八月一日に冷房が壊れる。それは即ち死を意味する。曲解だろうか。いいや、そんなことはない。私の心の声に共鳴したかのような形で珠々は口を開く。
「熱い。死ぬ」
「わかる、というかもうこれ死んでるかもしれない」
「たしかに。死んでんのかも」
「ま、死んでたら苦しくないんだけどね」
「急にど正論を……!」
珠々はふぅと息を吐いてから立ち上がる。とことこと歩き窓を思いっきりあけて、テレビのリモコンを手に取りテレビをつけた。
「せめて気を紛らわせよう」
という珠々の提案。
悪くないなと思って素直に受け入れた。だが、チャンネルを切り替えても面白そうな番組はやっていない。しょうもない不幸ばかりが降り掛かって、なんなんだよこの世の中はと壮大な嘆きを心の中であげる。
それと同時に画面上部に速報テロップが流れた。
『宇宙開発機関(SDI)より一ヶ月後に世界は滅亡すると発表』
なんて文が表示されていた。あぁついに暑さで私の視覚情報はおかしくなってしまったんだなと一人で納得する。
「あー、私ついに熱中症で頭おかしくなったのかもしれない」
こめかみに指を当てて、あははーっと笑う。
「奇遇じゃん。なんか私も頭おかしくなったかも。世界が滅亡するとかSFじゃないんだからさー」
「……もしかしなくてもさ、さっきのテロップに『世界滅亡』がどうのこうのって書いてあったりした?」
「書いてあったりしたね。バッチリと」
「あちゃー。じゃあ、お互いに頭おかしくなってなさそうじゃん。私もそう見えたから」
手持ち無沙汰になって頬をなんとなく触る。深い意味はない。テレビの音声に雑音が混じる。流れていたはずのバラエティ番組はいつの間にかに切り替わっており、アナウンサーが一人映っていた。真剣な眼差し。そんなことないはずなのにこちらを見通しているような視線である。カメラの裏側からは焦燥漂う叫び声が飛び交っている。時折怒号も混じる。名もなきトラウマが刺激され、怖くてぶるりと身体を震わせた。そのアナウンサーはゆっくりと口を開く。
『ただいま入った情報によりますと、世界宇宙開発機関、通称SDIは一ヶ月後に世界が滅亡すると発表したようです。詳細は会見中なため不明でありますが、たしかな情報であるということです。繰り返します――』
私の右耳に入ってきたアナウンサーの声は脳みそを通過して左耳から出ていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます