第5話
午後、訓練の時間となった。
あの後、先日お礼になった治癒師には会えなかった。
たまたま、そこにいた治癒師だったらしく、その日地方から来ていた所を偶然治癒してもらったらしい。
お礼を言えないのは残念だったが、色々と他の治癒師の方に聞いてみた。
まず、治癒師になるためには体を癒す関係のスキルを得ている事が第一前提であり、治癒師を名乗るためには、教会で人神様に仕えなければならないらしい。
うーん!なんだか既得権益とかのお金の匂いがプンプンしますねぇ?
そんなこんなで早めの昼食を済ませてからアシリーの案内ので第一演習場に来ていた。
来てみると、見覚えのあるクラスメイト達や担任の先生もいた。
昨日よりも、少しだけワクワクしている顔が多い。
だが、中には一層悲壮感が増している奴もいる。
「全員、ここに集まれ!」
声がした方向に向くと、そこには委員長のイケテルがいた。
なぜ、彼が取り仕切っているのだろうか?委員長だからだろうか?
もちろん、反抗する考えを持つ者もいる。
「は?なんでてめぇが仕切ってるんだよ?あ?」
「おい!委員長!いいスキルが貰えたからっつって調子こいてんじゃねぇぞ!」
「うっわ、さっそく委員長調子こいてやんのw」
「マジウケルwww」
ヤンキー共とギャル達はさっそく反応始めた。
(あ、こっちに振るなよ?お前らの相手するの怠いんだよ。)
「お、昨日なぜか気絶した無常もいるじゃねえかwお前もそう思うような?」
「あ、昨日気絶した無常じゃんwww今日も倒れちゃったりする?www」
相変わらずのダルがらみっぷり。
逆に気絶したくなってきたよ、本当に。
(あーなんて言い返そうか...)
「まぁ、好きにさせればいいんじゃない?」
どうだろうか?当たり障りもない発言。
(あーダメっぽいな、こりゃ。)
顔を見てみたら、不満げなヤンキー達。
昨日いちごミルク買ってきてやったんだから少しはおとなしくしろよ。
「...なんか、お前も調子乗ってるよな?」
「あ、もしかして、異世界に来たからって”俺tueeeeeeeee!!!”が出来るとかって思ってんのwww」
「マジでオモロw」
ヤンキー5人の1人、通称レッドが肩に手をまわして絡んでくる。
「なぁ...殺されたくないだろぉ?そぉだろぉ?」
「ここに集まるんだ!」
先ほどの委員長と変わって、昨日案内してくれたアレンが土台に登って、号令を発していた。
無意識にだが、”従わなくては”と思ってしまう。
(もしかして、これもスキルの力だろうか?)
号令?扇動?カリスマ?
とりあえず、集まるために体を動かす。
レッドは一瞬こちらに遊んでいる最中に邪魔をされたような目を向け、舌打ちをしたが、すぐさまアレンの方に向かって歩いて行った。
委員長も委員長で、集まってくれたのが半数にも満たなかったせいか、少し悔しそうにしていた。
「それでは、今から訓練の内容について説明する。今から、各々に教官として「ちょっとまって~」...ん?なんだね?」
誰かが声をあげた。
どうやら、さっきのギャル達の1人が言いたい事があるらしい。
「そもそも私たち、戦うなんて一言も言ってないんですけどぉ~?そーだよね?みんな?」
ひとり、ひとりと小さな声で少しずつ皆が主張していく。
もちろん、僕も戦うつもりなんてない。
僕が興味があるのが、この世界の異能で、戦いではないのだ。
「...では、出て行ってもらっても構わん。」
「え?」
アレンがそう言うと、後ろの大きな門が開かれた。
「そこから出て右にまっすぐ行くと外に行くことが出来る。だが、その瞬間から我々は支援しない。」
「そもそも、そなたら勇者たちは神によって召喚されただけであって、我々が態々保護する必要がないのだ。」
「他国でも多数の勇者が召喚されたと聞く。どうするかはそなたらの自由だ。」
沈黙が覆いかぶさる。
誰も、何も言えなかった。
自分たちは頼りにされていたのではなかったのかと、頭によぎる。
が、そんな考えはすぐに捨て去る。
生きていくためには頑張らなければならない。
その、重い事実が彼らに圧し掛かった。
「...ふむ。いないのか。いないのならば話を進めるぞ?騎士たちよ、門を閉めよ!」
出ていく者、声を荒げる者なんてだれもいなかった。
自分から首を絞める者なんて、誰もいなかった。
一人を除いて。
「あの...質問いいですか?」
アランがギロッと目を向けた先にいたのは、昨日魔力暴走をして気絶した少年がいた。
「なんだね?」
目の前にいる少年は、とても魔力操作が長けている。
天才。黄金の器。金の卵。
目の前にいる少年は激情により魔力が暴走したのにも関わらず、命を失わないどころか、無傷で気絶をした器。
恐らく、剣の腕も良ければこの中にいる勇者達を軽く超える存在になるであろうと、アレンは確信していた。
そんな少年が一体何を言うのだろうか?
「ここにいれば、魔術を学べますか?」
少年が言ったその言葉に、アレンは悟った。
”ああ、少年はそちらの人間なのか”と。
魔術は、この世界では淘汰されている技術だ。
そこらにいる子供のお小遣いでも買えるような魔石に魔力を通すことで、一定範囲の魔術の行使を無効化する事ができる。
そして、魔石は魔族や魔物、地中から採取できる。
魔物との戦闘では、体内に魔石を持つために魔術が使えないし、近くの地中に魔石が埋まっているだけで発動ができない。
出来るのは、魔力を利用した身体強化のみ。
数万人に一人の英傑だと、簡単な治癒もできるのだというが、それは置いておいてだ。
魔術に身を置いた者は、弱い。
中には、体が弱いという理由で魔術を扱うようになった者もいるだろうが、気休め程度だ。
天才にそのような弱者にはなってほしくはない。
だが、同時に彼に意欲的に訓練に参加して強くなって欲しいというのも本心だった。
先ほど、アレンは「嫌なやつは出ていけ」と言っていたが、もちろん嘘である。
勇者は、存在するだけで抑止力になる。
一応、強くなった後も色々と手を使って自国に引き留めるつもりでいる。
故に、もしここで”そんな事しても意味がない”と切り捨ててしまったら、彼は強くなろうとする意識がなくなるだろう。
それどころか、出て行ってしまうかもしれない。
なにせ、ただその気持ちだけで魔力暴走をしたのだから。
幸い、彼はまだ青年以上少年以下の年であるため、こちらにする事ができる。
だからこそ、アレンは。
「ああ、出来る。いくらでも勉強をするがいい。」
自分から言うより、少年自身が学び、そして、諦めさせる方向にした。
自分が言ったら目の敵にされるかも知れない。
ならば、彼自身に機会を与え、彼自身に気づかせる。
これでも、長年国の中枢の一角を担ってきた
目と頭はいまだ、衰えていない。
そのために、態々元侯爵家の令嬢を一番才能があって、一番問題を起こしそうな彼に宛がったのだ。他の貴族から反発は多かったが、致し方あるまい。
「それでは、説明する。いいな?」
全ては、我が王国のために。
異世界で産廃技術である魔術を活用する方法~僕の人生だけでも、僕が主人公で居られるように~ 木原 無二 @bomb444
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