第4話
図書館を出て、先ほど通った廊下とは違う長い廊下を通る。
先日の同様に、脳内マッピングで簡易的な地図を作ってはいるが、あの場所にもう一度行かないと場所を繋げる事はできないだろう。
「そういえば、ここは城なの?」
「はい、城でございます。それがどうか...ああ、なるほど。先日は気絶していて外の景色が見えなかったんですね。...少し遠回りになりますが、外の景色が見える所からいきますか?」
(異世界の景色か...見てみたいな...!)
「是非おねがいするよ!」
どんな景色なんだろうか?
どんな匂いなんだろうか?
どんな空気なんだろうか?
(なんかワクワクしてきたなぁ!おい!)
気のせいか、足が軽く感じる。
(そういや、携帯の充電あったっけ?)
昨夜、寝る前に電源を消したはずだが、あとどれくらい持ってくれるだろうか?もし、余裕があれば、異世界の絶景を撮りたいな。
そんな事を考えながら廊下の角を曲がると、廊下の先に日の光が差し込んでいるのが見えた。
一歩。二歩。三歩。
少しずつ近づいていく。
あと一歩のところで立ち止まり、目を閉じる。
「ちょっとまって。」
「はい、わかりました。」
アシリーに足を止めてもらい、一歩踏み出す。
瞼を、開けた。
…
……
………
待て、と指示されたアシリーは無常の目の前で待っていた。
無常が異世界の景色を見ている間、アシリーはこれまで起こった経緯を思い浮かべていた。
国によって決められた仕事先がなんと、勇者様のメイド。
元貴族の身からしたら、なんとも仕えにくい相手だった。
勇者のメイドとなった者は、その人がこの世界から消えるまで仕えなければならない。
話には聞いていたが、まさか自分がその当事者になるとは。
(ま、没落した身だけれど、まさかメイドになるとはね…初日から魔力が暴走したりするヤバい人だけど…大丈夫かしら?)
自分が仕えてしまった相手に大丈夫かどうかと心配しながらも、恐らく、この人は自分には手を出さないだろうと考えていた。
自分が没落した時、貴族の間で裏で競りが行われていたらしい。
世にも珍しい、赤と青のオッドアイ。
勇者の血筋という証の黒髪。
水晶のように透き通る白い肌。
近くを通った者が口々に言うほのかにいい香り。
そして、元公爵令嬢という最高のステータス。
そして、性格もクールで少女を自分の物に出来るのだ。どう使おうがその人の自由。
皆が皆、こぞって自分の財を差し出していった。
だからこそ、今回の異世界召喚は彼女にとって都合が良かった。
王族の妾や、変態貴族のメイドになってしまう所だったのを、『勇者を世話する人材の人手不足』という事で彼のメイドになったのだ。
本来、没落した家の者は平民に成り下がるか、他家の助けを借りたり色々とするのが
普通だった。
だが、彼女のように他家にメイドとして奉公に出されたりする者もいる。大抵は、位の低い貴族の家の3女や4女が奉公に出されたりするが、今回出されたのは侯爵家の令嬢だった。
アシリーの家が没落した理由の一つは、戦争で魔族との戦闘で一族の男子が全員死亡たからだ。
そして、元母親は別の男の所に行っていた。
実質、自分だけが生き残ったような物だった。
もちろん、アシリーは頑張ろうとした。だが、これから立て直すと言う時に元母親が見知らぬ男と襲来。あれやこれやと言い訳されて「金が必要だ!」などと、金品を持っていかれた結果、没落するはめになった。
一応、根回しとして生きていけるように奉公するという形でメイドの職を手に入れる事が出来たわけだが、なぜかそこに勇者召喚という事件が発生し、そこにメイドとして勇者の世話係として組み込まれたという訳だ。
そして今、目の前で呆けた顔をしている少年が、自分がこれから仕え続ける主である。
(そんなに珍しい景色かしら?別にどこでも見れる景色だろうに。)
彼女にはわからないだろう。なにせ、彼の世界には飛んでいる島やドラゴンが飛んでいたりしないのだから。
「...凄いなぁ...!!」
だけど。
(ま、喜んでくれてよかったかな。)
初めて誰かに仕えてみたが、案外こういうのも悪くはないのかも知れない。
けれど。
(絶対に、ぶっ潰してやる。)
一族が危機に陥った瞬間に、
金を吸い取る分だけ吸い取って素知らぬ顔をした
私を金で弄ぼうとした奴ら。
そして、一族の仇である魔族。
(この人を使ってでも、絶対に。)
「アシリー、ありがとう。少し、いや、滅茶苦茶やる気が出た!」
「それはよかったです。それでは、行きましょう。」
少女は歩く。復讐心と、少しの罪悪感とともに。
少年は歩く。好奇心と、少しの■■■とともに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます