第3話
そこそこ大きい扉を開けると長い廊下が見えた。
恐らく、ここには他のクラスメイトもいるんだろう。
コツ、コツ、と長い廊下を二人で歩いていく。
「.........」
「.........」
(なんか、空気が悪い...?いや、会話がないからそう感じているだけか。)
よくよく考えたら初対面の人間と二人きりで歩いたら会話とかないよね。
とりあえず、何でもいいから話してみるか。
「好きな食べ物とかある?」
「...リンガが好きです。」
リンガ?リンゴみたいな名前だな。まぁ、世界が違ったら食べ物や生き物の種類も違うし、固有名詞自体が地球と違うのは当たり前か。
「リンガってどんな食べ物なの?」
「赤くて丸くて、そしてみずみずしく甘い果実です。」
「...」
それ、リンゴじゃん。
なんで世界違うのに2文字も名前が同じなんだよ。
「僕たちの世界にもリンゴっていう似た名前で特徴が一緒の果物があってね。しかも品種がたくさんあるんだよ。」
「たくさん、ですか?それは産地が違う、という事ですか?」
アシリーは摩訶不思議そうに問う。顔は無表情なのに、どこか好奇心旺盛な少女のように見える。
「いや、たとえば害虫に強い品種だったり、微妙に色が違ったり。味とかもそれぞれあるんだよ。もちろん、産地が違うっていうのもあるけどね。」
「なるほど、異世界にはそんなものがあるんですね...あ、ちなみにリンガはあれです。」
アシリーが指さした方向を見てみると、そこには観賞用として飾られたであろう真っ赤で光沢があって円錐形のような形をしているリンガがあった。
「いや、あれリンゴじゃん。」
思わず言ってしまった。
いや、だが。
(ツッコんでしまったけど、どう見てもリンゴじゃねぇか。)
「そんなに、そちらの世界の”リンゴ”というものに似ているんですか?」
「うん。あれさ、食べれる?」
「...見た目重視なのでそこまで味はよろしくないかと。」
一瞬、引いた感じのアシリーだったが、すぐに元に戻る。
そんな、引かれた事に気づかない無常と能面顔メイドのアシリーはいつの間にか図書室の前にまで来ていた。
扉を開けると、中は地球の市の図書館なんかよりも冊数がありそうなぐらい大きな図書室が目に入った。
「ここが、プレブス王国随一の図書室となります。ケリー様のところにまで案内致します。」
(あ、ケリーって名前の人なんだ。)
図書室...いや、図書館内は迷路のようになっており、見える範囲の冊数だけでも1000冊は超えているだろう。
(そう言えば、自分は文字を読めるんだろうか?)
もし、これで読めなかったら本当に色々と困る。
英語の成績が焼野原な日本男子、無常仮寝の未来はどこに向かっているんだろうか?
そんな内心を顔に出さないように歩いていたら、本を借りるであろう貸し出し台が見えてきた。しかもしっかりと『貸出』と書かれている。
(あ、読めるんじゃん。けど、なんか気持ちが悪いね。)
文字が読めるのに安堵したが、見たこともない文字が読めるという感覚に『知らない自分』がいる感覚があって、少しだけ酔いそうだった。
「ケリー様。あなたにお礼を申し上げたいと、先日の勇者様が来ていらっしゃいます。」
目を向けると、そこには緑髪黒目の男性が立っていた。真っ白の威厳のある服を着た青年と目が合う。
「あ、昨日の勇者様じゃないですか。もしかして何かありました?」
「いや、滅茶苦茶調子がいいです。昨日は助けてもらってありがとうございます。」
「それはそれは。私は魔力の流れと行き先を見ただけです。流石勇者様といったところですか?魔力が暴走したのにも関わらず、一切怪我や後遺症がないのは感服しましたよ。」
それは、才能があるということだろうか?いや、でも魔術が産廃している世界では意味のない才能か。
(ま、色々聞いとくだけ聞いとくか。やる気を“0”にするのはそれからでいい。)
「魔力を見るってどうやるんですか?」
「魔力操作を上げたり、感知力を訓練で上げると、自然と見えるようになりますよ?あと、別に砕けた感じで話してもらって結構です。」
初対面の人にため口で話せって…楽でいいな。だけど、これからお世話になるかも知れない人にため口で接するのはやめておこう。どうせ、自分の事だ。あとでしっぺ返しを喰らうのがオチだ。
「いや、このままで。じゃあ昨日の事もあるので、魔力を操作する方法を教えてください。」
そういうと、ケリーの顔が少しだけ俯いたような気がした。
「…残念ですが、我々司書は王国の法により、他者に魔力操作を教える事を禁じられています。」
そんなクソみたいな法は消し飛ばすのが正解だと思います。
「ですが、魔術の仕組みや、法則。そして体系や術式なら教える事が出来ます。」
「是非お願いします。」
無常のモチベーションが70上がった!
「では、さっそく…」
「残念ですが、無常様。そろそろ礼拝堂に行かないと昼食に間に合いません。」
あ、もうそんな時間なのか。予想の10倍くらい時間の流れが速い気がするぞ?
「午後の訓練っていつぐらいに終わるかって聞いてる?」
「残念ですが、私は存じ上げません。」
無常のモチベーションが50下がった。
「じゃあ...魔力云々に関しては後日来ます。ここはいつからいつまでやっていますか?」
「朝は第4の鐘が鳴るころから夜の第11の鐘が鳴ることまでやっています。ちなみに、本は一度に15冊で1週間借りることが出来ます。汚さないようにおねがいしますね?」
訓練が終わった後に少しだけ読むって考えて...5冊ぐらいでいいかな?
「じゃあ、5冊ほど見繕ってくれませんか?この世界の本の並びが分らないので...」
「ええ、構いませんよ。では、そちらのメイドに後で預けときます。で、内容は?」
ほんと、マジで助かります。本当にマジで。
「魔術の初心者向けの本1冊と、この世界の種族や風俗、文化に関する本を2冊。そして、子供が読むような絵本を2冊ほどお願いします。」
「...?わかりました。では後ほど。」
用事が終わったので、図書館から外に出てアシリーの後ろについていく。
さて、次は治癒師の方に行くとしよう。
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