第2話
朝、目が覚めるとそこは自分にとって都合が悪い異世界だった、なんて枕詞がついてしまう具合には最悪でクソったれな気分で朝日を迎えた。
異世界には魔法があったが、それがあまりにも頼りないものだったなんていう事実は無常のやる気を8割7分くらい削いでいた。
昨夜。
無常が魔力を暴発させて気を失ってから目を覚ますとベッドに寝かされていた。
自分の周りには司書さんと治癒師、そしてメイドさんがいた。多分、色々お世話になったのだろう。
自分は目を覚ましてからこの世界のいろんな事を聞いてみた。
まず、魔法は戦闘では全然使わないらしい。
無常はゲロ吐きそうな気分だったのを無理やり抑えて他の事も聞いてみる。
(情報は集めておく。この世界を生き抜くために。)
まず、自分がいる国の名前はプレブス王国という名前で、他にも人族の国は11ヶ国存在し、すべての国において勇者召喚が一斉に行われたという事らしい。
「勇者とは、人神が闇に対抗するために召喚した権能なのです。」
簡単に言えば、世界のバランスが魔族に傾きすぎるのを阻止するために人神が異世界から勇者という要素を召喚する事によって勇者召喚が行われたらしい。
ついでに言えば魔族の王、魔王と呼ばれる存在を殺す事によってバランスが光に傾くために、僕たち勇者はこの世界から退去されるらしい。
ベッドから這い出てから机に置いてある呼び鈴を鳴らす。
鈴のいい音が部屋に響くと、ノックオンが二回してから入り口からメイドさんが入ってきた。
メイドさんは、よく漫画やアニメで出てくるような感じっていうよりも、『仕事着』としての格好をしている。本職って感じだ。
「おはようございます無常様。先日は色々あり話すことが出来ませんでしたが、無常様の専属メイドになったアシリーと申します。よろしくお願い致します。」
黒髪、赤と青のオッドアイ。
生まれて初めて見るオッドアイに思わず目を奪われた。
「ああ、よろしくね。昨夜はありがとうね?」
「いえ、仕事ですので当たり前のことです。」
なるほど、掴みずらい人だな。ちょっとだけセンシティブそうな事でも聞いてみるか。
「質問なんだけどさ。この世界でもオッドアイって珍しいのかい?」
アシリーの目元がピクッと動くが、能面は外れないように返事を返す。
「...はい。無常様がいた世界はどうかはわかりませんが、この世界では珍しいです。それでは、朝のご支度を手伝わして頂きます。今日は、アレン様からの指示で勇者様たちは、午後から教官達が個人で剣の指導をするとの事で...」
「え、マジ?」
昨日の衝撃的な言葉もそうだけど、朝から怠くなってきたな...
「アシリーさんだっけ?その教官達って人はどんな人達?」
「...誰が担当になるかは分かりませんが...ひと言で表すならば、強いです。」
...強い、ね。
「そんな強い人たちに教えてもらえるのに午後からでいいんだ?」
「恐らくですが、アレン様のご配慮かと。」
ストレッチとラジオ体操を混ぜて、体を温かくしていく。寒くはないが、体が資本になる世界となれば話は別だ。しっかりしないといけない。
(あの爺さんがそんな配慮をするようには見えないんだけどな...?)
「あ、お風呂って入れたりする?」
「風呂は2日に1回入れます。」
(............)
体をベッドへとダイブさせる。
二度寝だ、二度寝。やってられるかっつーの。
「あの...どうかなされましたか?」
先ほどとは違ってやる気が失せた自分に対して困惑しているアシリー。まぁ確かにいきなりベッドに起きてからの行動としてはおかしいよな。
「...さん付けするのめんどくさいからアシリーって呼んでもいい?」
「それがご命令とあらば。」
ちょっと眠いし、もう一回ぐらい寝ようかな?
「日本人っていうのはね?お風呂とご飯が大好きなんだよ。」
「...なるほど。ですが、毎日入ろうとしても40人ともなれば大変です。」
(そういう面倒くさいのを魔術で解決させるんじゃないのかな?)
だけど、確かに昔の技術でそんな大量のお湯を作るなんて難しい...いや、ローマだと公衆浴場とかなかったっけ?やっぱりローマは凄いな。
「魔術やスキルとかでどうにかしないの?」
「魔術についてはわかりませんが...そういったスキルを持った者が担当しています。」
なるほどね。ちゃんと調べてみないことにはこの世界の仕組みが分らんな?
ベッドから飛び起き、学校の制服に着替えるためにクローゼットに向かう。
(...そういや、僕ってどうやって寝間着に着替えさせられたんだろ?)
あれ?もしかしてひん剥かれたのか?
(あんまり深くは考えないようにしよう...)
「執事長かメイド長、どちらにでもいいから『日本人は風呂と食事が大好きな民族』だと伝えておくことをお勧めするよ。しょうもないことで内部での争いが起こるのは嫌だからね?」
神妙な顔つきになったアシリーは”承知いたしました。”と応えて、無常が脱ぐであろう寝間着を回収するために後ろに移動する。
「あのー今から着替えるんですけど...?」
「私の事はいないものだと考えてくださって結構です。さあ、どうぞ。」
どうぞって...まだ僕は中学生だぞ?それでいいのか、無常仮寝...!
「すまないけど、後ろ向いといてくれない?あと、ほかのメイドさんや執事さんにも伝いといた方がいいよ?『日本人は奥ゆかしい生き物』だって。」
「...わかりました。」
どうやら不満が少しだけあるらしい。一体なにに不満があるというんだか...
(同年代っぽいけど、そういうわけじゃないよな...?)
やっぱり、初めては好きな人とがいいと自分は思います。(小並感)
寝間着を脱ぎ、着慣れた制服を着こなす。二年間着ていた制服をもう一度着ると、無意識に安心感が湧いて出る。
「午後はどこでやるのか知っているのか?」
「第一演習場です。アレン様から私たちメイドが案内するように仰せつかっています。」
自由時間は午前の限られた時間だけって事だよな?
「昼食はいつだ?」
「鐘の音が一番大きく鳴った時でございます。昼食前になれば、私がわかります。」
なるほどね、そういう感じね。
彼女との信頼関係は絶対に損なってはならないようだ。
「昨日世話になった治癒師さんと司書さんにお礼が言いたい。場所わかる?」
「司書は王立図書室に。治癒師は...この時間でしたら礼拝堂にいるかと。」
「それじゃあ、まずは図書室から案内してくれる?」
「承知致しました。」
よし、
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