第三十一話 招待前とエドの帰還

 数日前に遡ること、アンジェの提案したピザの試作が出来上がった。

 こんがりと焼きあがった生地にソースと具材がチーズでいい感じに仕上がっている。

 アニーもミリー、モーラも満足そうにアンジェに試食を渡す。

「いい出来だわ。さあ、皆も食べてみてちょうだい。」

 伸びるチーズを上手くフォークに絡めて食べるみんなも

「美味しいですわ。ステフ様にも、お持ちしてよろしいでしょうか?」

「別に、構わないけど。喜んで頂けるかしら。」

「だいひょうぶでふ。」

 モーラは、もぐもぐと頬張りながら話す。

「アニーは、お母様とロッテの分を用意して、ミリーとモーラは、ゆっくりしててね。

 モーラ、誰も取らないのよ。ゆっくり食べてね。何言ってるか良く分からないわ。」


「お母様、料理が出来ましたの。

 その、良かったら一口だけでも食べてみて欲しくて持ってきたのですが?」

 アンジェが、珍しく『モジモジ』している姿に、ステフの心は陥落した。

「アンジェ、ありがとう。

 喜んで、いただくわ。」

「ロッテも一緒にどうかしら。」

 アンジェは、お母様を伺い、ステフは、頷くとアニーはお茶と一緒に持ってきたピザをテーブルに用意した。

「アンジェ、これは美味しいわね。」

「アンジェ様、このトマトソースはさっぱりした酸味で、スライスされたトマトが焼くことで甘くてチーズに合いますわね。」

「こちらの、白いソースにもチーズがコクをだして、外側のカリッとした生地にあいますわよ。」

 うんうん。二人にも、評判は上々のようだ。

「アニー、皆は私たちと違って、ナイフとフォークの使い方も慣れてないかもしれないわ。

 外で立食とかどうかしら?」

「アンジェ様、いくら何でもそれはお止めになった方が。せめて、座ってお食事に致しましょう。」

 おや?アニーが、消極的だ。そこに、ロッテが追撃をかける。

「そうですわ。いくらまだ子供と言っても、アンジェ様よりましだと思います。」

 なんと!この私より、子供たちの方が信頼されている!

「あんまりですわ。お母様からも、言って下さいまし。

 私の、この配慮に問題があるなんて。」

 お母様は、少し困った様な顔をしたが。

「ロッテとアニーの事を聞きなさい。」

(あれ~、またも見方がいないわ。

 アンジェの信頼性が0なんだと自覚できたようだ。

 だがしかし、諦めるわけにはいかないわ。

 えっ、そこまでして、こだわる事じゃないだろ。

 いいえ、私の尊厳がかかっているわ。ちっびこ達に負けるわけには、いけないわよ。

 なんか、フラグが立ったような?もう好きにしてくれ。)

「お母様まで、私の心遣いがわかっていただけないなんて。・悲しく思います。」

「アンジェ」「アンジェ様」

「わかりましたわ。そこまで、仰るのなら、立食は止めますわ。ですが、ナイフとフォークはまだ、早いでしょうから手で頂きましょう。」

「はしたないわ。」

「パンと同じよ。これは、譲りませんわよ。」

 ぷくーと膨れたアンジェに、かけられる言葉はもうなかった。

(よし、勝ったわね。

 お前は、いつも何と戦ってるんだか。)


 それが、今日の結果である訳だった。

(アンジェ、何か言える言葉はあるのかね?リーズにまで、言われちゃ、返す言葉も無いだろう。

 戦略的撤退よ。多勢に無勢では、こちらの被害が大きいわ。

 小さい、尊厳だったな。)

 まあ、お父様たちが戻るまで、まだ少し時間があるしせめて、楽しく行こうと思うアンジェだった。


 ※ ※ ※ ※

 アゼリアでは、一先ず帰途につくために、準備をしていた。

 そこに、ハイド伯爵が来る。

「もう、帰るのか。」

「何時までも、領地を離れているわけにはいくまい。それと時期が何時なのか、分かったら連絡を寄こしてくれ。」

「ああ、任せておけ。そちらも、準備もだがまた、来るかもしれんな。」


 ワイズとイリスの様子がおかしい。

 エリスは、楽しそうな二人から話を聞き出そうと準備を終える。

「イリス、まだ終わっていないなら手伝うわよ。」

「えっ、エリスは、もう終わったの?」

「そんなに、荷物は無かったし、団長の相手をしている間にも簡単に纏めていたから大丈夫よ。」

「じゃ、お土産の方を直してもらえるかしら?」

 今だ、とエリスはイリスにすり寄る。

「ねえ、イリス~。

 ワイズさんと随分と仲が良くなったようだけど、何かあったの?」

「ふぇい。

 な な 何を、言っておられるのですか。」

「そんなに慌てて、いい感じにお付き合いでも始めたのかしら?」

「そんなことは、ございませんわ。

 私は、まだ剣士としても半人前ですから、お付き合いする時間なんて以ての外です。」

 固いわね。

 ならば、ストレートに聞いた方が早いわ。


「そうそう、今回の会議で急に話しが纏まったじゃない。

 あれって、ワイズさんの案で最後に協議したのよね。」

「え ええ、その様に聞いていますわ。」

「丁度、イリスとワイズさんの距離も近くなって親密そうになった頃でしょ。

 何があったのです?」

「エリス、何を勘ぐろうとしているのかわかりませんが、ワイズさんとは何もありませんし、会議の事での話は、皆さんが知っておられる物と変わりはありません。

 さあ、口は閉じて、手を動かしてくださいよ。

 出発まで、時間がないんですから。」

「分かりましたわよ。もう詮索するのも、面倒ですわ。

 閣下に、直接聞こうかしら。」


 ※ ※ ※ ※

 その頃、アンジェは、日課の鍛錬以外を全力で満喫していた。

 街へ出ては、食べ歩きをして、セトたちと遊び、自由を謳歌していた。


 アニー達が、日ごろの行動を記録しているとも知らずに。

「そろそろ、皆が戻ってくる頃よね。

 まだまだ、時間が足りないわ。一日中ごろごろとしたいし、パスタにも挑戦したいわ・・。」

 自分の欲に忠実な僕は、周りを見失っている。


 ※ ※ ※ ※

 シュナイゼン伯爵は、ハイド伯爵へ出立の挨拶に来ていた。

「私も、今日中には、ヘリアンサス城郭都市へ戻る。

 今回の件、候への報告と国王陛下との調整もある。

 リヒタル子爵の件も気になるが、貴殿も分からぬのでは仕方あるまい。

 そちらの、調査は任せたぞ。」

「それは、構わんのだが、ウィルビス候は良いだろうが、事は問題なく進めてよいのだろうな。公爵なんぞに邪魔されては、適わんぞ。」

「それも、問題あるまい。今の陛下なら喜んで手放すだろう。

 公爵に邪魔される前に、こちらで処理した方が良い。」

「では、またな。」

『王国も、先代の3世でおかしくなったな。』

 ハイド伯爵は、つい呟いてしまった。


 ※ ※ ※ ※

 ようやく、戻ってきたエド達に、出迎えたアンジェは全いることを確認する。


 1 2 3・・


「おかえりなさい、お父様。」

「アンジェ、今戻ったぞ。」

「皆様も、無事で良かったわ。

 今日は、疲れを取りゆっくりと休息を取ってくださいね。」

 勝手に、場を仕切るアンジェに、苦笑いをするエドは、仕方なく。

「うむ、今日は、日も暮れる。

 また、明日から話をするとしよう。」


 そうそう、疲れていては、何とやら。

 今は、休むがいい。

 私の心の為にも・・


 おっと、イリスわっと。

 エリスと一緒に話している。

 ワイズが何故か、なだめているのは気のせいかしら?

 何かあったのかしら?


「エリス、イリスもお帰りなさい。ワイズもご苦労様でした。

 お三方で、いったいどうしたのですか?」

 視線が、アンジェに向くとそれぞれに訴えかけてくる。

「アンジェ様、お手紙の件、上手くいきましたよ。

 お約束通り、エド様とイリスに私しか例の件もお話していません。」

 小声で耳打ちしてくるワイズは、嬉しそうにしている。

 何が、そこまで嬉しいのであろう?

 まあ、人出が増えるのは助かるわね。

「アンジェ様、お陰様で父と母や家の者たちに会えました。

 みな、喜んでいました。私も、任務とはいえ、今回は楽しく随行させて頂けたこと、心から感謝いたします。」

 イリスには、いい旅が出来たようで、何よりだ。

「それは、良かったわ。

 やる気も、十分に充電ができたようね。」

「アンジェ様、ワイズさんもイリスも何やら、こそこそと隠し事をしているのです。

 お二人の関係が怪しいとか、そんな不謹慎なことは考えてもいません。

 ですが、何か仲間外れにされているようで、一緒に問い詰めましょう。」

 エリスは、手紙の件で、ワイズとイリスの中を疑っているのね。


 しかし、それは違うのよね~。多分。

 それに、二人は私の物だ!

 久しぶりの二人は、やはり綺麗だな~っ。

『二人の、この体も全ては私の物よっ。』

 ガツン!


「何を言っているのですか。」


 あった~。

 目の色を変えた、アニーが後ろに仁王立ちをしていた。

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輪廻は廻る 〜異世界、アンジェの奮闘記〜 moca @moca2

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