第三十話 会議の終わりとピザの評判

 エドワードは、残った会議室でセルシを見ると、一杯付き合うかと

「ワイズ、先に戻っていてくれ。」

 ワイズは、ハイド伯が背を向けて待っている姿に

「閣下、それでは失礼いたします。」


「エドよ、良かったのか本当に。」

「良かったんじゃないか。みなでの揉め事は、敵に利しか与えぬ。

 叔父さんには、セルシか俺のどちらかでとか思ってそうだな。」

「子細は、またこれからだが、大筋はきまったな。

 モルドレッド爺さんには、上手く報告しておくさ。

 さあ、今日は少し付き合え。」

「だろう、と思ったよ。」

 久しぶりに友と酒を酌み交わす二人は、昔話をまぜながら、これからの事を話し合う。


 ワイズは、戻ると先にマクミランへ会いに行く。

「『コンコン』終わったぞ。」

 返事を待たずに入ると、エリスとイリスに数人の護衛も談笑していた。

 それぞれに、喜びを表し、護衛の数人は、怪しげな踊りで場を笑わせる。

「まさか、飲んでるのか?」

「飲まずにはいられんよ。『ヒック』

 鍛錬以外に、する事も無いしな。だが、話はついたのだろ。お前の顔を見ればわかる。成果は、あったのだろう。」

「ああ、期待してもらっていいぞ。

 詳しくは、閣下から話があるまで話せないがな。」

 ワイズは、イリスに目を向けると少し頷く。

「よし、今日は飲むか。」

 マクミランが、更に飲む気でいると、また来客が来た。

「リンデン子爵。」

 前の戦以来の再開であったが、

「男爵たちには悪いが、前回の約束もこの際かねておこうか。私もまぜてもらおうか。

 酒と食事を頼む。」

 傍にいた侍女に頼むと。

「畏まりました。」

 と慌ただしく出ていく。

 ※ ※ ※ ※

 バズール公爵へ、一報が入ったのはアゼリアで会議が始まってからである。

「公爵様、国王陛下より、捕虜の件についてウィルビス候へ通達が入ったようです。」

「なにっ。貴様は何を言っておる。

 その件は、我が仲介に入ると申し出ておるはず。」

 悪そうな顔を、更に苛正せると、

「陛下は、膨れ上がる捕虜に困り公爵様からの申し出の間でも王都近郊から引き離す意向のようで、ウィルビス候は領内の当主を集め協議した上でご報告をするとか。」

 少し考えると、バズール公爵は

「王都とウィルビス候の情報を至急で集めるように。

 もっと正確な情報を持ってこい。それから、オイコン要塞へ使いを出す。準備を早くさせねば。」

「はっ」

 兵士がさがると、いつもいつも、ウィルビスに頼りきっている国王を疎ましく思い、『忌々しい』と呟く。

 公の片腕であり、参謀のヴォルスブルク伯爵フォスターが、入ってくる。

「閣下、時機が悪いようですな。

 来年に、持ち越すとして、決行は早くなるでしょうな。」

「急いては事を仕損じる。ギリギリまでは、準備と情報の収集に尽力せよ。」

「お任せを。周辺と中立の領への働き掛けもしております。

 こちらも勢力では、負けてはおりません。」


 ※ ※ ※ ※

「アンジェ様、もうお止めくださいませ。

 準備は、私たちにお任せください。」

 アニー達に、止められご機嫌斜めで焦げた鍋を涙目で見下ろす。

 目じりに、『じわっ』と溜まる涙を堪えながら

「負けた負けた負けた負けたぁ~。どうして、出来ないの。」

(中身が、オッサンたちだからだね。火加減なんて良く分からんし、豪快に焼いて塩をかければ、大体の物は食べられるさ。

 くっ、貴方たちに繊細なことを要求したのが間違いだったわ。生地は記憶通りな、平たく丸くならないし破けるし、釜戸に入れたら、炭になるし。

 待て待て、やったのアンジェだろ。俺たちは、生温かく見守ってただろ。しかも、アニー達は、懸命に教えていただろうが。アンジェが不器用なだけだろ。

 くっ、許すまじ!)

「勝ち負けでは、ありませんよ。それに、これは私たちのお仕事ですもの。」

 モーラに、諭されて仕方なく、焦げた鍋を置くと。

 ミリーが後ろから抱きしめてきた。

「良く頑張りましたね。その気持ちは、私たちが知っています。ですから、明日の為にも、もうお休みになられてくださいませ。」

「分かったわ。私のこの悔しさを察し受け取るがよい。『ゴシゴシ』」

 溢れんばかりの涙を、ミリーの袖でふき取るアンジェに、

「まあまあ、仕方のない方ですね。」

 ミリーは、動じる事も無く片付けを始めた。

(またかよ。いい加減にしないと、ミリー達もそっぽを向くぞ。

 これくらいじゃ、効果は無いようね。食べ物の恨みを与えるのよ。

 じゃ、アンジェがダメにした分の恨みを受け続けるんだな。

 えっ、ま まあ、これくらいにしておこうかしら。)

「モーラ、アンジェ様をお部屋へ。

 私とミリーは此処を片付けるわよ。」

 アニーからの指示に、皆はテキパキと動き出す。


 翌朝から、青く澄んだ空に満足そうに眺めるアンジェに

「今日は、ロッテが迎えに行ってくれるのよね。」

「一人では、大変でしょうから私とミリーも行ってきます。

 アンジェ様には、モーラがいますので大丈夫ですよ。

 ステフ様に、感謝をお伝えしておくのですよ。」

 アニーは、アンジェに返事をすると着替えの手伝いを始める。

「アンジェ様は、簡単に着替えれるのでいいですね。

 それに、体が筋  引き締まってきましたわね。」

「アニー、言い直しても手遅れじゃないの、大体、簡単にってなによ。

 出るとこも無いってことかしらね。」

 アンジェは、引き締まっていく体を見下ろし、幼児体系な自分に『まだ、これからなんだ。』と言い聞かせて、涙を拭う。

(大丈夫だよ、アンジェ。

 ノブっ。ありがと・。

 無いなりの、需要もある。後5年いや10年もあれば、俺の好みになるに違いない。

 くそっ、少しでも感謝の気持ちを言った私が愚かだったわ。

 今日は、楽しむといいさ。頑張って、考えただろう。)

『む~、最後に口封じか。』まあ、ノブはいいや。

 今日は、遊ぶんだ。

 気持ちを、切り替えてステフのもとへ向かうアンジェだった。

「お母様、本日は私の為にありがとうございます。

 ロッテも、よろしくお願いしますね。」

 ちょっと、ビックリした二人も笑顔で応える。

「アンジェ、あまりはしゃぎ過ぎないように、無理を言ってはなりませんよ。」

 ロッテも、

「私は、迎えに行くだけですから。お気になされないで下さいませ。」


「歓迎するは、エル、セト、サラもリーズも皆ありがとう。

 今日は、楽しんでいってね。」

「少しぶりね。アンジェ。」

 エル達が気をあまり使わない様に、場所を庭に選び丸いテーブルにクロスもしないで立食出来る様に飲み物や焼き菓子を置いておく。

 たくさん遊んで、おしゃべりをして、最後にピザを用意した。

 悩んだ末、ナイフとフォークは、使わないで手づかみで食べるスタイルだ。

(なあ、ホントに手で食べるの?

 何よ、作法に慣れてないかもって、それに貴方も手で食べてたじゃない。

 それは、昔の記憶だろ、此処の皆が無作法とは限らないだろ。)

「アンジェ、これおいしいわ。」

 エルを始め皆からの評判は良かった。それから、やはりソースを口にべったり付いているのを見て、ナイフとフォークもクロスも用意しなくて良かったと思った。

「なあ、アンジェ。何でナイフもフォークも無いんだ。

 熱いパン生地で作りたてだから、凄く美味しいけどソースがこぼれそうでチーズも伸びて食べにくいよ。」

『おや』セトの突っ込みに、怯む。

「出来立てを、感じながら豪快に食べるのがピザなのょ。」

 周りの冷たい視線を受けつつ、取り作ったが、時すでに遅し

「アンジェ様、だから言ったではありませんか?

 いくら何でも、行儀が悪いと。」

「あ れれ、じゃ、皆がソースまみれになってるのは?」

「手づかみだからでしょ。アンジェったら、早く使えるようになった方がいいわよ。」

 何んと同い年のリーズにダメ出しを受けたアンジェは、更に姉たちからの痛い視線を浴び続けることになった。

(ピザかあ、歴史的にはかなり前からあったんだよなあ。

 世界も変われば、違いもあるのかしら。

 そうだな、そうに違いないや。あは、あははは。

 これ、ホント美味しいわね。おほほほほ。)

 日が暮れようと、空がオレンジに染まってきた頃、

「アンジェ様、そろそろお時間です。」

 楽しい時間は、過ぎるのが早いわね。

 勉強と同じ時間が流れているとは、思えないわ。

「今日は、楽しかったわ。皆、わざわざ、来てもらってありがとう。」

「こちらこそ、お招きいただき、ありがとうございました。」

「エル、何を今さら畏まってるんだよ。」

「ちょっと、上品に言ってみたかったのに。」

 今のは、セトが悪い。

 アンジェは、エルの手を取り皆に笑顔でまた、『感謝』をすると、セトの頭を軽く叩く。

「セト、後でエルに謝りなさいよ。かっこ悪いセトを見たくないし、モテないわよ。」

 顔を、赤らめるセトも言い過ぎたのか、下を向く。

「それじゃ、また遊びましょ。

 アニー、皆の事をお願いするわね。」

 ロッテ達の付き添い組と庭の片付け組に分かれてお開きとなった。

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