最終話 とりあえず、一発ブン殴ってやった


 エクレール。

 サーシャ。

 アリア。


 原作にて、一巻から三巻までに登場したヒロイン達であり……

 本来、カイルが仲間にするはずだった、最強の仲間達。


 彼女等とパーティーを組むことによって、俺の計画はほとんど完遂したも同然となった。


「で? 次はどこへ行くのじゃ?」


 霊山を下りつつ、アリアが問うてくる。


「そうだな。まずは師匠の冒険者登録がしたいんだけど……もしかして、もう登録済みだったりする?」


「う~む。一応、登録した覚えはあるのじゃが、なにぶんかなり昔のことじゃしのう」


「じゃあ、改めて登録しに行こう」


 ということで、麓の街へ向かい、アリアの冒険者登録を済ませた後。

 不意に、気になる会話が聞こえてきた。


「王都近郊に、ヤバい魔物が出たんだってよ」


「へぇ~。でも、あそこにゃカイルが居るんだろ?」


「あぁ。つっても、最近はサボり気味らしいぜ」


「ふ~ん、じゃあ、討伐隊の募集とかやるのかねぇ」


 これにピンと来た俺は、仲間達へと提案する。


「王都まで足を運んで、ヤバい魔物って奴を拝みに行くってのは?」


「さんせい」


「異議はありまセン」


「ま、おぬしらの腕試しにはちょうどよかろ」


 そんなこんなで、俺は皆と共に王都へ。

 およそ一月も経ってないが……ずいぶんと懐かしく感じるな。


「ふぅ~む、霊山に篭もってからけっこうな月日を過ごしたが……外界の様相は特別、様変わりしとらんのう」


 と、口では言いつつも、アリアは目を煌めかせて周囲を見回している。

 そんな彼女を皆と同じく微笑ましい顔で見つめつつ……


 冒険者ギルドへ。


 そこでは霊山麓の街で冒険者達が話していた通り、件の魔物に対する討伐隊が募集されていた。


 受付へ行き、討伐隊への編入申請を行う、と――


「あれぇ~? アルベルトじゃん」


 聞き知った声が、耳に入る。

 振り向いてみると、そこには、


「カイル……!」


 主人公と、そのパーティーが立っていた。


「なにお前、まだ冒険者やって――」


「あ、思い出した」


 奴が言葉を紡ぐ最中。

 俺の脳裏に、かつての記憶が蘇る。


 カイルによる嫌がらせで何もかもを失った、そんなとき。

 俺は心に誓ったのだ。


 次に会ったら、一発ブン殴ってやる、と。


 そういうわけで。

 俺はスキルを発動し、自らの存在を消失させ……


 踏み込み、一瞬にして肉迫。

 拳を振るって、着弾の直前にスキルを解除。


 この不意打ちに対し、もしもカイルが原作通りの主人公だったなら、アッサリとカウンターを叩き込んできただろう。


 しかし。

 今のカイルは主人公であって主人公ではない。


 どうやら怠惰な日常を過ごしてきたようで、腹が少し出ている。

 顔も醜く太り出していて、精悍だった頃の面影もない。


 そんなカイルは、こちらの拳にまるで反応が出来ず、


「ぐげぇッ!?」


 顎へクリーンヒット。

 その一撃で以て、失神KOとなった。


「ちょっ!?」


「カ、カイルっ!?」


 脇を固めていたパーティーメンバー達が、目を丸くして、奴の名を叫ぶ。

 そんな面々へ、俺は。


「そいつが目を覚ましたら、こう言っといてくれ」


 ニヤリと笑って、次の言葉を送る。



「お前はもう主人公じゃない。今は俺が、主人公だ……ってな」



 言い切った後。

 皆と共に、ギルドを出る。


「アレが前に言っておった、因縁の相手か」


「なんかムカつく」


「品性の欠片もない顔をしていましたネ」


 俺は内心で笑った。

 ヒロイン達にこんなこと言われてんだから、そういう意味でも主人公失格だよな。


「ま。とりあえず、魔物に関する情報収集とか、下準備とか、色々済ませとこうぜ」


 王都の只中を、仲間達と歩く。


 まだまだ道半ば。

 こういうときは、この一言で締めくくろう。



 ――俺達の冒険は、これからだ!

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追放系の悪役に転生した俺、主人公を追放せずに「ざまぁ」回避したら、調子こいた主人公の手によって、こっちが追放された。ムカつくのであいつのヒロインになるはずだった美少女達を味方にして成り上がろうと思う 下等妙人 @katou555

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