2−7:報告書
その晩、私は夢を見た。夢の中の夢。
現実感を喪失し、引き金に掛かる指があまりに軽く感じられてしまう様な感覚に包まれる。意味の無い全能感であり、胸を焼く様な焦燥感でもある。
まあ、そんな事はどうでもいい。
重要なことは、ヨグ=ソトースからの指令は私の夢によって伝達されると言うことである。
何もない空間に、声だけが響くのだ。
1917年。セルビア。ガヴリロ・プリンツィプ。フランツ・ヨーゼフ通り。カフェ。売れ。不発の爆弾。買え。ブローニングM1910。
1965年。ベトナム。南ベトナム軍。准将ゴ・ディエン。枯葉剤。芥子畑。散布。チーム・スター。ヘロイン。CIA。
2018年。アメリカ。テキサス北部。ヘルズ・エンジェル傘下組織。ガン=エル=マチェティ。トロイの盾作戦。囮捜査。砂漠。密造銃。2千丁の模造AKと2万発の銃弾。掻っ攫え。Etc…
無限に続く単語の羅列。6時間の睡眠は一年と半年とも取れるほどに引き延ばされ、単語による指令が延々と繰り返される。
私がその全てを履行しても、更にその上に上乗せされるのかもしれない。確実なのは、奴が満足するまでそれは続くと言うことだ。
死は救済ではなく、時間は円環の中にある。永遠だ。
だが、諦めた所で状況は何も好転しない。私はひたすらに時を旅し、仕事をこなす。それだけだ。
これを報告書と銘打つのは間違いかもしれない。
こんなもの唯の愚痴に過ぎない。それでも、私が人間らしくある唯一の拠り所だ。
そうそう、誰が使うか分からないが、この旅行鞄の使い方についても記述しておく。
① これは旅行鞄じゃない。(言うまでもないことだけど)
② どんなものでも吸収する。(そう表現するほかない。此奴を放り込んだ私の愛車であるマツダT600は吸収されてしまった。海や山を消さない事を考えると、私の所有物に限られるようだ)
③ どんなものでも取り出せる。(但し、吸収したものだけ)
④ 自死以外に残された唯一の時間遡行手段(吸収されたものは時間を遡行する力を手に入れる。例えば、T600の場合。ある閾値を超える速度まで加速することが可能となり、デロリアンじみてタイムトラベルできる。但し、ドクやマーティの様な頼もしい仲間は付随しない)
⑤生物も吸収出来る(まだ試していないけれど人間も)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます