第二話:翡翠とその始まり

2−1:ワンス・アポン・ア・タイム

 私の武器商人としての人生は酷く長いものだった。


 ある時は古代中国、ある時はテキサスの砂漠、ナイル川のほとり、ベトナムのD基地、ゴルゴダの丘、商業革命真っ只中のパラグアイ。

 数え出すとキリが無い。


 それに、何処もかしこも血と鉄の臭いに満ちていた。


 碌でもない仕事であるには違いなかったが、さりとて断る事も出来ない。


 何せ、私の上司は名状し難い超常の存在でいらっしゃるからだ。

 

 その外見は、太陽の如くまばゆく輝く虹色の球体の集合体である。

 その球体は歪み、合体し、離れることを繰り返し、大きさはあるときは直径100メートル、またあるときは1キロに伸び縮みする。


 彼の御方の名は人の口では発音できない。故に、便宜的に私はと呼んでいる。


 上司は人智の及ぶものではない。全にして一、一にして全なる者であり、過去・現在・未来といった時間軸や、あらゆる次元空間も彼の中では同一のものである。

 

 面倒臭い言い回しを取っ払うなら、上司は何処にでも存在していて私を監視しているという訳だ。


 上司との出会い、というより遭遇は、私がまだ一介のセールスマン(ガールと評するべきかも)だった時まで遡る。

 

 そうだ。あれはビルマにラジオを売り込みに行った時のこと。


 確か、1988年。一応の民主化が為された辺りだ。


 思い出してきたな。嫌な思い出だ。

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