1-5:報告書

 30日後、武村は戦禍に見まわれた。


 徴兵の過程も踏まずに、村民は皆、兵士と化した。誰もが本質的な暴力装置として機能した。この戦が隣国の奇襲によって生じた偶発的なものであり、武村が地図上においては所属している大国が準備をなしていなかったのが、主な要因である。


 村は実質的に何方の国にも属していない第三勢力として扱われる事となったのだ。


 しかし、コレだけでは何も特筆すべき事はない。


 少なくとも、この時代の中国圏では日常茶飯事である。国境付近の集落は望むと望まざるとに関わらず、そう運命付けられているものだ。


 当世の通例から逸脱していたのは、彼等が有していた武力だけである。


 234丁の56式歩槍と2万発の銃弾。そして、ゲバラの記した局地戦それこそが今回の合戦に講和という不可思議な結末と類を見ない死傷者を齎した。


 武村の位置する荒野で相対した二大国は、巨大な一つのトーチカと化した武村を挟み込む形で衝突した。


 結果は酷い物だ。肝脳塗血と評して過言でない様相である。


 両軍共に10万近い死傷者を出し、現地で講和を結ぶ事となった。一方の武村の村民も無事では済まなかった。


 粗悪な動作機構を限界まで酷使した結果、銃の多くは暴発。村民の殆どが重軽傷を負った。そして、両軍の目の敵とされた武村は兵糧攻めに合い、生き残りも全て餓死した。


 武村は地図から姿を消した。


 そして、歴史にその名を深く刻みつけた。


 終わる事のない泥濘の戦乱の前哨戦を根底から無に帰した鬼道の村として。


【追記】

 これが後世の中国大陸に与えた影響は酷く限定的である。最終的には、単一の権威主義的国家が形成される事となる。


 これで満足か、●●●●●●。

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