ナナたん クワッ
オカン🐷
クワッ
「ハーにいたん、1こだけ」
「それを言うなら1回だろ」
「1かいだけ」
「1回でもやだよ」
「ソーにいたん」
「ぼくもやーだ」
子ども部屋の前をカズが通りかかった。
部屋の扉が開いて、黄色いアヒルのおもちゃが飛び出してきた。
「うわあ」
「あっ、パパー、いっちょに」
「パパがそれするの? やだよー」
「つまんなな」
電動で羽をばたつかせるアヒルは後ろにお菓子の入った箱を引いて、3個連結して走っていた。
そのあとをナナが追いかけた。
手を腰に当て腕を曲げ羽がついているかのように動かした。
アヒルと同じ様にクワッ、クワッと声を発するのも忘れなかった。
「ナナはああやって遊んでいるのか?」
「まだやってたの? 飽きないわねえ。青山行ったときにウーたんとアヒル隊長のあとを隊列組んで遊んでいたのが、よほど気に入ったのね」
「でも、今見たら3個連なっていたよ」
「ナナがお兄ちゃんたちまで巻き込もうとするから、おもちゃランドの店長さんに2個届けてもらったの」
「それはご苦労さんだな」
「余分なレゴも頼んだわよ」
お茶を煎れながらルナは訊いた。
「カズさん、ナナにスマホ貸した?」
「いや、貸してないよ。なぜ?」
「ナナがルナミちゃんと連絡を取り合ってるみたいなの」
「ハヤトにも持たせてないし。どうやって?」
お茶を啜っていると、扉の開いた子ども部屋から泣き声が聞こえた。
「ナナ、やめて。エナとマナをおもちゃにしないで」
「ウーたん、このこたち、じょうずにあんよちてるよ」
上手でなく無理やり歩かされている。
まだつかまり立ちが出来るようになったばかりだというのに、連結を外したアヒルの箱をひとつずつ捕まらせて歩かされていた。
エナは頭から突っ込んでいき、マナはズルズルとアヒルに引き摺られている。
カズと一人ずつ抱き上げてあやした。
「マナ、怖かったねえ。おお、よちよち」
「こっちがマナじゃなかった?」
カズは抱き上げた子を見て言った。
「あらっ、そうだったかしら。じゃあ、この子はエナ? 双子だからねえ」
「シッターさんの叔母さんはまだ具合が悪いの?」
「唯一の身内だから気になるみたい」
「施設に入るなら紹介するけど」
「臨時のシッターさんは3時までだし。延長してくれたらいいんだけど、今度ゆっくりと話してみる」
気が付いたらナナがいない。
どうやら庭に出たらしい。
庭園の奥の池のそばに姿を見つけた。
アヒルが順々に池に飛び込んで行く。
最後の1羽が飛び込んだ。
「ナナ、待ちなさい」
ルナの制止も聞かず、最後のアヒルに続いて飛び込んだ。
水飛沫をあげ、クワッ、クワッと発しながら、ナナは両腕をパタパタと動かしている。
騒ぎを訊いて駆けつけてくれた庭師のおじさんに、飛び込もうとしていたルナは止められ、おじさんとナナを引き上げた。
「ウーたん、アヒウたんとパチャパチャしたよ。アホヤマのウーたんに、もちもちちゅる。あっ、だめ。ないちょ。ひみちゅ」
ナナは慌てて両手を口に当てた。
そうだ、どのスマホから電話しているのかも訊き出さないといけない、頭が痛い。
カズはキッズルームに行かせようかと言うが、それよりスイミングに通わせたほうがと考えている。
【了】
ナナたん クワッ オカン🐷 @magarikado
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