しりとり
惣山沙樹
しりとり
「瞬、しりとりしよう」
「この状況で?」
僕はベッドに横になり、お尻に薬剤を注入して、便意が来るのを待っていた。そんな時に兄からそう言われたのである。
「俺からな。りす」
「待って了承してないから」
「ほら、す、す」
兄がつんつん僕の頬をつついてきたのでやむなく答えた。
「……すいか」
「からす」
「すずめ」
「メタンガス」
「何それ?」
兄は自慢げに解説し始めた。
「天然ガスの主成分だよ。都市ガスに使うやつだ。あと、おならの中にもメタンは含まれていてな」
「へぇ……それで臭いの?」
「いや、メタンは無臭。他の成分のせいで臭い」
「兄さんそんなことはよく知ってるんだね」
「とにかく、次はす、だぞ」
便意はまだ来ない。僕は言った。
「すみ」
「ミートソース」
「また、す?」
「す攻めだ」
まあ今回は僕が受けをやれと言われたので浣腸しているわけなんだけど……って兄め、上手いこと言ったつもりなのだろうか。
「降参。兄さん、思いつかない」
「はぁ? もっとよく考えろ、あるだろいくらでも」
「す……す……す……スーツケース!」
どうだ。これで逆転だ。
「スイス」
「うっ……」
普段からこういうことばかり考えているのだろうか。強すぎるだろ。
「す、す、す、す……すす! すすってあるよね? 煙突とかにあるやつ!」
「あるよ。すす、な。すりガラス」
「もう!」
大きな声を出したら腸がきゅるきゅると鳴り始めた。
「兄さん、もう無理。二つの意味で。トイレ行ってくる」
「トイレの中で考えろ」
「ええ……」
僕は便座に座ってひたすら「す」から始まる言葉を考えた。いや、兄のおふざけにクソ真面目に付き合わなくてもいいのだが、兄はしつこいのである。
「はぁ……やだ。ストレスたまる。あっ……ストレスか」
勢いよくトイレから出てきた僕は、ベッドのふちに座っていた兄に宣言した。
「ストレス!」
「ステゴサウルス」
もうこれ以上は面倒だ。僕は兄の隣に腰掛けてすりすりと手を……そうか。これもあったか。
「スリ!」
「リンス」
僕はがっくりとうなだれた。
「兄さぁん、やだ。もうやだ。降参させてよ」
「このくらいで許してやるか。あとはステンレスとかスパイスとかいくらでもあるぞ」
「高卒のくせに何で変なことばっかり詳しいわけ?」
「おいコラ学歴バカにすんなお前のせいだろうが」
余計なスイッチを入れてしまい、一発平手で叩かれた。
しりとり 惣山沙樹 @saki-souyama
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