プラス

リュウ

第1話 ヒーロー誕生!

 下校途中の僕は気付いていた。

 僕は誰かに後をつけられている。

 スマホを観ながらという体で、ここまで歩いてきたが、さすがにバレバレの尾行だ。

 小走りをする、相手も付いてくる。

 黒いスーツ、サングラスに帽子。

 アニメに出でくるスパイそのものって感じだ。

 歩行者信号が点滅している。

 後ろに三人?

<今だ!>

 僕は横断した。赤信号ギリギリだ。

 後ろでクラクションが聞こえる。

<ほら、引っ掛かったでしょ>

 振り返ると、すぐ後ろに追ってが来ていた。

<やばい>

 僕は、全力疾走で走り抜ける。

 しかし、相手も早い。

 この先は、行き止まりになっている。

 僕は諦め、行き止まりの壁を背して振り返り、ファイティングポーズ。

 相手も止まり、僕との間合いを取る。

「私と一緒に来てもらおう」

「なぜだ」

「来てもらうと分かるさ、さ、来るんだ」

 話している間に、追っての数が揃っていた。

 僕は、逃げ道を探す。


 その時、ブーンという空気を切り裂く音と風が僕の真上から振りそそいだ。

 上を見上げると一人乗りのバイク型ドローン。

 操縦者は、黒兎のメットと身体にピチッと張り付いたような黒のライダースーツ。

 黒兎のコスプレの女の子だ。

「ほら、こっちよ」

 ドローンは、高度を下げる。

 僕はジャンプし、ドローンにブラ下がる。

 すると、高速で上昇し、その場を離れた。


「おいおいおい、何処に行くんだ!」

 少女に話掛ける。なあにとコスプレ兎の耳に手を当てる。

 お前の耳はそこじゃないだろと叫ぶが、プロペラの音で聞こえない。

 何やら手招きをしている。

 上に来いって言ってるらしい。

 僕は、ドローンによじ登り、少女の後ろに乗った。

 少女の腰に手を回そうとしたが、自動シートベルトで固定された。

 少女は、僕が落ちないことを確認すると微笑んで、前進した。

「ばーか」って聞こえたような気がした。  

<何処へ行くんだろう?この娘は誰?>

 今、考えてもしかたないな。この娘に任せるしかないし。

 郊外に出て、小高い丘の上に来ると、静かに下降した。

 丘のテッペンが、自動ドアの様に開いていく。

 これって、マジンガー○とか、古くはサンダー○ードで見たヤツでは。

 丘の中に入っていくと、天井が締められていった。

 ゆっくりと着地。

 プルペラが停まり、シートベルトが外された。


「お疲れ」

 メットを取るとサラッとした黒髪が流れるように零れ落ちる。

 言葉を忘れる程の美少女だ。

 実にカッコいくて似合っていた。

 その姿に見とれている僕に少女は「降りて」と冷たく言い放った。

 無表情で。


「こっち」と言うと先を歩いた。

 僕は、付いてくしかないので、後をおった。

 後ろ姿を改めて眺める。完璧なプロポーション。

「尻なんか見てんじゃねぇよ」

 少女は振り向きながら言った。

「見てないよ」

 僕は言ったが、実は見ていた。

 男と言うモノは自然とそこら辺に眼がいってしまうのだから。

 少女は、突き当りのドアの前で、セキュリティを解きと奥へと進んだ。


「連れてきたよ」

「お疲れさん」

 待っていたのは、白衣を着た博士みたいな男だった。

 歳は三十中ってとこで、天パで丸メガネでやせ形の長身。

 よく、アニメで女子に人気のあるキャラって感じ。

「君を待っていたよ。何万人に一人の逸材だからな」

<僕が?何のだ?>きょとんとしているとソファを勧められた。

 何か、科学の実験室みたいな所だ。

 実験器具が机上に並んでいる。

 ビーカーにお湯が沸いている。

「お茶でも」ビーカーのお湯をポットに注いだ。

 ティーカップを差し出された。

 博士は、ティーカップを手にして、僕の向かいのソファの背に腰をチョコンと乗せた。

「何だか分からないだろ。今説明しよう」と言うとティーカップを口は運んだ。


 僕が落ち着いた時に、博士は説明を始めた。

「君は狙われていたんだ。

 僕たちも君を狙っていて、こうやって君を手に入れた」

「狙われている?」

「君が特異体質だからだ」

「僕が特異体質だってどうしてわかったの?」

「政府は、全国民の遺伝子検査をしているだろ。それで、君がピックアップされたのさ」

 博士の表情が変わる、何かのスイッチが入った感じで、部屋を歩き回りながら話を続けた。

「では、何故、政府が遺伝子検査を必要としているかの社会的背景から話そう。

 それは、格差の問題だ。

 貧富の差は無くなっていない、むしろ広がっている。

 今後回復も期待できないだろう。

 法を作っているのが富裕層よ言われる上の人たちだからだ。

 富める者は富み、貧しい者は更に貧しくなる。

 あらゆる階級で搾取された残りカスが下に与えられるだけだった。

 金も力も教育も無い者が這い上がるのは、なかなか難しい問題だ。

 では、這い上がるのにタイパ、コスパいい方法はないのかと考えるのが当然。

 高収入な仕事……それは、やっぱり、危険な仕事。

 犯罪とか、ヤバいヤツだ。

 そして、他の者にない能力……特殊能力をつけるの事を考えた」

 博士は立ち止まり、話についてきているか僕の顔を覗き込む。

 僕は、わかっていると頷いた。

「話は変わるが、医療の進歩は凄まじく、病気を遺伝子レベルで治療するようになった。

 それは、理想の身体を手に入れることが出来るってこと。

 事故や病気で身体の失われた機能を補うため、機械を埋め込むインプラント技術も進んでいる。

 ここまでは、ちゃんとした人間の話。


 闇の医療は、もっと進んでいる。

 遺伝子デザインの技術が進み、試されているからだ。

 理想の身体を手に入れるための技術が暴走している。

 人間の能力を遥かに超えた超人間が生まれている。

 その特徴が眼で観てわかるようなキメラタイプ。

 サイコキネシスやテレパシーやテレポーションと言った超サイコタイプ。

 軍仕様の戦闘能力に優れた超人間が出来るってことだ。

 超人間になれば、お金が手に入るって事だ。

 底辺から這い上がれるってことだ。


 インプラントは、AIを使った高度なロボティクス技術により成り立っているし、手術も必要になる。

 遺伝子レベルの治療も研究費や安全性を確保するために時間と労力をかけている。

 つまり、手に入れるには高価になる。

 底辺で生きる者には手が出ない。


 ただ、遺伝子操作を目的としたウイルスは、手に入れる事が可能だ。

 既存のウイルスを真似た物や開発途中のウイルスや研究を途中でやめたモノなら手に入る。

 安い横流し物だからな。

 当然、闇の者から提供されているんだけど。

 当然、問題が無いわけではない。

 未知のウイルスだ。

 身体に適合しなかれば、それなりの障害が出る。

 死ぬかもしれないと言うことだ。


 それでもそのウイルスを使う者が現れている。

 底辺から這い上がろうとする者だ。

 許せないのは、それを提供する奴らだ。


 大金を稼ぎたいだろ。

 こんなクソ溜めみたいな所で一生暮らしたくないだろ。

 抜け出すためにウイルスを試さないかと誘惑する。

 その為、犯罪組織化が進んでいる。


 国も黙って見ているわけではない。

 身に着けた能力が、国の安寧秩序を妨げる能力と判断されたら捕まる。

 DMA鑑定で”人間ではない”と判定された者は、駆除される。

 そのための全国民を対象とした遺伝子検査だ。


 今では、自分のルーツって知ってる人は希少だ。

 知っているのは、富裕層の一族だけだ。

 変な遺伝子を子孫に残さないために血筋を保つている。

 純血ってヤツ。

 昔のドラキュラ映画みたいだけど、本当だ。

 彼らの遺伝子情報は管理しているんだ。

 だが、底辺の者たちは違う。

 私たちの親達は、遺伝子情報をたどる道筋を無くしてしまった。

 パンデミックを引き起こす病気対策とか、性や家制度を無くしてしまった。

 様々な欲求が、結果として遺伝子情報の迷宮化を推し進めてしまった。

 遺伝的な繋がりが絶たれ、個人のルーツが消滅してしまった。

 つまり、私たちの遺伝子情報は何らかの影響を受けているのだ。

 自分だけじゃないんだ、親や親の親が遺伝子改良を受けていたかなんて皆無だ。

 その後の結婚や養子で子孫の遺伝子に更に影響を与えたことは否定できない。

 個人の遺伝や病歴、ワクチン等の接種歴が正確に把握できない。

 遺伝子デザインをするには、データが足りない。

 予想と異なった特徴を持つ人間が生まれる危険をはらんでいるんだ。


 その中での君の存在は大きい。

 全国民遺伝子検査で、君が見つかって良かったよ。

 どんな遺伝子操作をしても、ある時間で元に戻る人間。

 そんな特異体質を持つ人間が君だ。

 君を追ってきたのは、闇の組織の連中だ。


 君の需要は計り知れない。

 研究で言えば、実験が効率よくできるって事さ。

 コスパがいいってこと。


 私もその分野の研究者だ。

 超人間を生み出す組織を排除するため、君の力が必要なんだ。

 一緒に戦おう」



「君のことは、調べがついているんだ。

 君は天涯孤独の身の上ってことも知ってる。

 ここに住めばいいさ。食事も提供する」

「私と一緒に住もう」と少女が僕の顔を覗き込む。

 思わず、頷いてしまった。

「やったー、部屋に案内するわ」と僕の手を取って部屋に案内された。

 申し分のない部屋だった。

 少女はその隣の部屋。申し分ない。

 少女と同じライダースーツに着替えさせられた。

 なんでも、どんな体型にもフィットするように作られていて、丈夫らしい。

 

 実験室兼居間に戻り、ソファに座り一休みしていた。


 その時、テレビにニュース速報が映し出された。

「蚊に刺されたようです……大きな蚊にです」

 タンカで人が運ばれていく。身体が赤く腫れている。

 カメラが空を写し、何かを探している。

 そして、羽の生えた人型を捕えた。その人型はゆっくりと地上に降り立った。

 その姿は、デカい蚊人間だった。

 降り立ったのは、銀行の真ん前。

 銀行に入っていくと行員を脅し、バッグに金を入れさせいる。

 止めに入ったガードマンを捕まえると、グサッと口を差し込み血を吸っている。

 誰も止められないようだ。


「行くよ!」

「行くって?」

「あなたが助けにいくのよ」

「僕がですか?」

「他に居ないでしょ、早く!」

 少女が走っていく、とりあえず追いかける僕。

 バイク型のドローンの後ろに乗せられ飛び立った。

「なんで、助けに行かなくちゃならないですかぁ」

「賞金がでるのよ。生きるためには、お金がいるでしょ」

 そういうことかと頷く僕。

「どうやって戦うの?」

「博士が研究した遺伝子操作カプセルが後ろのガチャマシーンに入ってるの。

 戦う時、ガチャを回して、出できたカプセルを飲むの。

 あなたは、変身してその身体を生かして戦うの。

 私はそれをレポートにして、博士に提出する」

「それって、生体実験じゃぁ」

「ごちゃごちゃ、うるさいなぁ。細かいこと言う男はモテないよ」

 その言葉は、僕の胸に刺さり、無言でドローンにしがみつくのであった。

 

 無事に現場に到着。

 既に警察も待機していた。

 ドローンから降りると、警察が少女を待ていたようだ。

「お疲れまでです。お願いします」と言ってパトカーの陰に身を置いた。

 相変わらず、蚊人間は暴れている。

「やってけるよ」

 少女は、ドローンの最後尾に備え付けられたいたガチャマシーンを指差した。

「えっ、どうするの?」

「ガチャを回すの、出てきたカプセルを飲むのよ」

 僕は恐る恐るガチャのハンドルを回す。

「何が出るかな、何が出るかな」つい口ずさんでしまう自分が嫌だった。

 そして、ガチャを回す、出できたのは。

「カ、カ、カエル」

 カプセルにはカエルの絵が描いてあった。

 とりあえず、カプセルを飲む。

 きっと何かの作戦に違いない。

 天才的な博士の考えることに間違いなんてあるはずがないはず……。

「えい」と僕は覚悟を決めて、カプセルを飲み込む。

 カエルだから、ビョーンと飛べるのでは……。

 そうそう、高く飛んで、上から攻撃できるってことか。

 そうだったら、ちょっとカッコいいんじゃない。


 あ、あれ?

 なんか身体がヌルヌルしてきた。

「なにやってるんだぁ!」蚊人間が、僕の前に立っていた。

 こんな脅しに負けるような僕ではないのだ。

「大人しくしろ!僕に勝つことが出来るかなケロ!」

 んっ、”ケロ”って、副作用?

「勝てるよ!」

 殴りかかってきた。パンチが当たる。

 ボヨヨン。

「お前、 柔らかくて、ヌルヌルして気持ち悪う」

 相手は、身震いをした。

 その時、僕は大きく口を開けた。そこから、すごいスピードで舌が伸び、相手を捕まえると、口の中に入ってきた。

「うわぁ」

 相手の叫び。

 僕の意志とは関係なく、相手は腹の中に入ってしまった。

 ゲップっと。

「えぇ、終わりケロ?勝ったケロ?」

「ご苦労さん、作戦終了よ」

 すると、警察が僕を取り囲んでいた。

「なになになに?」慌てる僕を取り囲んでいる。

 急に胸が悪くなった。悪いを飲み込んだ感じ。

 そして、ゲロった。

 カエルだけに……。

 口から出てきたのは、蚊人間の元の姿。

 ただのおっちゃん。

「金が、金が欲しかったんだぁ」と、土下座していた。

 警察がおっちゃんを連行していった。

 僕は、その姿を見送っていた。

「戻りましょ」少女は僕の肩を叩いた。

「キモッ」肩の上に置いた手を振るっている。

 少女を乗せたドロンが宙に浮く。

「僕も乗せてケロ?」

「カエルなんだから、跳んできたら」あっと言う間に飛んで行った。

「……わかったケロ」と、独り言をいいドローンの後を追った。


 僕は、やっとの思いで研究所に戻った。

 博士は、笑って迎えてくれた。

 部屋に入り、ソファに座ろうとした。

「ああ、君はこっち」といってスツールを差し出された。

「なるほど、まだ、僕はカエルだ」ってこと。

「よくやりましたね。最初はどうなることかと」と言いながら紅茶を差し出した。


「名前は、どうしょう。ヒーローなんだから、カッコいいヤツ欲しいねぇ」

「名付けて、ガチャマン!」少女が言う。

「えっ、ガッ○ャマンケロ?」

「ちゃうちゃう、それじゃなくガチャマンだ」

「何それ、なんかパクリっぽいケロ」

「商標とか法的に触れないヤツじゃないとな。ネットで募集しようか」


 ヒーローか。人の為になるんだ。

「あのさ、ヒーローって、登場する時、決め台詞ってのがあるケロ」

「そうね」提案がさらっと流されそうな雰囲気。

「絶体、欲しいケロ……」

「考えとく」流されたぁ。

「よろしく、お願するケロ」

「あと……」

「まだあるのぉ、薬、切れてるからケロって言わなくてもいいよ」

 僕は、手を見る。確かに身体が元の戻っている。

 これが僕の特殊能力かと、感心した。

「あのー、できれば、コスチュームも欲しいケロ……」

「考えておくって、うるさいなぁ」

 ヒーローなんだから、もっとやさしくしてくれてもと思う僕でした。

 ケロ。

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