第2話 蓋をして

生きていくということは日々理不尽と戦うことでもある。

まだ布団の中にいたいのに、母親に叩き起こされる。そもそも30を過ぎてもまだ母親の世話になっていることも母親にとっては理不尽なことだろう。

え?親にとっては子供はいつまでも子供だって?それ、毎日毎晩両親のため息を耳にしても言えるかい?

まあそんなことはいい。

くどくどと小言を聞きながら朝食のパンをかじり、逃げるように仕事に出かける。

僕の住んでいる地方の街ではマイカーが必須だ。当然通勤は自動車。

ギリギリに起きてギリギリに出勤すれば当然渋滞する。これは理不尽じゃないか。

前との車間が空くと強引に割り込んでくるやつがいる。そしてハザードを点滅させる。これはありがとうのサインらしく、割り込んだことはチャラにしろってこと。理不尽だ。ふざけんな!って思うけど、それを相手に伝えるすべはない。

怒りは行きどころがなく、押さえるしか無い。

会社に着く。

ギリギリで朝礼に間に合った。でも、うんざりするような部長の戯言につきあわされる。これ意味あるのか?始業時間前にくだらない話を聞いても金にならないぞ?

これも理不尽。不満は誰に伝えるすべもなく飲み込まれていく。

係長に呼ばれる。昨日頼んだことはできたのかと。朝からため息しかでない。

帰る前にお渡ししましたよね?そんなことは知らない。ではここにあるのはなんですか?おお!すまんすまん。

悪いの一言もない。理不尽。文句を言おうにもすでに他に声をかけていた。

行き場のない声は蓋をされてしまった。

昼食は同僚と近場の飯屋へ行く。

同僚の口から出るのは職場のぐちとため息ばかり。お前もつまらない人生だな。

生きてて良いことはあるのか?理不尽だけが僕の友達か?

こいつと飯を食ってもうまくないな。

昼休みが終わるので職場に戻る。

課長が係長を怒鳴ってる。ああ、これはよくない。

理不尽が僕に降りかかる前触れだ。

君!ちょっと来たまえ。

耳に蓋をする。

目に蓋をする。

頭に蓋をする。

わかってるかね?はい。

どうなんだね?はい。

なんとか言ったらどうだね?はい。


そして蓋は内圧に負けて吹き飛んだ。

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日記風のつぶやき オッサン @ossane

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