若さの秘密

天川裕司

若さの秘密

タイトル:(仮)若さの秘密



▼登場人物

●若井 健(わかい たける):男性。45歳。若年寄の印象。見た目は老けている。

●上司:男性。50代。健の会社での上司。一般的なイメージでお願いします。

●郡上(ぐじょう)ルリ子:女性。37歳。健の会社の部下。健と結婚する。割と美人。

●美杉(みすぎ)カレン:女性。27歳。健の会社の部下。高嶺の花程のかなりの美人。

●草葉 瞳(くさば ひとみ):女性。30~40代。健の理想と夢から生まれた生霊。


▼場所設定

●某IT企業:健達が働いている。都内にある一般的な商社のイメージでOKです。

●健の自宅:都内にある一般的なマンションのイメージでお願いします。

●カレンのアパート:こちらも都内にある一般的なものでOKです。

●カクテルバー:健がいつも行く飲み屋街にある。お洒落なカクテルバー。


▼アイテム

●Bastion of Youth:瞳が健に勧める特製のカクテル。これを飲むと心身的に若さを保てるようになり生活にメリハリがつく。でも欲望に走ってしまえばその身に不幸をもたらす(この辺りは瞳のセリフを含めニュアンスで描いてます)。


NAは若井 健でよろしくお願い致します。



イントロ〜


皆さんは老いた自分と若い自分、どちらが好きですか?

大抵の人が若い時の自分…と答えるでしょうか?

ですが人は歳をとってこそ味が出るもので

その人間性にも奥行きを持つ事ができ、

人生の歩み手としても一人前になってゆくと言うもの。

けれど多くの人は若さを追い求める傾向にあり、

それは特に男性より女性に強く見られる本音のようなものでしょうか。

今回は、そんな若さに取り憑かれた

ある男性にまつわる不思議なエピソード。



メインシナリオ〜


ト書き〈会社〉


俺の名前は若井 健。

今年で45歳を迎える独身サラリーマン。

この歳でまだ独身だ。


今は都内のIT企業で働いており、

何とか将来を明るいものにしようと改めて生活基盤を固め、

いつでも結婚できる準備を整えていた。


でも、そんな機会は全くない。


上司「あ〜若井君、今度の企画ぜひ頼むよ」


健「あ、はい分かりました」


上司「この前のミスを補う為にも、今度はしっかりやってくれよ、頼んだぞ」


健「あ、はい」


俺はこの会社で係長の座については居るが、

最近になって仕事はパッとせず、

どこかミスが目立つようにもなっていた。


若い時はこんな事もなく、それなりに周りの人からも期待され、

チヤホヤされて過ごした時期もあったのだ。

大抵の誰もが通る時期にあったんだろう。


でも歳をとるにつれ、俺は人より劣化が早かったんだろうか。

集中力が余り続かないようになり、物忘れも目立ち、

何より外見が昔に比べ、かなりおっさんになってしまった。


まぁ実力と外見は違うものだが、

俺にとってはその外見のほうが問題だった。


自分で言うのもなんだが、昔はそれなりにカッコよかった。

でも今は顔にシワが増え、若白髪も目立つようになり、

それに昔から薄毛でもあったからか、

最近は禿げる事にもかなりの不安を覚えていた。


健「はぁ。俺の人生、もう華やかな事なんて無いのかなぁ…」


若い時の自分にどうしても戻りたい。

また戻って、あの頃のような元気で活発な、

華やかな人生を送り直したい。


最近になり、俺はそんな事をつくづく思うようになって、

今の自分を呪いながら昔の自分を崇めてしまう…

そんなあり方にどうしても陥るようになってしまった。


ト書き〈仕事帰り〉


そしてその日の仕事帰り。

「お疲れ~」と言って会社を出、そのまま飲みに行く事にした。


もちろん1人だ。

もうここ数年間、俺の周りには人も寄り付かないようになってしまった。


そうしていつもの飲み屋街を歩いていた時…


健「ん、こんな店あったっけ?」


全く見た事のないカクテルバーがぽつんとあった。

新装開店でもしたのだろうか。

俺はこの現実から逃れたい思いで、

新しい場所に行ってみたい…なんて思いもあって、

その店に入り、カウンターにつき1人飲んでいた。


そうして10分程したとき背後から…


瞳「こんばんは、お1人ですか?もしよかったらご一緒しませんか?」


と女性が1人声をかけてきた。

彼女の名前は草葉 瞳さんと言った。


都内でメンタルヒーラーの仕事をしていたらしく、

こんな場所でも悩みを抱えてそうな人に声をかけ、

キャッチセールスのような事をしていたらしい。

その時、俺がその顧客に選ばれたのだ。


健「ハハ、悩みを抱えてるって、見ただけで分かるんですか?」


瞳「ええ。長年このお仕事をしておりますと、外見からその人の心のオーラが出ているのがよく分かり、そのオーラの色で悩みを抱えて居るか居ないか、その辺りの事も私には分かるようになったのです」


健「…へぇ」


最初は変な人だなぁなんて思って聞いていたが、

でも段々そうして居ると何となく不思議な気になり、

「もしかして彼女は昔から自分の事を知って居た人?」

なんて気持ちに次第にさせられてゆく。

これは不思議だった。


そしてまた不思議と彼女には恋愛感情が湧かず、

それより自分の事を聞いて欲しい・知って欲しい…

と言う思いのほうが遥かに膨らんで、

気づくと俺は今の自分の悩みを全て彼女に打ち明けていた。


健「ハハ、こんなこと初対面のあなたに言うのもなんですが、ほんと、最近はまいってるんです。若い時の自分に戻りたい…そうしてもう1度その時の華やかな自分をもってやり直してみたい…そんな気持ちになってしまって、今では仕事もプライベートの事もほとんど何も手につかず、その事ばかり繰り返し思ってるんです。…アッハハwすみません、どうも暗くなっちゃって、ハハwただの愚痴です。聞き流して下さいね」


俺は今の気持ちを包み隠さず全部話した。

とは言え、とても恥ずかしかった。


でも彼女は最初から最後まで、

真剣に俺の話を聴いてくれていた。

そして…


瞳「それは誰にでもある悩みだと思いますよ。あなただけじゃなく、他にもっと悩んでる人だってあるかもしれません。特にそういう悩みは女性の方に多いかと思いますが、今では男性の方も心のノスタルジーに浸る上、懐古主義なんかも手伝って、若かった時の自分の華やかさを追い求めるようになり、結局今から逃れるようにして、その若さの領域へと自分を連れて行こうとする人もあるようです」


健「はぁ…」(何となく聞いている)


瞳「良いでしょう。ここでこうしてお会いできたのも何かのご縁です。先ほどご紹介させて頂きました通り、私はメンタルヒーラーをその本業としております。今のあなたの心と未来、そして夢を助ける為にも、一肌脱ぐ形でご協力させて頂けますか?」


健「え?」


そう言って彼女は指をパチンと鳴らし、

そこのマスターに一杯のカクテルをオーダーして

それを俺に勧めた。


瞳「それは『Bastion of Youth』という特製のカクテルでして、それを飲めばきっとあなたの身も心も昔の若さを思い出し、きっと今の生活にもメリハリを与え、見違える程の元気を取り戻す事が出来るでしょう」


そして彼女はそんな訳の解らない事をいきなり言ってきた。


健「…は?何言ってるんですか?」


「そんな事ある筈ない」

「もしからかってるんならやめてください」

そんな事を俺は言ったが…


瞳「いいえ健さん。もし本気で夢を叶えようとするなら、まず自分を信じる事です。そしてその夢を叶えて差し上げようとしている私の言葉も信じるべきです。でなければ、あなたはおそらくいつまで経っても今のままで、生活に夢も張り合いも無く、このまま生涯を終えて行く事になるのではないでしょうか?」


瞳「どうせ、今の私の言葉を信じて一歩踏み出したとしても、今のあなたに失うものは何も無いでしょう?だったら信じてその気になって、勇気を出して夢を信じ、新たな一歩を踏み出してみる事こそが、よほど生産的な事ではないでしょうか?」


まぁこんな状態に俺があったからかもしれないが、

彼女は本当に不思議なオーラのようなものを持っている。


全く信じられない事でも彼女に言われると信じてしまい、

その気にさせられ、俺は今彼女が言ったその夢に

本気で一歩を踏み出す事になったのだ。

そう心を決める事が出来たのである。


そして俺はそのカクテルを手に取り、一気に飲み干した。


ト書き〈数日後〉


それから数日後。

俺の生活は本当に変わった。


ルリ子「わ、若井さん、私、あなたの事をこれまでずっと見て居たんです。それでその、もしよければですが、私と付き合って頂けませんか?」


あるとき会社の部下だった

郡上ルリ子さんという割と綺麗な女子社員から告白され、

それからあっと言う間に関係が深まり、

俺達は結婚の約束までする事が出来たのだ。


健「…信じられない。こんな展開になってくれるなんて…」


本当に信じられない事だった。

これまで1度もこんな事は無かったのに

あの瞳さんに言われてその気になり、

本気でその夢を追い駆け始めた途端、

俺にこんな転機がやってきてくれたのである。


ト書き〈カクテルバー〉


それから俺はまた1人であのカクテルバーへ行き、

そこで見つけた瞳さんの元へ駆け寄り、

あの時のお礼と今のこの自分の華やかな幸せを

全て彼女に伝え、とにかく彼女に感謝した。


健「本当に、本当にどうも有難うございます!あなたのお陰で僕、すっかり生活も人生も変わりましたよ!」


すると瞳さんも自分の事のように喜んでくれ、

俺とルリ子の将来を祝福してくれた。


そしてこの時1つだけアドバイスがてら、

俺に注意するべき事も教えてくれた。


瞳「本当におめでとうございます。あなたの幸せそうな顔を見ていると、私まで嬉しくなりますよ。でもこんな幸せな時こそ心の帯をしっかり締めて、あなたはそのルリ子さんとの幸せだけを見つめていかなければなりません」


瞳「私があなたをサポートさせて頂いたのは、飽くまであなたの幸せな未来を思っての事でした。だからその幸せを裏切らないようあなたには注意して頂き、今後の自分のあり方もちゃんと正していけるよう、しっかり道徳をわきまえるようにはして下さいね」


初め何の事を言われているのかよく解らなかったが、

とにかくルリ子との将来をしっかり見据え、

常識に則った上で生活をしっかり送ってゆく事…

ただそんな事を言われているようにだけ思えた。


健「あ、あははwそんな事、決まってるじゃないですかw今僕はやっと幸せを手にする事が出来たんですよ?ええ、それもあなたのお陰です。そんなあなたの心と、これまでして下さった事への感謝を裏切るなど、どうして僕が出来るんですかw」


そのとき口ではそう言っていたが、

でもどこかで俺は瞳の言葉を軽く受け取っていたのかもしれない。


ト書き〈トラブル〉


それから暫くして俺はルリ子と結婚し、

周りに祝福されて新しい家庭を持つようになった。

第2の人生の始まりである。


それまでステータスや器量・容姿、

自分の年齢の事を散々気にした俺ではあったが、

環境と人生の内容が変わった事で妙に心に余裕ができて、

必要以上の格好を気にする事もなくなり、

家の中でも外でも俺の行動には余裕が出てきた。


でも、そうした余裕に女性というのは惹かれるものか?

俺は以前に比べて少しずつモテるようになってしまい、

ルリ子と言う妻がありながら、

家の外では常に何人かの女性に取り囲まれるような

そんな生活を送るようになっていたのだ。

もちろんルリ子には内緒のままで。


そしてある時…


カレン「私、若井さんと奥さんとの生活を絶対邪魔しません。邪魔しませんから、週末だけでも良いから私と会って、私を愛してくれませんか!?」


社員の中でもかなり高嶺の花と言われていた

美杉カレンちゃんと言う女子社員に

俺は人目のつかない所へ連れて行かれ、そこでそのように告白された。

いわゆる愛人契約だ。


普通ならここでやめておけば良かったものを、

俺はそれまで若さを追い続けていたのもあったせいか、

当時の華やかな自分を思い出し、

「またモテ期が到来してくれた」

なんて浮かれてしまい、

「…ああ、こんな僕でよかったら」

なんて取って付けたようなダンディな声でOKしてしまった。


ト書き〈瞳が現れる〉


それからの週末。

俺は仕事と偽って、専業主婦になってくれたルリ子を騙し、

カレンが住むアパートへ定期的に身を寄せるようになり、

そこで愛の営みまでしてしまっていた。


カレン「私、あなたとこんな関係になれて本当に嬉しい。また来てね♪」


そしていつもの帰り道。

人になるべく見つからない為にもと

ワザと選んだ路地裏を歩いていた時。


瞳「こんばんは」


と、何の気配もしなかったのに

いきなり背後にバーで会った彼女・瞳が現れた。


健「うおわ!え!?あ、あなたは確か…」


瞳「フフ、暫くぶりです。もう私の顔を忘れちゃったかしら?」


彼女はうすら笑みを浮かべていたが、

何となく俺を責めてくるようなそんな鋭さも見せてきたので、

俺は驚かされたのもあり少し腹立たしくなって…


健「な、何ですかアンタ!いきなり現れたりして!も、もしかして僕の事、ずっと付けてきたんですか!?」


と俺は声を荒らげて彼女を責めた。

でも彼女は一切その姿勢を崩さず…


瞳「健さん。あなた、私との約束を破りましたねぇ?あれだけルリ子さんとの幸せだけをまっすぐ見つめて、非常識な事はしないようにと言っておいたのに。その非常識な事と言うのは背徳的な事です。そう、今あなたがあのカレンとか言う女性のアパートで、してきたような事ですよ」


健「…え?」


そのとき俺はビビッてしまった。

なぜ今目の前に居るこの彼女が、カレンと俺との関係を知っていたのか。

それにそのカレンとしてきた事も

まるで実際見てきたかのように俺に言ってくる。


この時、俺は瞳に全てを見透かされているような

そんな気がした。


でも俺は瞳の事を「ただの変質者」だと決めつけ、

彼女を振り払い、無視してそこを立ち去ろうとした。

でもそのすれ違いざま、彼女は俺に忠告してきた。

これが最後の忠告だと言う。


瞳「健さん。もう1度だけ言います。人間だからつい過ちを犯してしまう事はあるでしょうから、今回の事は大目に見て、これからのあなたの行動にだけ注目し、助言させて頂きますね」


瞳「あなたは今後、2度とカレンさんのアパートへ行ってはなりません。そんな事はこれを機会にすっぱりやめる事です。でなければ、あなたの身にとんでもない不幸が訪れるでしょう。…明るい未来どころか、絶対経験したくないような未来が訪れる…と言う事です」


彼女は静かにそう言ったが、俺はやっぱり無視して

そこを静かに立ち去った。


ト書き〈オチ〉


そして俺はその次の週末もカレンのアパートへ来ていた。

そしていつものように一緒に夕食を食べ、シャワーを浴び、

さぁこれから営みをしようとしていたところ…


カレン「ねぇ健さん、まだシャワー終わらないの?私待ってるのよ♪」


そう言って、

ずっと浴室から出てこない俺を心配したカレンは

ベッドからネグリジェのまま起き上がり、

浴室のドアを開け中を見た。


カレン「き、きゃああぁあ!」


そこでカレンが見たものは、なんと胎児にまで返った俺の姿。

「ミ〜ミ〜」と小さく泣いていたようで、

そこは母の胎内ではなく外気に触れていた事もあり、

俺はその後すぐにこの世を去る事になるのだろう。


ト書き〈カレンのアパートを外から眺めながら〉


瞳「あれだけ言ったのに、やっぱり来てしまったのね。ほんと、人間の欲望ってのは自滅・破滅を前にしてもそれに突き進み、未来を犠牲にする程の無謀なものなのよね」


瞳「私は健の『どうしても華やかなりし若かった時に戻りたい』と言う理想と欲望から生まれた生霊。その夢を叶える為だけに現れた。」


瞳「でもその夢や理想から一歩外れて進んでしまえば、その夢は欲望そのものに成り代わり、その人に破滅をもたらす事がある。健はまさにその人生を歩んだようね。あのとき言った通り、あなたの身には不幸が訪れた。せめてその不幸をあなたの希望になぞらえて、若返らせてあげたわ」


瞳「フフ、でも胎児にまで若返っちゃうなんて、若くなり過ぎると言うのも果たして怖いものよねぇ。さぁ、そろそろ私も消えるとするかな。健、あなたは今こそこれまでの自分のしてきた事を反省しなさい。と言っても、胎児の状態でそれが出来るかしらね…」


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=oeSf9BnYL_U&t=66s

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若さの秘密 天川裕司 @tenkawayuji

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