第2話 魔王の細工

「ハメられたって、どういうことですか?」

 魔王さまは珍しいことに、かすかながら憂鬱そうな表情を浮かべた。

「あのゾロドイという戦士は“龍殺し”、つまりドラゴンスレイヤーとして有名な男だ。クラスSの冒険者だが、シャイマーヌ領の戦士団長に迎えられていたとは知らなかった。あの男が出てきたということは、この依頼が見た目通りのものではないことを示している」


 私は首をかしげた。

「有名なドラゴンスレイヤーが出てきたのが、まずいのですか?」

 魔王さまはうなずいた。

「私の記憶では、ゾロドイがこれまで下したドラゴンは7体。あまり知られていないが、実はそのすべての闘いで同行した魔法使いが死んでいる」

「魔法使いが?」

 私は息を飲んだ。

「そうだ。通常、魔法使いは後衛に配されるが、ドラゴンは前衛の楯役や戦士をスルーして真っ先に魔法使いを殺している」

「どういうことでしょうか?」

「私の推測だが、死んだ魔法使いたちは何らかの形でおとりにされたのだと思う」

 それでは、この討伐は断るしかないだろう。


 私がそう言うと、魔王さまは首を振った。

「いや、討伐には予定通り参加しよう。シャイマーヌ侯爵はそんなカラクリがあるとは知らないようだから、下手に断ると関係にヒビが入りかねない。少なくともゾロドイの手口に気づいている分、我々にはアドバンテージがある。むしろ一気に結着をつけて、禍根を絶ったほうがいい」

 そこでだ、と魔王さまは私に向き直った。

「君は私から離れて距離をおき、ゾロドイの挙動を監視しろ。妙な動きがあれば、躊躇せず奴を背中から撃て。たとえ私が死にかけていても、気にせずにな」

 魔王さまの指示に私はそっとうなずいた。


 翌朝、私たちを含めたドラゴン討伐隊は領主館の前に集合し、数台の馬車に分乗して出発した。

 デュガリア山麓までは約半日。街道を外れた頃から路面が荒れ、振動が激しくなった。

 魔王さまは私の隣に座ってじっと瞑目していた。

 一見、寝ているようだが、実は違う。

 使役している精霊に何かを探らせているのだ。


 まもなく目的地という時点で、魔王さまは目を見開いた。

 私のほうを見ることなく、頭の中に魔王さま声が響いた。通常は遠隔地と通信手段である遠話で隣の私に話しかけているのだ。

「ゾロドイのやり口がわかった。おそらくは魔道具だ」

「どんな魔道具ですか?」

「魔物に魔力を渇望させる魔道具だ。それを使うと魔力持ち、すなわち魔法使いへと魔物を誘導できる。魔法使いを強制的におとりにして、ドラゴンの隙をついて討ち取ったのだろう」


「…どうやって防ぎますか?」

 魔王さまはうつむいたまま薄く微笑みを浮かべた。

「もう対処は終えた。精霊に魔道具を形ばかりの偽物に取り替えてもらった。これでもうドルゾイのカラクリは発動しない。細工は流々仕上げをごろうじろ、だ」

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理外の理~死せる魔王の思い出 zenzen @zenzenji

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