第2章 ドラゴン討伐

第1話 魔王への依頼

 日々、私たちは魔王領の統治に忙しかったが、辺境ならではののんびりした空気が漂っており、冥王庁勤めのときのような時間に追われる場面はあまりなかった。

 食事も三食をきちんと摂り、夜もしっかり就寝する。

 おかげで魔王さまも私も体調が良く、気分よく暮らすことができた。


 しかし、ある日届いた書状で事態は一変した。

 書状は隣接した貴族領の領主からのもので、ただならぬ内容が記されていた。


「書状によると、シャイマーヌ領の北部に位置するデュガリア山麓にドラゴンが棲みついたそうだ。その討伐の依頼だ」

 魔王さまの言葉を聞いて、私は自分の顔がこわばるのがわかった。

「ドラゴンって…無理です、断りましょう」

 魔王さまはタバコの煙を吐いた。

「まあ、待て。我々だけで討伐しろ、というわけではない。シャイマーヌ領の戦士たちが中心になって当たるから、我々はそのお手伝いというわけだ」


私 は少し落ち着いたが、やはり不安は消えない。

「しかし、それでもドラゴンですよ。生きて帰れるとは限らないでしょう」

 魔王さまは微笑んだ。

「書状に書いてある特徴から見て、どうやら相手は単体のレッドドラゴンのようだ。群れならともかく、1体なら最悪の場合でも、苦労はするだろうが私単独で倒せる」

 それにな、と魔王さまは続けた。

「棲みついたのがデュガリア山麓なら、レッドドラゴンの狩場にはおそらくこの魔王領の一部も含まれる。領民の保護の観点から放置できないし、少なくない報奨金も頂戴できるというわけだ」

 魔王さまの意志は揺るがず、ほどなく私は説き伏せられた。


 翌朝、馬車を仕立てて出発し、1日の行程で隣領の領主館に着いた。

 領主のシャイマーヌ侯爵は、気弱そうな笑みを浮かべた善良そうな人物だった。

「このたびは私どもの要請にお応えいただき、心より感謝しております。名高い魔王さまにご出馬いただければ、討伐はもはや成ったも同然でしょう」

 私は内心うろたえた。これでは討伐の主役が我々のようではないか。

 慌てる私を尻目に魔王さまは平然と答えた。

「いやいや、微力ながらお役に立てれば幸いです。それでは、討伐の中心となられる戦士の皆さまにお引き合わせいただきましょうか」


 応接間に入って来たシャイマーヌ領の戦士団は、屈強な勇士たちぞろいだった。

 ひときわ大柄のマッチョで、顔が刀傷だらけの中年男が進み出る。

「お初にお目かかる。シャイマーヌ戦士団の団長を務めるゾロドイだ。音に聞こえた魔王閣下とともに闘えるとあって光栄に思っている」

 魔王さまの身長はゾロドイの肩ほど。体の厚みも半分ほどしかない。

 まるで大人と子どものような体格差だったが、魔王さまは気にかけた様子もなく、よく響く声で答えた。

「あなたが“龍殺し”のゾロドイ殿か。闘いぶりを拝見しよう」


 領主館に一泊して、翌朝デュガリア山麓に向かうことになった。

 客間に通されて二人きりになったら、魔王さまが小声で聞き捨てならない言葉を発した。

「まずいな。どうやら我々はハメられたようだ」

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