第2話 私の名はサタ
『──契約だ』
「契約?」
『そうだ。ここで終わりたくないのだろう。ならば、私の力を貸してやる。』
そう、これは契約。私をこの
無論、勇者に憧れている彼にはこの事を明かさない。
「お前が何者なのか知らないが、力を得る代わりに俺は何をすればいい?」
私が彼を気に入った──いや、選んだ理由は二つある。ひとつは、
まあ、持っているのはあくまでも気構え。実際に窮地を脱することができるかは別だが。
『貴様には
彼を突き動かすための
「魔王に封印された……? まさか、お前は──」
『私は、500年前
これも
──500年前、勇敢にも魔王に挑んだ、死なずの勇者。幾度殺されようとも傷を修復させ復活を果たす
という、作り話。彼には勇者を救う勇者になってもらう。
以上の
「いいだろう、承諾した。お前を救ってやる」
眼鏡を光らせながら、思惑通りの答えを返してくれた。
ひとつ気になるとすれば、
ともあれ、契約は結ばれた。言葉遣いという些細な点ではあるが、予想外に飽きさせぬ人間であることは喜ばしい。同じ道を歩む内は、私の想像を超える活躍を期待するとしよう。
「しかし……魔王にバラバラにされたと言ったな」
『そうだ』
「五体満足に見えるが?」
少年の目には確かに、見目麗しく可憐な
『それは私が見せている幻覚にすぎない。アレのまま会話すると余りにも寂しい絵面になってしまう』
幻が指差す奥には炭化したような右手がポツリと置いてあった。
「あれが本体か」
さも真の姿のように言われると少し言い返したくなるが、あれが今の私だ。回復能力を削がれ、
『さあ、手に触れろ。お前に力の一端を渡す』
封印が弱まった手をもぞっと動かす。
「……」
……
「触れたぞ」
いつの間にか彼は私の手を握っていた。
言い忘れていた。私が彼を選んだ理由の二つ目は──才が無くとも失くすことのない、覚悟の強さ。
500年ぶりに手に戻る感触。
思わず幻越しに微笑む。
──瞬間、封印内に
全ての時が止まったかのような白い空間で、私は彼に身を寄せ、耳打ちをする。とうの昔に捨てた名を。
『私の名はサタ。契約成立よ』
不意に口調が崩れてしまったが、仕方ない。
勇者になろう ~元魔王と文学少年~ @kanozi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。勇者になろう ~元魔王と文学少年~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
近況ノート
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます